廃人不可避ルート(本編再始動です)
気づけば、あの結婚式から一か月が経とうとしていた。
その後の俺たちはというと、実に自堕落な生活を送っていた。
タカシは相変わらず新しいことに手を出しては三日坊主を連発し、極めつけは「道端の石を収集する」という謎の趣味を始めたが、それも一日で飽きたらしい。
ソウタはといえば、アルのマスコット化計画に全力投球中で、事業計画書の試作品らしき紙束がゴミ箱から山のように出てくる。本人はどうしても「アルで一儲けしたい」らしいが、現実はなかなか厳しそうだ。
ラティは料理の腕を磨こうと努力中……なのだが、独学では限界を感じたらしく、最近はギルド近くの料理教室に通い始めた。ちなみに、成果はまだ出ていない。
俺はというと、グランメル地区の街中をくまなく散策していた。暇だったし、街を知っておけば後々何かの役に立つと思ったからだ。
街はずれの飲み屋街には昼間から大ジョッキを片手に大騒ぎする飲んだくれがたむろし、かと思えば、前に訪れた貴族街は相変わらずキラキラしている。デッキテラスでは貴婦人たちが紅茶を片手に世間話を楽しんでおり、色々な面を見せてくれる街だと改めて実感する。
そんな日々を続けているうちに、俺たちは完全に暇を持て余すようになっていた。
朝起きて、飯を食って、ダラダラして、気が向いたら街をぶらつく。
そんな生活を一か月近く続けていたせいで、最近は危機感すら覚えてきた。
冒険者という職業柄、自分で動かないと稼ぎもないし、かといって貯金が潤沢なわけでもない。このまま一生、自堕落ニート生活を満喫する未来が見えかけている。
俺はソファでゴロゴロしているタカシと机で何か書いているソウタ、台所でレシピ本を睨んでいるラティを見回し、決意を固めた。
「なぁ、そろそろギルド行かないか?」
唐突に声を上げた俺に、三人が同時に首を傾げる。
「何だよシンヤ、お前金欠か?金のかからない趣味でも見つけろよ」
金のかからない趣味は良いことだと思うが、一日で石ころ収集をやめたお前にだけは言われたくない。
「いや、金欠とかではないが、このままだと俺たち廃人になる気がするんだよ...」
「廃人って、私は廃人にはならないわよ!料理だって作り続けてるし!」
料理に謎の信頼を寄せているラティがそこにはいた。
「でもリフレッシュで何か依頼を受けてみるのは良いかもね。僕もちょっと行き詰ってたところだし」
ギルドの依頼をワーケーション感覚で受けようとしているソウタに少し危機感を感じたが、ギルドに行くことに賛成してくれたのはありがたい。
「まぁ俺も最近暇してたからなー。そろそろ働いてみてもいいかもしれねーな」
「え、皆行くの?えーっと...じゃあ私も行こうかな~」
いや他の奴に合わせるのかよ。
そんなことを言いつつ、俺たちは重い腰を上げてギルドへ向かうことになった。
※※※
1時間ほどで身支度を整えた俺たちはギルドに向かい、依頼が掲示されているダッシュボードの前に立っていた。
討伐から要人の護衛、物資の調達など様々な依頼が掲示されており、そこら辺のデパートよりも品ぞろえは豊富な印象を受ける。
どの依頼を引き受けようか迷っている最中、ギルドの受付嬢であるミレイが俺たちに声を掛けてきた。
「皆さん!ちょうどいいところに!」
受付嬢ミレイは、普段のおっとりした雰囲気とは打って変わって、焦った表情で駆け寄ってきた。
「実は皆さんに早急に引き受けていただきたい依頼がありまして...」
「急な依頼って、どんな内容なんですか?」
「それがですね......」
この時の俺たちは、まだ知らなかった。
これが、後に「魔導実験室事件」と呼ばれる大騒動の始まりだということを。




