エアコン登場です(家電ではありません)
「鎮まれ......」
その一言で、酒場の物騒な雰囲気を一瞬にして切り裂いた。
言い合いをしていた店主と客の体は動かなくなり、不自然なほどに口角が吊り上がっていて喋ることが出来なくなっていた。
ゆっくり声の主へと体を向けると、そこには見覚えのある人物が立っていた。
「えっ......」
あまりに突然の出来事で、俺から思わず情けない声がこぼれ出てしまう。
身長は俺よりも少し高い、おそらく百八十センチは超えているだろう。
クールな雰囲気を醸し出し、切れ長の目が印象的な顔立ち。
そして、俺たちと同じ学ランを来たその人は、俺たちが通っていた高校の長といっても過言ではない絶対的な存在、霧ヶ峰京介前生徒会長だった。
「お、シンヤとタカシ!久しいな!こんなところでまた会えるとは!」
「霧ヶ峰先輩......」
まさか、こんなところでまた会えるとは......。
こっちの世界に来てから約三か月、もう高校の奴らとは会えないと思っていた。もちろん、こっちの世界にも良い奴らは多い。でも、やっぱり元居た世界の奴は、妙に安心感があった。
謎の緊張感から解放されたのか、思わず俺は泣きそうになってしまった。
タカシも相当驚いたのだろう、しばらく声が出なかったが、少し間が空いた後、体内に空気でも溜めていたのか、バカみたいにでかい声が酒場中に響く。
「う、うぇぇぇぇ!!エアコンじゃん!!!なんで居んの!?」
「その呼び方やめろ!!俺は霧ヶ峰京介という名があるんだよ!!お前らがいたアホ連中の集まっていたクラスの奴らがそう呼ぶから、学校中でそう呼ばれるようになってしまったんだぞ!!」
不意に放たれた言葉の右ストレートが霧ヶ峰先輩にクリーンヒットする。
そのせいか、霧ヶ峰先輩の顔は若干赤くなっていた。
「あんた!エアコンっていう名前なのね!名前も名乗らずに立ち去っちゃったから気になってたのよ!」
「あぁ、ラティさんか!久しいな!いや!!エアコンではない!!俺は霧ヶ峰京介だ!!」
霧ヶ峰先輩がすかさずエアコンワードに指摘を入れ、一息ついて再び話し出す。
「実は、君に名を伝える前に急ぎの用事が出来てしまってな。すぐにあの場を発たなければならなかったんだ」
タカシと霧ヶ峰先輩の会話に、ラティが横から入ってきた。
「え、ラティ。お前って霧ヶ峰先輩のこと知ってたっけ?」
思わず俺はラティに訊ねる。
「知ってるも何も、私にタピオカを教えてくれたのはこの人だし」
え、ラティに色々吹き込んでいた人って、霧ヶ峰先輩だったのか......。
「あ!そういえば!私たちタピオカ屋を開いてみたのよ!結構人気も出たのよ!営業許可証を出すの忘れちゃって、撤去されちゃったけどね......」
「え?こっちの世界でも人気出たんだ!面白いねそれ!他にも日本で流行ってたものをこっちでやってみると人気出そうだな.......。というより、営業許可証忘れるって、お前たちらしいな」
「そうそう!でさ!前にエアコンが言ってた日本で流行ってた食べ物も気になってたのよ!えーっと、名前はなんて言ってたっけ......?そう!マリトッツォだわ!あれってどうやって作るのかしら!?」
「あぁ!あれはだな!......。」
ダメだ、完全に二人のペースになっていて俺たちの入る余地はない。
……はい、感動ムード終了。




