異世界初、エルフ拉致未遂(事件性はありません)
「よし、戻すか」
俺がそうつぶやいた瞬間、全員が無言で木箱に向かって歩き出していた。
エルフはまだ「水〜〜!」とか言って地面に寝転がって喚いていたが、そんなことはお構いなしだ。
「よいしょっと…ほら、立って」
「ちょ、ちょっと!?何!?やめて!?何なの!?」
タカシと俺でエルフの両脇を抱えて持ち上げ、ソウタが急いで木箱の蓋を開けにかかる。
「おとなしく入ってくれ、な?」
「はあ!?意味わかんないんだけど!?てか私、箱に入るキャラじゃないんだけど!?」
エルフはジタバタと抵抗し、足で地面をかきながら逃げようとする。
「きゃー!!誰かーーー!怪しい男たちに連れ去られるーーー!!」
「言い方!まじで誤解されるからやめろ!!」
「タカシ、手ぇ離すなよ!」
「無理無理!意外と力強いぞこいつ!この細腕でなんでこんなパワー出るんだよ!」
3対1なのに、なかなか押し込めない。
エルフの抵抗は全身全霊で、ちょっとした小競り合いレベルになっていた。
10分後――。
「…ぜぇ、ぜぇ…もう、やだ…お願い、やめて……木箱だけは……!」
エルフは両手をついて地面に崩れ落ちた。
「なんでも、なんでも言うこと聞くから…木箱だけはやめてえぇ…!」
俺たちは顔を見合わせ、また木陰に集まった。
「…どうする?」
「いや、さすがにあそこまでされるとちょっと罪悪感あるな…」
「けど、“なんでも言うこと聞く”って言ったよな?」
「よし、ならば……」
俺はエルフのほうを振り返った。
「おい。なんでもするって言ったな?」
「…言ったけど?」