腹ごしらえと号泣ラティ(現状整理回です)
パーティを終えた俺たちは、日が暮れる頃には元いた街にたどり着いていた。
緊張から解放され、妙な達成感と空腹感が同時に押し寄せてくる。
「今日はもう頑張ったよな?ご褒美いこーぜご褒美!」
先陣を切ったのはタカシ。いつもの調子で、満面の笑みを浮かべながら言う。
「そうだな、今日は豪勢にいこう」
珍しく俺も同意した。なぜなら...。
「ラティを除いて行くか」
そう俺が口にした瞬間だった。背後からダダダッと小走りの足音が聞こえてきた。
「待ってよ!私、ちゃんと情報収集してたわよ!」
必死な表情で追いついてきたのはラティだった。
「いや、パーティ会場で山ほど食べてたよな……?」
俺が冷静に指摘すると、ラティは一瞬たじろぎつつも、すぐに開き直る。
「それは……そう!試食よ!料理の腕前を上げるためには美味しい料理を食べなきゃいけないでしょ!?」
なんでパーティ中に料理の腕前を上げようとしてんだこいつは。
「お前、パーティに参加した目的は情報収集なんだが。なんでちゃっかり料理上手くなろうとしてんだよ」
タカシのツッコミが鋭い。
「ちゃんと情報収集もしてたよ!だから私も連れてってぇぇ!」
そう叫びながら、ラティは俺の膝あたりにしがみついて、泣きながら懇願してきた。思った以上に全力で泣きに来たなこいつ。
結局、俺たちはラティを引き連れて、街の中でもちょっと高級寄りの食堂に入ることにした。
通されたのは、温かみのある木目調の内装に、魔法ランタンがふわりと灯る落ち着いた掘りごたつのテーブル。香ばしい肉の匂いと、スパイスの香りが食欲をそそる。ファミレスって感じだが、ランクはそこそこ高そうだ。
「は〜〜〜っ! やっぱり帰ってきたら肉だよね!」
席につくなり、ラティがメニューを見ながらニヤニヤしている。テンションの切り替えが早い。
ちなみにメニューには「炎獣の炭火焼き」や「水牛のタルタル」など、よく分からんけど高そうな名前が並んでいる。
「おい、お前どんだけ食うんだよ。胃が破裂すんじゃねーか?」
隣でタカシが心配そうにメニューを覗き込む。お前もだいたい同じことをするタイプだと思うが。
「肉は別腹なのよ!良い肉を食べれば体調も良くなるし!」
別腹理論って、スイーツ限定じゃなかったっけ……?
「僕はひとまずスライムの出汁茶漬けにしておく。軽めで様子見したい」
ソウタが静かに言うけど、それ軽めなのか?スライムだぞ?
※※※
注文も一段落した頃、話題は自然とアリステリアの婚約の話になった。
「で、結局……俺ら、どうすんの?婚約阻止。ラティ、なんか有益な情報あった?」
テーブルに肘をつきながら、タカシが真面目な顔で切り出す。
「収穫はあったわよ。どこから話せばいいかしら。まずは現状の話をしましょうか」
ラティが表情を引き締め、少し姿勢を正す。
「今私たちが住んでいるところはグランメル地区で、地方分権の色が強い地区なの。私たちがタピオカ屋をすぐに出店できたのは、市場の自由度が高かったからよ。まぁ営業許可証は出し忘れたけど、許可証を出せばよほど変な店ではない限り承認されるわ」
「そんな自由な市場ですら俺たちは失敗しちまったのか...」
タカシが妙にしょんぼりしてる。いや、まず許可取ってなかったのが原因だろ。
「まぁその話は置いておきましょう。グランメル地区で市場の自由度が高まったのは、アリステリアの実家であるリューベルフラウス家の存在がとても大きいの。アリステリアのお父さん、ギルバルトさんの助力があってここまで来たといっても過言ではないのよ」
なるほど、あの人そんなにすごい人だったのか。超が付くほどの親バカではあったが。
「対して、セドリックの実家であるアイゼンヴァルト家はノルディア地区っていう場所で大きな権力を握っている貴族の一つで、その地区は中央集権の色が強いのよ。だから商業を行うには王都に対しての承認が必要で、市場の自由度はとても低いの。その代わり、国防や統制システムに関しては他の地区とは比にならないくらいレベルが高いみたい」
「あれ?その二つの貴族の人間が結婚するのって何の意味があるんだ?」
タカシが首をかしげる。
「互いのノウハウを共有したいんだよ。リューベルフラウス家は商業に長けていて、アイゼンヴァルト家は国防や統制のノウハウを持っているからね」
ソウタがさりげなく補足する。
「でもさ、別にそれって結婚しなくても共有できるもんじゃねーの?」
「そう、そこが今回の政治的婚約のミソなのよ。ノルディア地区は情報の統制が厳しいから、普通はそういった情報を共有することは簡単にはできないの。だけど、どうやら婚約を通した情報の共有は緩和されるみたいなのよ」
「なるほど、それでアリステリアとセドリックを結婚させて、互いの地区の利益に繋げるというわけか」
整理してみると、なかなか規模がでかい話になってきたな……。
「なんか、今回の婚約阻止って思っていた以上にスケールが大きいよね」
ソウタがぽつりと呟くと、タカシが肩をすくめて言った。
「なんか難しい話だな。でも、俺はアリステリアの気持ちに応えてやりたいんだよな。今の話を聞いてる限りだと、本人の意思は全然尊重されてなかったし」
「私もそう思う。政治的な理由は大事かもしれないけど、これじゃあまりにもアリステリアが可哀想よ」
ラティも真っすぐな目で同意する。
「かといって、何か策が思いついてるわけでもねーんだけどよ」
タカシが頭をぽりぽり掻きながら苦笑する。
そうしているうちに、注文していた料理がテーブルに届いた。
「まぁ、難しいことは後で考えようぜ!とりあえず飯を食おう!」
タカシが笑いながらナイフとフォークを構える。
そうだな。まずは腹ごしらえしてから、考えるか。




