結婚式後の余韻とゲストルーム(ごめんなさい、祝宴会には行けません)
柔らかなベッドの感触と、窓から差し込む夕陽の光で俺は目を覚ました。
ここは……どこだ?
「お、ようやく起きたか!」
最初に声を上げたのはタカシだった。
ベッド脇で腕を組んで、やたらと嬉しそうに顔を覗き込んでいる。
その隣でソウタが「よく眠ってたね」と淡々とつぶやく。あいかわらず感情の起伏が少ない。
ラティは小さく息をつき、「ほんと、心配させないでよね」とぼやいた。
口調の割にそんなに心配しては無さそうだった。
いや待て。なんで全員そろってるんだ?
てか俺、なんでベッドの上?
「お前、式典中に気絶して倒れたんだよ」
タカシがあっけらかんとした口調で告げる。
え、マジかよ……情けない話だなおい。
「僕たちの作戦が成功した直後に倒れたんだよ」
ソウタが淡々と続ける。
「たぶん緊張から解放されて気絶したんだと思う」
……確かに、神父が声を上げて何か言った後に視界が霞んできた記憶はある。
「え? 俺どうやって運ばれてきたの? 周りの人を心配させてなかったか?」
問いかけると、ラティが肩をすくめながら答えた。
「あんたが倒れても、私たち以外誰も気が付かなかったわよ。あまりにも会場の歓声と熱気が凄くて、それどころじゃなかったのね」
え……俺の存在感ってそんなに薄かったっけ……悲しいぞ。
「それで、私が近くにいたセドリックの使用人に声を掛けて、シンヤを休ませられる場所があるか聞いたらここに来たってわけ」
ラティの段取りか。相変わらず手際がいい。
「なるほど。てか、ここどこだ?」
見回すと、天井には煌びやかなシャンデリア。ベッドの両端にはバカでかい花瓶に数えきれないほどの花が挿されている。まるで金持ちが泊まる高級ホテル……いや、超が付くほどの富裕層が使う病院にでも運ばれてきたのか? 俺、そんな金持ってないぞ……?
「セドリックの家のゲストルームよ」
ラティが答える。
「結婚式会場からそんなに離れてなかったから、ここで休ませてもらうことになったのよ」
ここがゲストルームか…。俺の部屋がみすぼらしく見えるほど豪華だ。あとでセドリックに礼を言わないとな。
「それで、式典の後はどうなったんだ?」
俺が尋ねると、タカシが待ってましたとばかりに声を張る。
「別の会場で祝宴会があったんだよ!あそこの飯がめちゃくちゃ美味くてよ!お前にも食わせてやりたかったなぁ~」
「バカ!あんた何言ってるのよ!それは黙ってるって約束でしょ!」
ラティがタカシの肩をバシッと叩き、小声でつぶやいた。
……いや、もう言っちゃってるから意味ないだろ。
「お前ら、俺をほったらかしにして祝宴会行ったのか……?」
俺の問いに、タカシが慌てて取り繕う。
「あ、えーっと……心配はしてたぞ!一応!」
ラティも便乗して言い訳を始める。
「そうそう! あんたをここに運んだ後、使用人の人が看病するから、あとは好きにしていいって言われたのよ!だよね!?ソウタ!」
「まぁそうだね」
ソウタが淡々と答える。
「僕たちがいても邪魔になるだけだし、使用人のご厚意に甘えただけだよ」
こいつら……なんて薄情な……。
まぁそんなことはどうでもいい。気になるのはむしろこっちだ。
「それで? その後セドリックとアリステリアはどんな感じだったんだ?」
「祝宴会の最初の方は二人で楽しそうに話してたわよ。あとは二人でお偉いさんに挨拶回りをしてたけど、幸せそうな感じだったわ」
淡々とラティが答える。
……まぁ、結婚式の祝宴会なら新郎新婦はほとんど挨拶回りだろうな。大変そうだ。
でも二人が幸せそうならそれでいい。俺の苦労が無駄骨にならずに済むしな。
そんな他愛もない話をしていると、扉が控えめにノックされた。
「失礼するよ。あぁ、もう目を覚ましていたのか。体調の方はどうだい?」
重厚なドアが開き、姿を現したのはセドリック本人だった。礼装こそ脱いでいたが、白シャツ姿の彼は相変わらず凛とした雰囲気を纏っていた。
「体調は問題ないよ。それより、こんな豪華なゲストルームで休ませてもらえるとは思ってなかったよ。本当にありがとう」
俺がセドリックに礼を言うと、セドリックは小さく首を振った。
「いや、むしろこちらが感謝を伝えねばならない。あの瞬間、彼女を守れたのは偶然ではなく、君たちが仕組んでくれた運命だったのだろうか?」
セドリックのまさかの言葉にドキリとする。まさか、俺たちの仕掛けに気づいている?
隣でタカシがあたふたと手を振った。
「な、なに言ってんすか!俺たちはただ参列してただけで!」
ソウタも冷静に目を伏せる。
「……ご想像にお任せします」
ラティは気まずそうに口元を押さえ、アルはベッドの下で小さくあくびをした。おい猫、空気読め。
セドリックはそれ以上深く追及せず、静かに笑みを浮かべた。
「いずれにせよ、アリステリアがあのように心を開き、僕の隣に立つことを選んでくれたのは、君たちの支えがあってこそだ。改めて礼を言わせてほしい。あと、君たちも僕に対して敬語を使わなくていいよ。シンヤの親友なのだろ?」
そう言って、セドリックは右手を胸に当て、深く一礼した。
...くそ、こっちが気まずくなるほど真っ直ぐなやつだな。
そんな姿を見ていると、改めて自分たちの作戦が無事に終わったのだと実感する。
そう思った途端、胸の奥がじんわりと温かくなった。




