愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ、じゃあ俺たちは?
翌朝。
いつものようにタピオカ屋を準備していた俺たちのもとに、突如として“それ”はやってきた。
「…貴様らが、“夜ラベ”なる品を販売していた屋台か?」
そう言って現れたのは、街の役人らしき男だった。
威圧感のある佇まいに、俺たちは思わず背筋を伸ばす。
「え、はい…それが何か?」
タカシが応じると、男は懐から分厚い紙束を取り出し、淡々と語り始めた。
「単刀直入に言おう。貴様らが販売している“輝く夜空のラブリーベリーTEA”には、アレルギー表示義務違反があることが確認された」
「「え...」」
「“キラベリー”という果実は、この街では“注意表示が必要な特異反応性食品”に指定されている。貴様らが販売しているドリンクを摂取した数名の体が数時間にわたって発光し続ける事象を確認した」
話を聞いてみると、どうやらタピオカの原料としている芋と”キラベリー”が反応し合うことで、摂取した人の体が発光したらしい。
「ま、待ってください!本当に知らなかったんです!わざとじゃなくて──!」
「無知は免罪符にはならぬ。加えて、さらに問題がある」
男は次の書類を取り出した。
まだ何かあるのか、勘弁してくれ...
「貴様らの屋台営業には、正式な許可申請が確認されていない。営業許可証が存在しない以上、これは重大な法令違反だ」
「そ、そんな…!」
「よって、貴様らには本日付けで営業停止を命じる。また、これまでの売上についても、課徴金として99%を徴収する」
「きゅ…99%?」
「3週間での総売上1500万ゼル。そのうち1485万ゼルを徴収し、残額は手続きの後に返還する」
「え、えぇぇぇえ!?!?」
タカシの絶叫が、屋台街に響き渡った。
この流れ、なんか既視感あるな…。
あ、そういえば...
※※※
あれは高校1年の文化祭だった。
俺たち3人は「男だけでベビーカステラ売ったら逆にウケる説」を提唱し、勝手に模擬店を出店した。しかも、衣装は学ラン+はちまきという意味不明なテンションで押し通した。
「うちの秘伝の“ふわとろベビカス”で勝負だッ!!」
当時からノリだけで生きてたタカシが、謎のキャッチコピーとともに焼き台の前に立っていた。
また、会計やマーケティング担当はその時もソウタが担当していた。こいつは相変わらず経営センスが高いんだよな。
結果は大盛況。3日間で2000個以上売れて、売上も大幅黒字。
…だったのだが。
「お前ら!申請書出してないってどういうことだ!!」
文化祭最終日、実行委員に摘発された俺たちは、売上金をすべて没収され、体育館の隅っこで反省文3枚を書かされる羽目になった。
あのとき誓ったはずだった。もう無許可営業はやらないって。
※※※
…なのに、なんでこうなってるんだ俺たち。
店舗の解体が速やかに行われる中、俺は天を仰いだ。
※※※
「で、結局…僕たちの手元に残ったのは15万ゼルってわけ」
テーブルに突っ伏しながら、ソウタがため息を吐いた。
「店舗化も、チェーン化も、全部パーか…」
タカシは顔面蒼白で天井を仰いでいる。
「まあ、バイト代にはなったし…?」
「でも、あのまま営業できてれば、僕たち億万長者だったのに...」
改めて、異世界のビジネスってやつは甘くないと痛感した。
「でもさ、15万ゼルは残ったんだ。ここからまた這い上がればいいんだろ?」
珍しく、タカシの表情が引き締まっていた。
「次の一手、考えようぜ。“幸運(笑)”は、まだ尽きちゃいない」
…その言葉に、俺たちは少しだけ前を向いた。




