第二十一話:村をつなぐ可能性
依頼掲示板が設置され、ゴート村に少しずつ新しい仕組みが根付き始めていた。
村人たちは、興味深そうに掲示板を覗き込みながら、貼られた依頼の内容を確認している。
「ふむ、夜間の見回りの募集か……」
「盗賊の目撃情報……このあたりでも見たって話があったな」
そんな声が飛び交う中、ふとある村人が呟いた。
「手紙も頼めるのか?」
俺は、その言葉に思わず耳を傾ける。
「手紙……?」
つぶやいたのは、年配の男性だった。
「いやな、ちょっと離れた場所に親戚がいてな。本当は定期的に手紙を出したいんだが、商人を見つけるのも一苦労でな」
彼は苦笑しながら続ける。
「まず、どこに行く商人なのかを知らなきゃならんし、見つけても頼めるかどうか分からん。しかも、たまに途中でなくなることもある」
確かに、この世界には郵便制度がない。
手紙のやり取りは、商人や旅人に頼むのが一般的だが、それも相手の善意や偶然に頼るしかない。
「……だったら、せめてルード村とゴート村の間だけでも、手紙を確実に運べる仕組みを作れないか?」
俺は、自然とそんな考えに至った。
「バルザックに頼めば、定期便にできるかもしれないな」
俺の言葉に、隣にいたサムが「なるほど」と頷く。
「バルザックはルード村とゴート村を行き来してるし、定期的に運んでもらえるなら便利だな」
「ただ、バルザック一人に頼りきりにはできない。負担がかかりすぎるし、何かあったときに代わりがいない」
「だったら、他の商人も巻き込めるようにできればいいんじゃねぇか?」
サムの提案に、俺は少し考えた。
「定期的に村と村を行き来する商人が、手紙を運ぶ仕組み」
それが確立できれば、少なくともルード村とゴート村間の通信は格段に便利になる。
「とにかく、まずはバルザックに相談してみるか」
俺たちは、商売の準備をしていたバルザックのもとへ向かった。
定期便の可能性
「ほう、手紙の定期便ねぇ……」
俺たちの話を聞いたバルザックは、腕を組みながら考え込んだ。
「確かに、俺は定期的に行き来してるが、毎回確実に運べるとは限らねぇ。天候や商売の状況次第でルートが変わることもあるからな」
「そうですよね……」
「だが、ある程度ルールを決めれば、実現はできるかもしれねぇな」
バルザックは続ける。
「例えば、俺が村に着いたときに手紙を受け取る。で、次の出発時にまとめて運ぶって形なら、負担はそこまで大きくねぇ。あとは、他の商人にも協力してもらえれば、さらに確実になる」
「なるほど、それなら現実的ですね!」
「ただな……」
バルザックは少し苦笑しながら言った。
「これを制度として根付かせるには、手間賃も考えなきゃならねぇ。タダでやるってわけにはいかねぇからな」
確かに、それは避けられない問題だ。
商人にとって手紙の運搬は商売ではなく、あくまで“ついで”の仕事になる。
そのため、何らかの形で報酬を設定する必要がある。
「これは、長期的な課題として考えたほうがいいかもしれませんね……」
とりあえず、バルザックが運べる範囲で試験的に始めてみることになった。
そして、話が一段落したところで、ギルバートがやってきた。
「お前ら、夜の警備の件だけどな」
彼は少し渋い顔をしながら続ける。
「まだ村人の中には警戒してるやつもいるし、いきなりお前らを戦力として組み込むわけにはいかねぇ。だから、まずは“外から様子を見る”形で参加してもらうのはどうだ?」
「外から様子を見る?」
サムが首をかしげると、ギルバートは頷いた。
「実際の見回りは、経験のある村人たちが担当する。ただ、お前らにはその様子を見て、何か気づいたことがあれば報告してもらいたい」
「なるほど……つまり、警備に同行する……みたいな感じですか?」
「まぁ、そんなところだな」
俺たちが村の状況を把握しつつ、問題点を見つけられるなら、それもまた役に立つ。
「分かりました。じゃあ、今夜の見回りに同行させてもらいます」
「おう、頼んだぞ」
こうして、俺たちは新たな役割として夜間の警備に参加することになった。
手紙の定期便、依頼の仕組み、警備の強化。
少しずつ、村と村をつなぐ仕組みが整い始めている。




