活動資金という名の小遣い
とりあえず広場を離れるために、俺たちは街のメインストリートっぽい場所を歩き始めた。
異世界らしく、石造りの建物や露店が立ち並び、あたりにはスパイスの香りや焼き物の匂いが漂ってくる。
「なにこれ、めっちゃ腹減ってくるな……」
タカシが鼻をクンクンさせて露店に吸い寄せられていく。
「おっ、これうまそうじゃね? 焼き串だってよ、一本100ゼルだってさ!」
ソウタも横で「いい匂い……」と言いながら、屋台に貼られたメニューを覗き込んでいる。
そこで、俺はあることを思い出した。
支給された活動資金のことだ。
ズボンのポケットに手を突っ込むと、ガサリと布袋が出てきた。
中を開けると、大小さまざまな硬貨が数枚。
「これが活動資金か……」
「なあ! いくら入ってるんだ?!」
俺の独り言にすかさず反応して、タカシが目をキラキラさせて聞いてくる。
数えてみると、全部で――「1382ゼル……」
ほんとに小遣い程度だった……
「マジかよ! 俺の月の小遣いより多い!よっしゃ!!」
「え、お前いくらもらってたんだよ」
「750円だけど」
お前…異世界に来れてよかったな。
そのまま、俺は焼き串に目を戻した。
「まぁ、流石に腹も減ったし……一本くらい買うか」
現実逃避気味に焼き串を買って、一口かじると――ジュワッと肉汁があふれた。
「……うまっ!」
ラムっぽいクセのある肉に、しっかりスパイスが効いていて、想像以上に美味い。
「うわ、マジでうまそう! 俺も俺も!」
「ぼくも……!」
タカシとソウタも我慢できずに、“財布(という名の布袋)”を取り出して、屋台に群がる。
揚げパン、焼き菓子、果物、スープ…
気づけば、全員両手いっぱいに食べ物を抱えていた。
そして、俺はふと我に返った。
もう一度、布袋の中を覗いてみる。
残金は、300ゼル。
「……終わった」
顔を上げると、空は今日もどこか晴れやかだった。