他の異世界転移者(謎行動です)
霧ヶ峰先輩が自身の能力を明かした後、真剣な眼差しを俺たちに向けてきた。
「お前たちに話しておきたいことがある。ここで話すのも何だし、場所を変えようか」
※※※
俺たちは酒場を出て、ギルドの近くにある喫茶店に赴いていた。
座り心地はそれほど良くないが、どこか落ち着く革製のソファに座りながら、各々が飲み物を注文したところで霧ヶ峰先輩が話を切り出した。
「お前たちに協力してほしいことがあるんだ」
「協力って、さっき言ってた問題を起こす転移者関係ですか......?」
「あぁ、そうだ。実は、最近問題が確認された転移者がいる」
その言葉に思わず身を乗り出しそうになった。
ラティも眉をひそめ、タカシは珍しく口を閉じている。
「名前は権田川茂。四十代前半の男だ」
「……ごんだがわ?」
タカシが首をかしげる。
「変わった名前だな。それに、こっちの世界にも色々な年代の人間が飛ばされるのか」
霧ヶ峰は気にした様子もなく続けた。
「能力は透明化。本来なら、隠密行動や諜報活動に使えば、一流のスパイになれるほどの力だ」
俺たちの背筋に冷たいものが走る。
透明になれる転移者……それは確かに、敵に回せば危険すぎる力だ。
「だが、そいつがちょっと厄介な問題を起こしていてな」
霧ヶ峰は一度言葉を区切り、苦々しい表情で吐き捨てた。
「……下着泥棒だ」
「……はい?」
一同が完全に固まった。
タカシが先に崩れる。
「ちょ、待て待て待て! スパイでも暗殺でもなくて、パンツ!?」
「能力の無駄遣いにもほどがあるだろ……」
俺も思わず頭を抱える。
ラティはあきれ顔で「……最低」と一言。
霧ヶ峰はため息をついた。
「俺も初めて聞いたときは信じられなかった。だが、事実だ」
ただ、バカみたいな話なのに透明化という力がそこに絡むと、妙にシャレにならない気もする。
下着泥棒ごときで済めばいいが、被害が拡大すれば冗談では済まない。
「……つまり、そういう転移者がいる時点で危険なんですね」
「そういうことだ。たとえ小さな問題と言えど、能力者を放置すれば被害は広がるし、大きな問題に繋がる可能性だってある」
霧ヶ峰の言葉に、俺たちは顔を見合わせたが、少し間を空けてタカシが霧ヶ峰先輩にある疑問をぶつけた。
「てか、なんで俺たちに協力してほしいって頼んできたの?俺たち、エアコンほど強くないよ?」
「いや、下着泥棒の思考を読み解くのはタカシが得意そうだと思ったからだ」
「え......理由ってそれだけですか?」
「あぁ、俺は下着泥棒の心理なんてさっぱり分からん。こういう時は有識者に協力を仰ぐのが最適解だと思ったんだ」
「いや!!俺、下着泥棒なんてしたことねーよ!!せっかくエアコンに頼られて気分良くなってたのに!最悪だよ、マジで!」
久々に会ったから忘れていたが、この人は少し、いや、だいぶズレてるんだよな......。
これがこの人の唯一の欠点であり……最大の弱点なんだよ。
「あぁ、何だよ。お前やったこと無いのか。俺の読みが少し外れたな」
「あのー、先輩。”少し”じゃなくて、”かなり”外れてると思いますよ......。俺もいくらコイツがアホだからと言って軽犯罪に手を出すような奴では無いと思います......」
「そうか、俺の思い過ごしだったか。まぁ良い、たとえタカシが下着泥棒をしたことが無くても、協力してもらえると助かるんだが、どうかな?」
「まぁ、俺たちもソウタがいなくなって暇してたし、協力してやってもいいんじゃねーの?なぁ?シンヤ」
コイツ、俺に判断を委ねやがった。
正直、俺たちのスキルで太刀打ちできるかどうかは分からんが、先輩がいるのであれば何とかなりそうな感じはするんだよな。
色々思案していると、ラティが突然立ち上がり、俺とタカシの方を向いてこう言ってきた。
「あんた達、やるわよ!とっ捕まえて下着泥棒をボコボコにするわよ!」
「え......急にどうした?何でお前はそんなに張り切ってるんだ?」
「女として女として、そんな狡いことするやつは許せないのよ!しかも!私よりも強力な能力を持っておきながら、そんなことに使うとか......考えるだけで腹が立ってくるわよ!!」
お、おう......。そうか......。なんかコイツが張り切ってる姿を久々に見た気がする。
まぁ、そういうことなら答えは決まってるよな。
「先輩、俺たちも協力させてください」




