第七話:村を守る仕組み
翌朝、村の広場には、昨夜の戦いを終えた村人たちが集まっていた。
ワイルドボアを討伐したことで、村には安堵の空気が広がっていたが、俺の中には違う感情が渦巻いていた。
「このままでいいのか?」
俺は自分に問いかける。
ワイルドボアは倒した。だが、昨夜現れた“別の獣”がいる以上、村の危機は去ったとは言えない。
そして、村人たちはまた誰かが助けてくれることを待つのだろうか?
……違う。
俺は、**“この村が自分たちの手で問題を解決できる仕組み”**を作りたい。
「アルク、お前さん、何を考えてる?」
村長のガルドが腕を組みながら俺を見る。
「村のために、新しい仕組みを作りたい」
「……ほう?」
俺は頷き、村人たちに向き直った。
「今回、俺たちはワイルドボアを倒した。でも、それはただの偶然じゃない。準備して、調査して、作戦を立てたからだ」
村人たちが静かに頷く。
「だからこそ、これを一回きりで終わらせるんじゃなく、今後の村のために役立てるべきだと思う」
「つまり、どういうことだ?」
村の若者の一人が尋ねる。
「簡単に言うと、“問題解決の流れ”を決めておくってことだ」
俺は地面に棒で簡単な図を描く。
【問題が発生する】
→ 【調査をする】
→ 【解決方法を考える】
→ 【作戦を実行する】
→ 【報酬を支払う】
「こうやって、どんな問題でも一定の流れに落とし込んで、村全体で対応できるようにしたい」
「たとえば、ワイルドボアの時を思い出してくれ」
俺は村人たちの顔を見渡す。
「最初に俺たちがやったことは、いきなり倒すことじゃなかった。まずは調査しただろ?」
「……ああ、そうだな」
「でも、“調査”って何をすればいいか、みんな分かってたか?」
村人たちは顔を見合わせる。
「ワイルドボアがどこに出るのか、何を食べるのか、どういう動きをするのか……。そういう情報を集めなかったら、罠を仕掛けることもできなかった」
「確かに……言われてみれば、そんな話し合いはしてなかったな」
「だから、まずは**“調査”という役割を作る**」
俺は指を立てて、次のポイントを示す。
「誰が、どこまで調査するのか決めておけば、みんなが効率よく動けるだろ?」
「確かに……。最初から“どこを見ればいいのか”分かってたら、もっと早く対応できたかもしれねぇな」
村の男たちが頷く。
「それから、“討伐”や“捕獲”の役割も決めるべきだ」
「……ちょっと待て、アルク」
村の老人が口を挟む。
「ワイルドボアを倒すのは、力のある者がやるもんだろう?」
「その考えが間違いなんだ」
俺は首を横に振る。
「俺たちは、力だけでワイルドボアを倒したか?」
「……」
「いいか? 俺たちは、知識を使って罠を仕掛けた。村人全員が“できること”をやったから、勝てたんだ」
村人たちはハッとしたような表情を浮かべる。
「だから、“討伐”の役割には、必ずしも戦士や狩人じゃなくても参加できる」
「次に、“報酬”についてだ」
「報酬?」
「そうだ。今回、ワイルドボアを討伐したことで、村の畑が守られた。それが俺たちの“報酬”だった。でも、もし外部の人間に頼むとしたら?」
「……金を払わなきゃならねぇな」
村長のガルドが答える。
「その通り。だから、村に依頼を管理する仕組みが必要なんだ」
俺は村の広場を指す。
「この場所に、依頼掲示板を作る」
「依頼掲示板?」
「そうだ。誰かが“何かを解決してほしい”と思ったら、そこに書き込む。そして、それを見た者が仕事を引き受けるんだ」
村人たちが驚いた顔をする。
「でも、それじゃ村人同士で仕事を回すだけじゃねぇか?」
「最初はそうだ。でも、いずれ“外部の人間”がこの掲示板を見たらどうなる?」
「……!」
村人の一人が息をのむ。
「つまり、冒険者や旅商人が来た時にも、村の問題を解決してもらえるようになるってことか?」
「その通り」
「そんなこと、考えたこともなかったな……」
村人たちが、ざわざわと騒ぎ始める。
「さっそく、作ろう」
俺は木の板を持ってきて、簡単な掲示板を作り始める。
村の男たちも手伝い、数時間後には広場の端に依頼掲示板が完成した。
「これで、村の仕組みが少し変わるはずだ」
俺は手を叩き、村人たちを振り返る。
「最初は小さなものかもしれない。でも、ここから“仕組み”が生まれるんだ」
リナが目を輝かせて俺を見つめる。
「アルクさん……すごいです!」
「いや、すごいのはこれからだ」
俺は、掲示板を見つめながら思う。
これは、ギルドの原型だ。
ここから、少しずつ大きくしていく――。




