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Prologue ― 木霊

木造の四階建て旧校舎は、長い歳月を経て、ひっそりとそこに立ち続けている。

その姿は、どこか昔のまま時が止まったようで、風に揺れる葉音や軋む木の声が、静かなざわめきとなって校舎を満たす。


東棟と西棟へと繋がる細い渡り廊下は、まるで迷路のように入り組み、歩く者の心に小さな不安を落とす。

そこは日常の隙間、記憶の奥底に封じられた秘密が、ささやくように響いてくる場所でもある。


誰もが慣れ親しんだはずのこの学校で、ほんの少しだけ時間の流れが狂い、音が消え、影が歪む瞬間がある。

それは偶然ではなく、誰かの意図が潜んでいるのかもしれない。


この物語は、そんな静謐な空間に紛れ込んだ異物と、人々の心にひそむ闇を映し出す。

ひとつの声が、ひとつの影が、ゆっくりと真実へとあなたを誘うだろう。


さあ、木霊が告げるその囁きを聞いてほしい。

そこに隠された物語は、まだ誰も知らない。

音がした。

誰もいないはずの空間で、確かに床板が鳴った。


湿った木の香りと埃の気配に包まれた旧校舎――。

その中央、三階の廊下の窓際に、一冊の古びた手帳が落ちている。表紙は薄く煤け、そこに書かれた文字はかろうじて読める。


「わたしは、それを“音”で知った」


風もないのに、ページが一枚めくれる。

古びた校舎の壁の奥に潜む声が、ページの行間に滲むように囁いていた。

「ここでは、音がすべてを語るのよ」と。



夜明け前、誰かが東棟の渡り廊下を渡った。

床板が軋む音を残して、音楽室の扉がわずかに揺れる。

やがて、ドアの向こうから――まるで耳鳴りのような、かすかな「高音」が聞こえてくる。ピッチのずれた音階がひとつ。


誰かがピアノの鍵盤を押したのだ。


次の瞬間、旧校舎の四階――本校舎の一角で、木の梁が**「バキ」**と裂ける音を響かせた。

誰の叫びも届かない。音だけがすべてを語るこの校舎で、それは始まった。

静寂がすべてを呑み込み、最初の死が生まれる。


 

  ――木霊の学校へようこそ。


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