お前が信じてくれるなら(今回も真面目回です)
夕食を終えた俺たちは、すっかり夜も更けた頃、家へと戻ってきた。
ラティは腹が苦しいとか言ってソファに倒れ込み、タカシとソウタに運ばれ自室へと戻り、タカシとソウタもそのまま自室へと戻っていった。
そして俺は、一人リビングに残った。
部屋の中は静かで、魔法ランタンの光だけが淡く揺れていた。昼間の喧騒と笑い声が嘘のように、しんと静まり返っている。
俺はソファに深く腰を沈めて、ため息をついた。
婚約阻止、その言葉が今も頭の中で繰り返されている。
アリステリアの言葉も、セドリックの言葉も、どちらも嘘じゃない。
二人の言葉は、どちらも自分の信じるもののために、まっすぐだった。
でも、どちらかに傾けば、もう一方を切り捨てることになる。
グランメル地区とノルディア地区。
自由と統制。
個人の思いの尊重か国益か。
俺が考えすぎなんだろうか。でも、こうして静かになると、どうしても考えてしまう。
もし俺たちがこの婚約を本当に阻止したら、アリステリアは笑顔になれるかもしれない。
だけど、その未来でセドリックはどうなるんだ?
あの人は……本気だった。わずかな時間での会話だったが、あの目は、嘘をつく人間の目じゃなかった。
あんな想いを、俺が踏みにじっていいのか?
たった数時間話しただけの人間に、情が移ったってだけか?
いや違うな。この気持ち悪さは、俺自身が見届けたい未来と違うからだ。
じゃあこれは俺のエゴなのか…?
俺の見届けたい未来のために、誰かを犠牲にしてもいいのか...?
アリステリアとセドリックにとって最善の選択とは...?
そんなことを延々と考えていた時だった。
キィ……と、リビングの扉が小さく開いた。
「……まだ起きてたんだ」
入ってきたのは、ソウタだった。
時計を見てみると、家に帰ってきてから一時間弱経っていた。
こんな時間まで考え込んでいたのか俺は…結構重症かもな…。
「ソウタこそ、こんな時間にどうしたんだよ」
「いや、ちょっとだけ。なんか眠れなくてね」
そう言うと、ソウタはキッチンに向かい、ミルクを取り出して温めていた。
数分ほどして俺の座っているソファに腰かけ、手に持っていたホットミルクを俺に手渡した。
「さっきからずっと、難しい顔してたよね。パーティのときから、なんか様子おかしかったし」
「……そう見えてたか」
ソウタにはバレてたらしい。
「考えてるんだ、婚約阻止のこと。アリステリアのためにやるべきだって、頭では分かってるんだけど……」
セドリックの顔が、脳裏に浮かぶ。
「それでも、どうしても……引っかかるんだ。セドリックの気持ちを、踏みつけにするような気がしてさ」
「シンヤって、そういうとこあるよね」
ソウタが、ぽつりと呟く。
「ちゃんと見て、ちゃんと悩んで、ちゃんと考えて……それって、すごいことだと思うよ」
少し間を空けて、ソウタが再び話し出す。
「悩んだうえで出した答えなら、それが誰かを傷つける結果になっても、ちゃんと意味はあると思うんだ。だって、全部わかったうえで選んだんだもん。それって、ちゃんと誠実なことだよ」
俺は言葉を返せなかった。
いつも飄々としていて、バカみたいなことを口にしてるソウタの言葉が、今はやけにまっすぐ響いた。
「......ありがとな、ソウタ」
「ううん」
それだけ言って、ソウタはふわっと立ち上がる。
「僕はシンヤが出す答えを信じるよ。おやすみ」
そう言って、ソウタはミルクの入ったマグカップを手にしたまま、リビングを出て行った。
しばらくその背中を見送ってから、俺はまたソファに背を預けた。
簡単には答えは出ない。でも、誰かが信じてくれてるなら。
そして、頭の中に浮かんだのは、ひとつの奇策だった。




