枕投げの代償(変な依頼も受けます)
悲惨な枕投げから一夜明け、俺たちは宿を出てギルドへと向かった。
「ところであんた達、昨日の夜は枕投げしたの?」
「あぁ、やったよ...散々な結果だったけどな...」
何気ないラティの問いかけに対し、タカシがぼんやりとした返答をする。
鏡を壊したことはラティに黙っておこうという話になっているからだ。
こいつにバレたら、絶対小言を言われ続けるだろうしな...
「あんた達、どれだけ体力あるのよ。私なんてお風呂入ってすぐ寝たわよ」
あぁ、俺もおとなしく寝ていればよかったと思ってるよ…
そんな他愛もない会話をしていると、ギルドに到着した。
「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
そう言ってくれたのは、ギルドでおなじみのミレイさんだ。
「えぇ、よく眠れたわ!おかげで昨日の疲れが吹っ飛んだわよ!」
「あぁ、おかげさまで...」
ラティは太陽のようにまぶしい笑みで返答するが、タカシはぐったりとした様子で答える。
「ラティ、悪いんだけど、あの売店で水買ってきてくれないか?」
「……あんた達、なんか隠してるでしょ」
「な、何もねえよ!……っていうか喉乾いたろ? 水買ってきてくれよ!」
「はぁ……怪しいけど、まぁいいわ。私もちょうど喉渇いてたし」
俺はミレイさんに昨日の件について話すために、ラティを遠くへ移動させた。
ほんとにお前は俺のオカンみたいだ...感謝しかない…
ラティをこの場から遠ざけたところで本題に切り込む。
「あの〜、ミレイさん、実はですね...昨日部屋に掛けられていた姿見を壊してしまいまして...弁償させてください...」
俺はミレイさんに昨日あったことを細かく話した。
「なるほど…相変わらずですね...まぁ金額として六万ゼルですね」
「た、高っ……! ただの鏡だぞ!?」
タカシが目を見開いて抗議するが、ミレイさんは一切動じない。
「魔法防御用の特殊素材が使われてまして。あと、あの部屋は貴族対応用なんです」
俺たちはそんな部屋に泊まってたのか...
姿見くらいニ〇リで十分だろと思いつつも、タカシ、ソウタ、俺と二万ゼルずつ払った。
弁償代を払い終えると、ミレイさんが新たな書類を手に戻ってきた。
「ところで、一つご相談があるんですが――」
「依頼の紹介?」
「ええ。アリステリア様の件で名が広まっていて、かなり期待されているみたいですよ」
名が広まってるって、良くも悪くもという感じはするが...
「で、依頼の内容って?」
俺が尋ねると、ミレイさんは少し困った顔で答えた。
「……ダンジョン付近に出没する“珍獣”の退治、です」
「珍獣?」
「はい。現れると大声で叫び続けて、周囲の冒険者を威嚇しているみたいで、ダンジョンに入れないとクレームが殺到してまして...」
「それ……倒さなくてもいいんじゃね?」
「可能なら追い払うだけでも構いません。ただ、何者か分かっていないのと、かなりしつこいそうで」
要は、“うるさい謎の生き物を何とかしてこい”って話らしい。
ギルドの依頼って、もうちょい命懸けかと思ってたけど……これはこれでめんどくさそうだ。
「おーいシンヤ、行こうぜ。珍獣とか楽しそうじゃん」
タカシがノリノリで言ってきた。
「お前、昨日の反省どこ行った。何でもかんでもノリで引き受けようとすんなよ!」
「うるせぇ、昨日は昨日、今日は今日! あと、婚約破棄の件は一か月後だしな!」
相変わらず面倒ごとは後回しにする精神...
ちなみに、タカシはこの精神のせいで全教科のテストで赤点をたたき出すという高校の伝説を作った。
「でも受けてみてもいいんじゃない?ギルドからの依頼だし、お金も入るし」
ソウタがニコニコしながら言ってくる。
まあ……せっかくならやってみるか。
どうせラティも同行するだろうし、あいつには目的地に向かう途中で説明しておこう。
こうして俺たちは、“謎の珍獣”を追ってダンジョンへ向かうことになった――。
……まさか、あんな出会いが待ってるなんて、このときは知る由もなかった。




