第十七話:信用という壁
夕暮れの市場。
陽が傾き、赤みを帯びた光が村の建物を照らしている。
市場の活気も少し落ち着き始め、村人たちはそれぞれの家へ帰る準備をしていた。
俺とサムは、荷車を片付けていたバルザックを見つけ、すぐに声をかけた。
「バルザックさん、少し相談したいことがあるんですが……」
バルザックはロバの手綱を直しながら、俺たちを一瞥した。
「おう、なんだ?」
俺は一呼吸おいて、サムと考えたことを話し始めた。
「この村では、盗賊の被害が増えているのに、冒険者を雇う余裕がない。だから、村全体でお金を出し合って対策をする“互助組織”を作れないかと考えたんです」
バルザックは手を止め、じっと俺を見た。
「……なるほどな。それで、どういう仕組みを考えてるんだ?」
「お金だけじゃなく、労働や物品での協力もありにします。金がない人でも見回りを担当したり、特産品で報酬を支払うようにすれば、負担を分散できます。それに、情報共有の仕組みも作れば、盗賊の動きを把握しやすくなるはずです」
サムも勢いよく続ける。
「つまり、村全体で協力して盗賊を防ぐ仕組みを作るってことだ!」
バルザックは腕を組み、しばらく黙って考えていた。
やがて、低く唸るような声で口を開く。
「……悪くねぇアイデアだ。村の連中が協力すれば、確かに効果はあるだろう」
俺とサムは安堵しかけたが、バルザックはそのまま続けた。
「だがな、お前らが言い出したってだけで、村の連中が信用するか?」
「え……?」
俺は思わず聞き返した。
「考えてみろ。お前らは村のよそ者だ。それに、いくらまともなことを言っても、若造二人の言葉だけで、そう簡単に納得するもんじゃねぇ」
確かに、ルーデ村で俺が仕事の依頼システムを作ったときは、村長やバルザックの後押しがあったからこそ、スムーズに受け入れられた。
「誰が言ったか、ってのは、意外と重要なんだよ」
サムが眉をひそめながら言った。
「でも、やることは間違ってねぇだろ?」
「間違ってねぇさ。だが、村の連中が“お前らの考えだから”って理由で拒む可能性がある」
バルザックは肩をすくめる。
「だからこそ、まずは“信用できる誰か”に話を通して、その人間の口から提案してもらうのがいい」
俺はすぐに、村で最も信用がある人物を考えた。
「……ギルバートさんとか?」
「ギルバートを既に知っているなら話が早い。ギルバートなら村の連中からの信頼も厚い、見回りをしているから事情にも通じているから適任だろうな」
バルザックは頷く。
「まずはギルバートに話を通して、彼の口から村の連中に伝えてもらえ。そうすりゃ、お前らが言うよりは説得力が増すだろうよ」
俺とサムは顔を見合わせ、頷いた。
「よし、ギルバートさんに話してみるか!」
俺たちは市場を後にし、ギルバートがいるという酒場へと向かった。




