第十八話:村の守り手
俺たちは、夕暮れの街道を歩きながら酒場へと向かった。
バルザックの助言はもっともだ。
どれだけ正しいことを言っても、それを伝える人間の信用がなければ、誰も動かない。
俺たちは村のよそ者。
もし、この案を実現するなら、村で信頼されているギルバートの協力が必要不可欠だった。
酒場に入ると、すでにギルバートは奥の席に座っていた。
昼間と違い、彼の表情はどこか疲れが滲んでいる。
俺とサムは互いに頷き合い、彼の前へと歩み寄った。
「ギルバートさん、少しお話ししたいことがあるんですが……」
俺が声をかけると、ギルバートは杯を置き、ゆっくりと顔を上げた。
「おう、お前らか。……なんだ、深刻な顔して」
俺は、村の盗賊対策について考えた案を丁寧に説明した。
互助組織として資金を出し合い、労働や特産品で負担を分散すること。
夜間の見回りを強化し、情報を共有する仕組みを作ること。
ギルバートは腕を組みながら、静かに話を聞いていた。
すべてを話し終えた後、彼は少しの間、黙って考え込んだ。
やがて、低い声で口を開く。
「……悪くねぇ話だ。だがな、お前ら、これは簡単なことじゃねぇぞ」
「分かってます。でも、このままじゃ何も変わらないんです」
俺が言うと、ギルバートはわずかに目を細めた。
「……バルザックから聞いたんだな?」
「はい。俺たちだけで話を持ちかけても、信用されないって」
「そのとおりだ」
ギルバートは杯の中の酒を軽く揺らしながら、言葉を続けた。
「村の連中はな、基本的に慎重なんだ。今までやってきたことを変えようとすると、反発するやつもいる」
「……そう、なんですね」
「けど、確かにこのままじゃ状況は悪くなる一方だ。俺も、盗賊を何とかしたいとは思ってる」
ギルバートは軽く息をつくと、俺たちを見据えた。
「分かった。お前らの案、俺が村の連中に話してみる」
「……本当ですか?」
サムが勢いよく前のめりになる。
「ただし、すぐには受け入れられねぇと思え。村には、何かを決めるときに一番声が大きいやつらがいる。そいつらを説得できなきゃ、どうにもならねぇ」
「その人たちって?」
俺の問いに、ギルバートは少し考えながら答えた。
「村の長老たちだな。特に、牧畜をやってる連中は影響力がある」
「じゃあ、その人たちを説得すれば……」
「簡単に言うが、それが一番難しいんだよ」
ギルバートは、杯をテーブルに置きながら言った。
「とはいえ、やる価値はある。俺も、このまま盗賊を野放しにするわけにはいかねぇからな」
俺は、静かに拳を握った。
――第一の壁は乗り越えた。
次は、村の中心人物たちを説得することになる。
「ありがとう、ギルバートさん」
俺とサムは深く頭を下げた。
「いいってことよ。まぁ、まずは俺が話を持ちかけてみる。お前らも準備しとけよ」
「はい!」
こうして、俺たちは次の段階へと進むことになった――。




