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貝の信仰
静かな夜
文学は友
泳ぎ出す言霊と
依代になれなかった形代たち
深海の底に密かに
生きているけれど
対話することなく
魂の息吹を糧にして
小さな異物を芯にしたら
幾層にも輝きを重ねながら
育む真珠の魂
主の手に採られ
選別により
神の衣装を飾る貴石となればと
祈る
海流を読み覚えて
旅に出る
千年も生きる亀や
人類の守護者になった哺乳の王の鯨と
友になり
交流と神託の使者のイルカや
後ろの正面ポセイドンに
相見える
やがて蜃気の長老に迎えられて
幻の楼閣に仮住まい
改心した海賊の騎士と
土蜘蛛の仙人がやって来るが
蓬莱山と間違えましたと
ほどほどの挨拶をして
霞の露を集めて作った金平糖を土産にと
箱に詰めて持って帰る
海はまた平坦に
真直な水平線だけになり
雪のように溶けて消える乙姫
あの金平糖は
果たして無事に
殿様の口に運ばれて
人間の幸福の役に立ったのだろうかと
必要のない心配で
ぼくはまた海に沈む
深海の太陽
布団の温もり
妹背の寝息
ゆるい朝日が漏れる窓
待っているのは
今日だけの仕事の依頼