結婚式当日(唐突な場面切り替えです)
ノルディア地区の中心にある教会。
かつて古の王家の血筋もここで婚姻の儀を交わしたという、由緒正しき式場には、すでに数百人の招待客が集まっていた。
街全体が祝福ムードに包まれ、花びらが舞い、楽団が華やかな音色を奏でている。
白い大理石の参道には、今にも神が降りてきそうなほどの荘厳な雰囲気が漂っていた。
俺たちも式場のチャーチチェアに腰掛け、式の開始を待っていた。
「思った以上に派手にやるもんなんだな。さすがは貴族の結婚式だな」
濃紺の燕尾服を着たタカシが、首元の襟を引っぱりながらぼそりと呟く。
こういう正装に慣れていないのか、ずっとモジモジして落ち着かない様子だ。
「てかタカシ、見た目は完璧なんだけどね。顔がついてきてない」
ソウタが涼しい顔で返す。
「うるせぇよ!お前こそ違和感しかねーよ!黙って学ランで参列でもしてろよ!」
そのツッコミはよく分からんが、互いにこの正装が似合ってないことだけは確かだった。
ちなみにラティは控室で、アリステリアの着付けと最終確認に付き添っており、今はここにいない。相変わらずお節介なやつだが、作戦に支障が出なければ問題ない。
しばらくして、楽団による新郎新婦の入場曲が流れ始めた。
低音楽器の響きが、体の内側までじんわりと振動してくる。
その間に、ラティがさっと戻ってきて、俺たちの隣の席に腰を下ろす。
「アリステリア、大丈夫だったか?」
「ええ、着付けも完璧。とても可愛かったわよ!」
「ラティってドレスの着付けとかできたんだ。意外」
「あんた失礼ね!これくらい私にだってできるわよ!」
そんな会話を交わしていると、神官に先導されてセドリックが入場し、祭壇前へと進んでいく。
祭壇に立つセドリックは、まるで絵画から抜け出したような完璧さだった。
深紅の軍服を基調とした礼装には、金の縁取りと漆黒の肩章が施されている。
胸元にはアイゼンヴァルト家の紋章が誇らしげに輝き、腰には装飾の施された儀礼剣が下げられていた。武器というより、騎士としての象徴といった風格だ。
銀髪は丁寧に撫でつけられ、背筋はこれ以上ないほど真っ直ぐに伸びている。
それでいて、表情はどこか硬い。緊張しているのかもしれない。
そんなセドリックの姿に見惚れていた俺の耳に、鐘の音が響いた。
ギルバルトと共に、アリステリアがゆっくりとバージンロードに姿を現す。
その瞬間、場の空気が一瞬、止まった。
純白のドレスには繊細なレースと淡い桜色の刺繍が施され、まるで風に揺れる花のよう。
腰から裾へと広がるドレープは波のように流れ、彼女の一歩ごとにやわらかく舞う。
髪は上品にアップスタイルにまとめられ、花冠と透き通るベールがそっと添えられていた。
本当に、堂々としてるな。
あんなの見せられたら、全員が運命だって勘違いしてしまう。
※※※
その後、式は意外なほど淡々と進行していった。
やがて静寂が会場を包み、神官の声が高らかに響き渡る。
「ここに誓いを捧げし者、セドリック・レイ・アイゼンヴァルト殿。汝はこのリューベルフラウス家の令嬢、アリステリア・フォン・リューベルフラウス殿と、永き契りを結ぶ覚悟はありますか?」
セドリックは一歩前へ出て、右手を胸に添える。
姿勢は凛として、声は静かに、だが力強く。
「はい。私は、アリステリア様の隣に立つことを誇りといたします。貴女の信念と共に歩み、貴女を守る剣となることを、ここに誓います」
会場がざわめいた。
貴族的な定型句ではなく、自らの言葉で誓いを述べたからだろう。
続いて、神官がアリステリアに問いかける。
「リューベルフラウス家の令嬢、アリステリア・フォン・リューベルフラウス殿。汝はこのセドリック・レイ・アイゼンヴァルト殿と、永き契りを結ぶ覚悟はありますか?」
アリステリアはふわりと笑いながら、正面を見据える。
だがその目は、どこか遠くを見ているようでもあった。
――ギィ……ギシッ……ギギギッ。
天井の装飾のひとつが、不自然な音を立てて揺れ始める。
会場内の誰もが、最初はそれに気づかなかった。
しかし、その音が一気に大きくなった瞬間――
バキンッッ!!
まるで建物が悲鳴を上げたかのような衝撃音とともに、天井の一部が崩落した。
巨大な装飾梁と石材が、ゴロゴロと轟音を立てながら壇上へと落ちていく。
「危ないっ!!」
ラティの叫び声が、会場全体に響き渡る。
落下物は、まっすぐに、アリステリアとセドリックの真上へ。
次の瞬間......。




