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第六話:影を潜める者

森の奥から、獣の影が現れた。


 ワイルドボアとは違う、しなやかな体つき。

 四肢は長く、毛並みは闇に溶け込むような黒色。

 鋭く輝く瞳が、静かにこちらを見ていた。


 (……なんだ、あいつは)


 俺は無意識に喉を鳴らす。

 村人たちはワイルドボア討伐の成功に歓声を上げていたが、まだ油断はできない。


 この獣――間違いない。

 畑に残されていた“あの細長い爪痕”の主だ。


 「アルクさん……」


 リナが不安そうに袖を引く。


 「ワイルドボアじゃ、ないですよね?」


 「ああ……別の魔物だ」


 「どうしましょう……?」


 「まだ分からない。だが――」


 俺は目を凝らし、じっくりと観察する。


 獣は、俺たちの様子を窺っているようだった。

 すぐに襲いかかる様子はない。

 だが、獰猛な空気をまとっている。


 俺たちの方を見て、試すように小さく唸った。


(……威嚇か?)


 もし敵意があるなら、このまま飛びかかってくるはず。

 だが、そうしないということは、まだ様子を見ている状態。


 村人たちも、ようやく獣の存在に気づいた。


 「なんだ……あれは?」


 「ワイルドボアじゃねぇぞ……」


 「まさか、また魔物か?」


 警戒し、武器を手に取る者もいる。

 だが、俺はそれを制した。


 「下手に刺激するな。こっちの出方を見てる」


 村人たちは息をのんだまま、じっと獣を見つめる。


 この状況――下手に動けば、一瞬で襲われる可能性がある。


 と、その時だった。


 獣が、ふっと動きを変えた。


 それまでこちらを見ていた目を細め、ゆっくりと森の中へと姿を消していく。


 「……去った?」


 「いや……おそらく、今は退いただけだ」


 「ど、どういうことですか?」


 リナが不安そうに尋ねる。


 「こっちの戦力を見て、襲うのをやめたんだろう。だが、まだ諦めたとは限らない」


 獣の行動には、理性があった。

 単なる魔物ではない。


 おそらく、ワイルドボアとは違う生態を持つ種なのだ。


「村長、今の獣について何か知ってるか?」


 俺は村長のガルドに尋ねる。


 「……いや、あんな魔物は見たことがない」


 「そうか」


 つまり、村の人々はこの獣のことを知らない。

 それなのに、なぜ村の近くまで来た?


 (……おかしい)


 この数週間で、ワイルドボアが村に頻繁に現れるようになった。

 さらに、今回のように別の魔物も現れた。


 何かが起きている――?


「アルクさん……」


 リナの声が、戸惑いを含んでいた。


 「もしかして、ワイルドボアだけじゃなく、村の周りにもっと危ない魔物がいるんでしょうか?」


 「可能性はあるな」


 「そんな……」


 リナは不安そうに俯いた。


 村人たちもざわつき始める。


 「また魔物が襲ってきたらどうする?」


 「俺たちだけじゃ、対処しきれねぇぞ……」


 当然だ。


 ワイルドボア一匹にここまで苦労したんだ。

 新たな魔物が村を狙うとしたら、さらに大きな危機になる。


 このままでは、村は持たない。


 もし新たな魔物が現れるとしたら、どうする?


 俺たちは、いつまでも**“待つ”しかない状況**を続けるのか?


 (……いや)


 それじゃ駄目だ。


 俺は、ここで確信した。


(この村に必要なのは、“仕組み”だ)


 誰かに頼るのではなく、

 その場限りの対応ではなく、

 村の人間が自分たちの力で問題を解決できる仕組みが必要なんだ。


 「……アルクさん?」


 リナが不思議そうに見つめる。


 「……いや、考え事をしてた」


 俺はふっと息を吐き、夜空を見上げた。


 次の手を考えなければならない。


 ワイルドボアの脅威は去った。

 だが、村の問題が解決したわけではない。


 俺は、もう一度村の状況を整理することにした。

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