愛の告白をあなたに(クライマックス回です)
天井の梁が大きくきしみ、細かな砂塵がぱらぱらと舞い落ちた。
その粉塵に気づき、顔をしかめる観客もいたが、すぐに目を逸らし、式の進行に意識を戻した。
計画通り。この揺らぎこそ、アルが仕掛けを作動させた証。
※※※
同じ頃、天井裏。
狭い梁の上に腹ばいになったアルは、額にうっすら汗を浮かべながら魔法の詠唱を続けていた。
「まったく、人使いの荒い主たちだ。いや、私は人ではないから……何使いと言うべきか……」
軽口を叩いた瞬間、梁の継ぎ目からピシリと亀裂が走り、木屑がぱらりと落ちた。
「っ……危ないところであった」
アルは魔力をねじ込むように押し流し、崩落の導火線を走らせる。
※※※
まるで建物が悲鳴を上げたかのような轟音とともに、天井の一部が崩れ落ちた。
巨大な装飾梁と石材が、地鳴りのような音を立てながら壇上へと落ちていく。
「危ないっ!!」
ラティの叫び声が響く。
落下物が二人の頭上へ迫った刹那、セドリックはアリステリアを抱きかかえ、儀礼剣を抜いた。
剣閃が奔り、石材は粉々に砕け散り、白い砂塵が渦を巻いて二人を覆った。
「アリステリア様! お怪我はありませんか!?」
粉塵の渦の中、セドリックは強く抱きしめたまま問いかける。
アリステリアは目を大きく瞬かせ、震える唇を開く。
互いの瞳は確かに絡み合い、言葉を超えて想いが通じ合った。
ほんの一瞬、呼吸が止まったかのように間が生まれ、次の瞬間――二人の唇が触れた。
そしてアリステリアは頬を紅潮させ、囁いた。
「……これからの未来を、あなたと共に歩んでいきたい」
ざわめきは一瞬にして静まり返り、会場全体が息を呑み、やがて割れるような歓声が弾けた。
「おおおおおお!!!」
「まさかここで愛の誓いを……!」
まるで神の采配でもあったかのように、誰もが「二人の愛は本物だ」と確信するような空気が生まれる。
俺はいつの間にか額を押さえてうなだれながらため息をついていた。
(……俺たちの作戦、まさかこんな劇的に決まるとは)
隣ではタカシが、なぜか自分のことのようにガッツポーズを決めている。
「見たかシンヤ!これぞ俺たちの作戦勝利ってやつだ!」
ラティも呆れたように肩をすくめつつ、小声でつぶやいた。
「ほんとに冷や冷やさせるわね、あのお嬢様。でも結果としては成功よね」
「これは二人が選んだ未来だからね。大成功だよ」
場内の熱気は収まりきらず、神官すらも一瞬言葉を失っていたが、やがて厳かに両手を掲げ、声を張り上げる。
「この奇跡を以って、神々が二人の契りを祝福したのは明らか!ここにセドリック・レイ・アイゼンヴァルト殿と、アリステリア・フォン・リューベルフラウス殿の婚姻を正式に認めます!」
その言葉に合わせて鐘が鳴り響き、白い花びらが一斉に撒かれる。
誰もが熱狂し、口々に二人の名を叫んだ。
セドリックはまだアリステリアを抱いたまま、彼女をそっと立たせる。
アリステリアはドレスの裾を整えながら、微笑んで彼の手を強く握った。
その表情は、以前までの迷いを捨てた、覚悟に満ちたものだった。
俺はその光景を見つめながら、胸の奥で奇妙な安堵を覚えていた。
そうだ、これでいい。政治も、愛も、どちらも丸く収まった。
そう思った瞬間、全身から力が抜け、視界がかすむ。
「……よかった」
その言葉を最後に、シンヤは糸の切れた操り人形のように力なく倒れ込んだ。




