深淵はあなたを覗いている(クソ生意気ガキの登場です)
懐中電灯の光が闇を切り裂き、その奥を照らした瞬間、俺たちは息を呑んだ。
そこには、一人の少年が床に座り込み、資料を夢中になって読み漁っていた。
見た感じ、小学校高学年くらいの年齢っぽいな。眼鏡をかけていて、知的な雰囲気を漂わせている。
ソウタが使っているものと同じ型の懐中電灯を片手に、棚に並ぶ古びた書類を片っ端から引き抜き、熱心にページをめくっていた。
少年の周囲には、すでに読み終わったと思しき資料が散乱しており、足の踏み場もないほどだ。
それでも本人はまったく気にする様子もなく、完全に没頭している。
「……おーい、君がリオン君かな?」
ラティがそっと声をかけるが、少年はまるで耳に届いていないかのように反応しない。
「ちょっと……返事くらいしなさいよ!」
ラティが眉をひそめて少年に近づき、恐る恐るその肩に手を伸ばした、その瞬間だった。
「あぁ?おばさん誰?うるさいよ」
ラティの手に気づいた少年は、ゆっくり顔を上げ、しっかり目を合わせてそう言った。
その一言で、空気が凍りつく。
「……え?おば……さん?」
ラティの顔から血の気が引いていくのが、ライト越しにもはっきりわかった。
俺の後ろでは、タカシが肩を震わせながら笑いをこらえているし、ソウタは静かに目を逸らしていた。
「……ちょ、ちょっとシンヤ……。この子……今……なんて言ったのかしら……?」
「……聞かなかったことにしとけ。たぶん夢でも見てるんだよ」
俺のフォローもむなしく、ラティはがっくりと肩を落としたが、もう一度訊ねる。
「えーっと……もう一度聞くわよ?あなたがリオン君?」
「そうだけど。それよりおばさん誰?」
二撃目が直撃した。ラティの精神力がゴリゴリ削られていくのがわかる。
「ガハハハッ!ラティ、お前、おばさんって言われてるぞ!同情するぜほんとに!ガハハハッ!」
タカシがとうとう我慢できずに大声で笑い出した。
「そこのアホ面の人、うるさいよ。今集中してるから黙ってて」
リオンはタカシを一瞥しただけで、さらっと言い放つ。
「え……アホ面って……俺のこと……?」
「そう。僕の推測だと、あんた相当なバカでしょ」
「え、えぇ……。シンヤ、俺ってそんなにアホ面か……?」
ラティに関しては同情するが、お前の場合は事実だから否定しないぞ。
「あぁ、お前はアホ面だ。これに関してはこの少年が正しい」
俺がそう言うと、タカシは魂が抜けたようにラティの後ろで体育座りした。
まぁ色々あったけど、とりあえずこの少年がリオンで間違いなさそうだ。
というより、毎度毎度、なぜ俺たちが引き受ける依頼は変人しか出てこないんだ......。
この世界の人間のバランス調整ミスってるぞ、女神さんよ......。




