チートはありません。あるのは不安だけ
目が覚めると、俺たちは“裁判所っぽい”場所に横並びで座らされていた。
前方には、でかい机。
その向こうには、変な帽子を被ったキレイなお姉さん。なにやら分厚い書類を読みながら、ペラペラとページをめくってる。
「死因は……三人乗り自転車で河川敷を下って護岸に激突、」
何か急に喋り出したぞ。
お姉さん、たぶん偉い人っぽいその人は、一瞬、口元を押さえて吹き出しそうになり、
「……ふっ、即死でしたね」と、なんとか真顔に戻った。
即死、って言ったな今。
しかもこの人、笑いかけてたし。
「なあこれ、どこ?」
「天国…っぽい場所じゃないかなあ。白いし」
おいおい、マジで死んだってことかよ…
「はい、静粛に」
女性は書類を閉じると、綺麗に背筋を伸ばして言った。
「ここは“転送管理局”です。あなた方は正式に死亡されましたので、順を追って異世界転送を進めます」
転送管理局か、名前だけ妙にかっこいい。
中身は完全に窓口業務だけど。
「わたくしは女神メリア。あなた方の転送を担当する者です」
「異世界ってことは、俺たちにチート能力とか付与されたりするんすか?!」
タカシが目を輝かせて言う。
「俺、手から火が出る能力とか欲しいんだけど?!」
こいつに火を扱わせたくないんだよなー。
森とかで使って山火事起こしそうだし。
「僕は名古屋市の市バスの運行ルートが完璧に分かる能力かな」
ソウタは自信満々に言う。
名古屋だと便利だが、転移後はいらないな、うん。
「あのー、非常に申し上げにくいのですが……」
メリアが少し眉を下げながら口を開く。
「あなた達にチート能力の付与はありません。近年チート過多により、全体バランスが崩壊しておりまして……」
この世界、チート能力インフレしてるのか。
サ終寸前のソシャゲみたいだな。