伝説の一撃(いろいろ大ピンチです)
ガァァッ!!
森の闇を切り裂くような咆哮が響き渡り、獣のような魔物がタカシに向かって突進してきた。
「っぶな!」
紙一重で攻撃を避けたタカシが、地面を転がるようにして体勢を立て直す。
「うわ、思ってたより動き速いじゃんかこいつ!」
「てか何でこんなでかいの出てくんだよ!?」
俺は慌てて後ろに下がりながら周囲を見渡すと、ラティが小声で詠唱をしていた。
「……精霊よ、加速の風を——アクセルス!」
淡く光る魔法陣が足元に広がり、タカシの身体がふわりと軽くなる。
「うお、なんか体が……軽っ!」
「スピードだけだけどね、がんばって!」
「すげー!軽くなっ……あれ?気のせいか?」
「タカシー!お前は確実に速くなってるぞ!このまま駆け回れー!」
効果が分かりづらいらしいので、俺が声をかけてみる。
「お前がそう言うとそんな気がしてきたぁぁ!行くぞ!」
たぶん、スピードはそんなに変わっていないが、こういうのは気持ちが大事だ。
そんなことをしていると、ソウタが風呂敷からスッと取り出したメモ帳をペラペラとめくっていた。
「この種の魔物……弱点は“頭部”だね。胴体は硬くて効かないって書いてあるよ」
「もっと早く言えよォ!!」
タカシが叫んだ直後、ひときわ大きな唸り声とともに、魔物が再び突進してくる。その視線の先には——アリステリア。
「アリステリアさん、下がって!」
俺が声を張る間もなく、アリステリアは一本の剣を鞄から抜き出して、魔物の前へと立ちはだかった。
「大丈夫です。私も……私も戦えます!」
いやあんた武器持ってたのかよ!早く言ってくれよ...
ただ、そんなツッコミをしている状況ではないので、今は胸にしまっておこう...
「はっ!?」
タカシが驚いた声を上げる中、アリステリアは剣を両手で握り、必死に魔物へと斬りかかる。
——ガンッ!!
鋭い音が響く。だが、魔物は微動だにしない。剣は見事に胴体へ命中したものの、まるで岩を叩いたような感触だけが残った。
「……うそ……効いて、いません……?」
「アリステリアさんっ、そこは効かねぇって!頭狙わなきゃ!」
タカシが叫んだ直後、魔物の太い腕が大きく振り上げられる。その爪が、アリステリアを薙ぎ払おうとする。
「おいバカッ!」
タカシが飛び出し、腕を掴み、アリステリアを抱えて地面へ転がる。
ギリギリのタイミングだった。
「っく……無茶しやがって……」
「ご、ごめんなさい……でも……!」
「今は謝んなくていい。剣、貸してくれ」
アリステリアは驚いた顔でタカシを見るが、すぐに頷き、剣を差し出した。
タカシは剣を手に取り、焚き火の向こう側へと助走をつけて駆け出す。
「よっしゃああああ!くらえええええええええっ!!」
その瞬間——
グキッ。
タカシの足が、地面を這っていた蔦に引っかかった。
「ぐああああああああっ!!?」
ドシャァアア!!
思いっきり派手に転ぶタカシ。その手から剣がすっぽ抜け、高々と宙を舞った——
そして、剣は一直線に魔物の頭部へと突き刺さった。
グガッ——
魔物は苦しげに声を漏らすと、そのままドスンと崩れ落ちた。
「……え?」
タカシは土まみれの顔で、ポカンと魔物の死体を見つめていた。
「倒した……?オレ、倒した?いや、倒してないっていうか、え、何?」
その時、タカシのステータスパネルが現れた。
『スキル:幸運(笑)を発動しました』
なるほど...今回もこれに助けられたか...
何とも締まらない倒し方だが、全員無だったので良しとしよう...
全員が呆然とする中、ひとりだけ違う反応を見せた人物がいた。
「天野タカシ様……!」
その声は震えていたが、瞳はまっすぐにタカシを見つめていた。
アリステリアが、裾を翻しながらゆっくりと駆け寄ってくる。
そして、タカシの目の前で立ち止まったかと思うと、感極まったように口を開く。
「……あなたというお方は……なんてお優しくて、頼もしくて……勇ましいのでしょう!」
彼女の頬はうっすらと赤く染まり、タカシの手を握った。
「先ほど、私を守ってくださったあの瞬間……本当に、心が……熱くなったのです!」
タカシはまだ土まみれの顔のまま、ぽかんと彼女を見つめている。
「わたくし……、もう……決めました!」
アリステリアはその場で深く一礼し、そして——ふいに顔を上げると、瞳を潤ませながら叫んだ。
「どうか……どうか、わたくしと結婚してくださいませっ!!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」
タカシの情けない叫びが、森の静寂を盛大に破った。
え、何これ、どういうこと?
まさかアリステリアさん……俗に言う“ちょろい……いや、純粋ヒロイン系”なのか...
いやもう、どうすんのこれ...




