俺たちは天才を殺した
リオンを保護した俺たちは、まず一息つくために地下フロアの片隅に腰を下ろしていた。
床には散乱した資料が山のように積み上がり、リオンはその中心でまだ一枚の古びた紙を名残惜しそうに眺めている。
「なぁリオン。お前、なんでこんな危ねぇ場所に一人で入り込んだんだよ」
「アホ面には関係ないだろ.....。ほっとけよ」
タカシが腕を組んで尋ねると、リオンは反射的に言い返したものの、すぐに視線を落とした。その表情には、どこか言葉にしきれない焦りと決意が混じっている。
「リオン、何でここに来たか話してくれないかい?僕たちなら君の力になれるかもしれない」
「まぁ、ソウタさんが言うなら……。父さんが言ってたんです。旧研究施設には、現代ではまだ解明されていない“魔力制御式”の原型が残っているって」
リオンの声は小さいが、その瞳は真っ直ぐだった。
「それを……解明すれば、父さんに認めてもらえると思ったんです」
そこで、ラティが眉をひそめる。
「それで一人で潜り込むなんて……バカじゃないの?危うく魔物に食べられるところだったのよ」
「おばさん、ここにいた魔物は僕が全部消したよ。厳密に言えば、転移させたっていう方が正しいかな」
リオンは涼しげな顔で答えて見せた。
「消したって......。ここにいた魔物をすべて消したわけ!?あと、私のことをおばさんっていうのはやめなさいよ!」
「あぁ、そうだよ」
なるほど。床にやたらと魔方陣が張られていた理由はこれだったのか。
コイツ、俺たちより年下なのに強いじゃねーかよ。今までの異世界生活が虚しくなってきたんだが......。あと、ラティのおばさん呼びはスルーするんだな。
「それより、父さんに認められたかったっていうのはどういうこと?」
ソウタが話を元に戻した。
「父さん、僕のこと、いつも子ども扱いしかしなくて……。僕だって、ちゃんとやれるって証明したかったんです」
なるほどな……。
なんか一気にしんみりしたけど、こういうところは年相応ってやつか。
「……でさ、そもそもどうして父親にここにいるのがバレたんだ?」
俺が尋ねると、リオンはさらっと言った。
「置手紙で“旧研究施設で資料を調べてくる”って書いてきたので」
「いや書いたのかよ!!」
タカシが即座にツッコむ。
「そりゃバレるに決まってるだろ……」
俺も呆れつつ突っ込みたくなったが、リオンはケロッとしている。
「だって、僕の行動を父さんに隠す必要はないし」
「何でそこを素直に明かすのよ!というより、そもそも一人でこんな場所に来ちゃ駄目よ!」
ラティが両手を腰に当てて怒ると、リオンは小さく「そうだね」とだけ呟いた。
そのやり取りを横目に、ソウタはリオンが読んでいた資料を拾い上げ、ページをめくる。
「この研究資料、確かに面白いね。魔力制御式の基礎理論が現代の主流と全然違う……応用できたら革命が起こるレベルかもしれない」
その一言で、リオンの瞳は再び輝きを取り戻した。
「ですよね!? 僕もそう思ってて……この式を応用すれば、魔力効率は――」
また始まった。
俺とタカシとラティは完全に蚊帳の外だ。
「……なぁ」
俺はタカシの方を向く。
「俺たち、なんでこの天才と一緒にいるんだろうな」
「知らねぇよ……でも時々思うんだけどさ、ソウタは俺たちとつるんでいなければ、何かしらの革命的な開発を創り出してたと思うんだよな」
「なるほど、俺たちは天才を殺したわけか。でもそんなことは知らねーよな!俺は今が楽しければ何でもいいんだよ!」
相変わらず傲慢で自分勝手な考えだが、それは俺も同意見だ。
ソウタと親友で良かったよ。




