【プロットタイプ】お兄ちゃんと呼びたくない
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
麗衣ちゃんの『瑠衣くん』呼びの理由。
結構、重たい理由があるんですよ。
私の兄は体がそんなに強くない。数週間前風邪を引いたばかりなのに、また風邪を引いた。其れでも出席停止ではない為、今日も学校に行くようだった。
「お兄ちゃん……じゃなかった。瑠衣くん。マズいと思ったら部活休んで帰ってね」
「…………」
返事はない代わりに、無表情の代わりに、眉がピクっと動いた。『理解はした。けれども納得はしてない』という事だろう。
私は暫く睨みを聞かせると、切り札を出す事にした。
「良いもん。同じ部活の人に伝えてあるから。『なんかマズい』と思ったら私に連絡先下さいって」
そう言うと、私は準備をして自分の部屋へ戻った。
「瑠衣た〜ん。また具合悪い〜? あ、また無視して物書きしようとして、麗衣たんに連絡入れちゃお〜っと」
喉が痛い。それ故に声も上手く出ない。体全身に倦怠感が巡っているが、物を書く上では支障がない。意識もそれなりに明晰だった。
体調が悪くなると、なおのこと筆を持たなくてはと思う。別にこれぐらいで死ぬとは思っちゃ居ないが、人生何があるか分からないから、何かしら残して起きたいのだ。
そして目の前の鏡花は、俺を心配して麗衣に連絡を入れようとしている訳では無い。単純に人間観察がしたいだけである。麗衣が、俺がどんな反応をするか。それを目に焼き付けたいだけ。
俺は倦怠感を踏み倒しながら、睨みを効かせる。けれども鏡花は何処吹く風で、端末を弄っている。
あぁ……でも……意識が遠のいて。
「すみません。兄が体調不良と聞いて、引き取りに来ました」
連絡を受けて創作部の部室へと訪れると、机に突っ伏したお兄ちゃんとその様を黙って観察する鏡花ちゃんがいた。
鏡花ちゃんは何時ものハイテンションな明るい面持ちではなく、冷たい、相手を見下す様な表情をしていた。
「今、ちょっと寝てるみたい。運ぶの大変なら、私も手伝うよ」
私の姿が近付くと、鏡花ちゃんは人差し指でお兄ちゃんの背中をグリグリと押す。何かツボを刺激する様な仕草に、思わず目が点になる。
其れでもピクリとも動かない様を見ていると不安になる。だから軽く肩を揺すって声を掛ける。
「大丈夫。お兄ちゃん。じゃなかった。瑠衣くん帰るよ」
「……手伝おうか? 」
鏡花ちゃんが困惑した表情で椅子から立ち上がった。
これで起きるお兄ちゃんではなかった。というか、これで起きるなら何も苦労はしていない。
此処が創作部の部室である事。私が部外者であること。其れらを加味して一度は躊躇ったが、目覚めない鏡花ちゃんの迷惑になる。
私は大きく息を吸い込むと、耳元で絶叫した。
「……瑠衣!! 瑠衣くん!! 朝!! 朝です!! 創作部行くんでしょ!! 今すぐ起きて!! さぁ!!」
するとのっそりと顔が起き上がり、寝起きの、不機嫌そうな顔をした瑠衣くんの顔が私を捉えた。寝起きが悪いのはどうやら創作部でも変わらないらしい。
「麗衣?」
「そうだよ。気絶してたでしょ? もう帰るよ。ほら、立って。お兄ちゃん……じゃなかった。瑠衣くん!!」
「荷物は私が持つから、瑠衣たん、運べる? 辛いなら、私が足の方持つよ」
鏡花ちゃんはそう言うと、瑠衣くんの鞄を持っていつも通りの笑顔を浮かべていた。
「其れは大丈夫。瑠衣くん担いで走れる体力はあるから。……邪魔してごめんなさい……」
今の時間は部活中である。そして何より此処は創作部のガチ勢の居場所である。つまり、人の世話を焼くよりも物を書いていたい人々の集まりである。つまり私達は今此処にいる人々の邪魔者でしかない。
そんな申し訳なさから頭を下げると、鏡花ちゃんはヘラッと笑う。
「気にしないで」
背中に瑠衣くん。横に鏡花ちゃん。この並びで昇降口まで向かう。瑠衣くんはまだ体力が残ってないせいか、また眠りに着いている。すると鏡花ちゃんが口を開いた。
「あのさ、麗衣たん。瑠衣たんのこと、たまに『お兄ちゃん』って呼ぶよね? 何時もは瑠衣くんなのに。それもわざわざ言い直して『瑠衣くん』って言い直してる。何か訳があるの?」
鏡花ちゃんの真面目な顔が私を射抜く。なんだか何時もの鏡花ちゃんじゃないみたいだった。不思議ちゃんと言われる程、思考回路が飛躍していて、発想が突飛な彼女らしくない、大真面目な表情。
その表情に域を呑んでいると、鏡花ちゃんはまた笑う。
「言いたくないならいいよ」
「あ、そうじゃなくて。えっと……恥ずかしいんだけど……名前呼んだ分だけ、お兄ちゃん……じゃなかった。瑠衣くん、長生きしそうで……。瑠衣くん……病弱だから……名前呼ばないと……すぐいなくなっちゃいそうで……」
瑠衣くんは病弱である。取り分け幼少期は何度も病院のお世話になった。脆く、儚く、目を離した隙に何処かへ消えてしまいそうな、そんな弱々しさがある。
だから『お兄ちゃん』ではなく、『瑠衣くん』という名前で呼ぶのだ。
『お兄ちゃん』という単語は日本中、毎日何処かで言われている呼び名で、私にとっては特定の誰かを表す言葉では無い。けども『瑠衣』という名前は私のお兄ちゃん、つまり『先坊瑠衣』を表す名前に他ならない。他の誰を指す言葉でもない。
だから、呼んだ文だけ存在が確かになる気がする。
「本当は昔、『お兄ちゃん』って読んでたんだよ。憧れでもあったし。でも今は……うん……」
「仲良しさんだねぇ〜。可愛いねぇ〜。うりゃうりゃ」
そう言うと、鏡花ちゃんはニコニコと笑って私の髪を撫でた。ついでに後ろに凭れる瑠衣くんの髪も。その様がなんだかお母さんみたいで、つい、顔を綻ばせてしまう。
「あ、もう大丈夫だから。部活邪魔してごめんね」
「気にしないで。『瑠衣くん』呼びの優しい理由聞けたしね」
オマケ
「な〜んで、大天使れーちゃまの片割れが、極悪魔るいたんなのか、キョーカ全く分からなぁ〜い」
「うっっっっっざ」
「なんだ。喋れるだけ元気じゃん。じゃ、心配要らないね」
Q 瑠衣くんってモテる?
A モテる訳ありません。状況が特殊だから、特殊な人のハーレムが出来上がっているだけです。
Q 麗衣ちゃんと鏡花は仲良し?
A 今の設定では同じクラス。そして瑠衣たんを通じて仲良しです。元々れーちゃまの気立てが良いので、キョーカも気に入ってます。
Q 麗衣ちゃん、瑠衣くんにクソデカ、激重感情持ってるけど、彼女出来たら反対する?
A 反対しません。寧ろ愛人は居ればいるだけ良いと思ってます。
だってその分、救急車呼んでくれる人が多くなるから。
麗衣ちゃんが『お兄ちゃん』と呼ぶのはかなり昔。
其れこそベッドでもがき苦しんで、母と同様に叫んでいた時代。
『お兄ちゃん、しっかりして!!』でした。
でもある時『お兄ちゃん』って名称は特定の誰かを表す言葉じゃない。自分の兄ならば『お兄ちゃん』が通用する。瑠衣を表す言葉じゃない。
最期の最期に『瑠衣』という名前さえ呼ばずにお別れしちゃうんじゃない?
そもそも私が瑠衣くんの命を毟って生まれてきたんだから、繋ぎ止めるのも私の役目。
という理由から『瑠衣くん』呼びに変更してます。
今の設定では、病弱で倒れてるの見ると、昔の記憶がフラッシュバックして『お兄ちゃん』呼びになってるだけです。