俺たちの異世界転送、雑すぎ問題
能力に関する話の次は、持ち物についての話をされた。
「持ち物は、現在お召しの学ランおよび靴のみとし、それ以外の私物は転送時に自動破棄となります」
「え、マジで!?」
タカシが身を乗り出して大騒ぎする。
「じゃあ俺のカバンに入ってるス〇キヤのカップ味噌煮込みは?! あれ、昼飯用にわざわざ学校の売店で買ったのに!」
あいかわらず大事にするもんの優先順位がズレてる。
「……ス〇キヤのカップ麺も対象外となります」
メリアは眉ひとつ動かさず、あっさり告げた。
「マジかよ……味噌煮込みだったのに……」
タカシは肩をガクっと落として、しばし天を仰ぐ。まあ味噌煮込みうまいもんな。
そこは同情するよ。そこだけは。
「ぼくは乾燥わかめ……持ってるけど、ダメ?」
ソウタがポケットから、なぜかしっかり密封された個包装わかめを取り出す。
「はい、乾燥わかめもお預かり対象となります」
「なぜ……ひどい……」
落ち込みすぎだろ。
乾燥わかめで何と戦うつもりだったんだ
「なお、現在お召しの制服は転送先にそのまま持ち越されます」
メリアが資料をめくりながら言った。
「ってことは、学ランのまま異世界に放り出されるのか……」
タカシが不安そうに学ランの裾を握る。
「ご安心ください。転送先の街で、衣類は現地調達可能です。服屋で自由にお選びいただけます。その分、お金はかかりますけどね。あ、ちなみに転移後はある程度活動資金を支給します。」
まじか、それは朗報だな。
「ちなみに、いくらくらいもらえるんですか?」
「日本円で1人5000円ずつ支給されます」
え、5000円て、こういうのって、もうちょっと貰えるものじゃないのか。
続けて俺はメリアさんに質問した。
「ああ、ちなみに転移後の世界ってどれくらいの物価水準なんですかね...」
「あなた方が過去にいた日本の3~4倍ほどですね。」
終わった...
この女神、たぶん異世界より“現実”の厳しさを教えてくるタイプだ
「それでは……最終確認に入ります」
急に展開速くなったな...
メリアが机に手を置き、ゆっくりと立ち上がる。
急に雰囲気が“式典”みたいになったな。
「まず、転送後の世界において、自らの責任で行動することを誓えますか?」
「え、誓えって……そんな仰々しい感じだったの?!」
タカシが目を白黒させている。
「誓います」
ソウタは真顔で答えた。
お前適応能力高いな...
「じゃあ俺も誓います...これ毎回やってるんですか?」
「いえ、形式上の確認です。例外処理が多いため……」
こっちの世界でも色々あるんだな...
「では、転送先はランダムとなりますので、到着地点の詳細は到着後にご確認ください」
ランダム!?異世界転移ってそんな感じなの?
「マジかよ……オレ一人だけ火山の中とかに飛ばされたらどうすんの……」
タカシが心配そうにつぶやく。
「ご安心ください。最低限の生命維持は保証されております。大気圏外や海底には転送されません」
いや、それも“最低限”って言うんだ……
「それでは――転送を開始します」
メリアが静かに手をかざすと、俺たちの足元に光の紋章のようなものが浮かび上がる。
うわ、何だこれ。足元グラグラしてきた。
「また会えるといいですね。あちらの世界で」
その最後の声を聞いた直後――視界が真っ白になった。