セール品から始まる冒険譚
街の屋台で散財した俺らは、本来の目的である服屋を探していた。
俺らの手持ちでまともな服が買えないのは分かってる。しかし、ひょっとするとユ〇クロのようなリーズナブルで高性能な服を扱っている良心的な店があるんじゃないかと期待もしていた。
しばらく歩いて、俺らはポツンと佇む服屋を見つけた。
「…ここが、服屋?」
俺たちは、街の大通りから一本入った通りの前で立ち尽くしていた。
建物の壁には「装束と防具の専門店★冒険初心者歓迎!!」と書かれた看板。その下にはスライムの剥製が吊るされている。
これで店に入る初心者冒険者はいないだろ。
俺たちを除いて。
「なんか、めっちゃ禍々《まがまが》しいんだけど…」
「逆に興味出てきたわ!」
タカシが勢いよく扉を押し開けた。
――カランコロン
中は、想像以上にカオスだった。
金ピカのトゲ付きローブ(1800ゼル)
透け透けの魔女風ドレス(1700ゼル)
つま先が30cmくらいあるブーツ(1200ゼル)
「いやいやいや!まともな服が一着もないんだけど!?」
「何この“異世界のハロウィン衣装専門店”感……」
俺とソウタは軽く頭を抱えるが、タカシは「見てコレ!爆炎の戦士セット!」と目を輝かせていた。
お前、絶対着る気だったろ。ちなみに、価格は6万ゼル。
「...ねぇ、あれ見てよ...」
ソウタが指さした先。
店の隅っこに「ワケありセール!なんでも200ゼル!」という張り紙とともに雑多なアイテムが山積みになっていた。
その中に、ひときわ渋い緑色の布――唐草模様の風呂敷があった。
「これ、昭和の泥棒が被ってるやつじゃん……」
俺がそう呟いた瞬間、隣でソウタが固まった。
「これ、めちゃくちゃ……いいな」
「え、えぇ…?」
ソウタは真剣な目をして風呂敷を手に取ると、軽く広げて頷いた。
「万能感あるよね。包めるし、頭にもかぶれるし」
確かに実用的だ、デザインを除けば…
「これは買うべきだと思うんだが」
真剣な眼差しを俺に向けてソウタが言った。
「まぁ…唯一“まともな布”っぽいの、これしかないしな…買えばいいんじゃない?」
俺も観念して頷いた。
会計を済ませたソウタは、満足げに風呂敷をマントのように肩にかける。
なぜかドヤ顔で。
こうしてソウタの異世界初ショッピングは、唐草模様の風呂敷で幕を開けた。
一体、どこに向かうんだ俺たち。