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クールな彼氏。

作者: 零雅

「新?」


「…」


あたし「遊沢 亜雪」が、


こいつと付き合い始めたのは三ヶ月前。


「おーい、新くーん?」


「…」


そろそろ付き合っているという状況にもなれた頃。


なんて、初々しい感覚、あたしたちには無いけどね。


「…」


付き合い自体は三歳の頃からなわけだし。


相手のことなんてもう全部知り尽くして…。


「なぁーーーい!!!」


「…うるせぇ」


なんなの!?


こいつ!!


ずっとこっちが話しかけてるって言うのに!!


しかととはどーいことだ!!


こいつと出会ってからもう早、十三年と三ヶ月。


好きになったのはたぶん中2の頃だったと思う。。


付き合い始めたのはあたしの告白。


な・の・に!!


こいつの考えてることが全然わかんない!!


クールなやつなんで嫌いだっ!




―――――――――――――――――――――――――




あたしの朝は、幼馴染で一様彼氏である「神庭 新」に起こされることから始まる。

    ・・

そう、一様彼氏の。


起こされてる手前、こんなこと口には出せないけど。


「んん~…」


「おい亜雪、起きろ」


今日も新の冷めた声があたしを起こす。


新は生粋のクールさの持ち主だ。


誰に対してもクールだけど、口数が少ないわけではないからなんでもズバズバという。


とくにあたしには。


彼女だけは甘いとか、そーいうおいしい設定は全く持って皆無。


「分かってる~…」


そう言いながらあたしはまだ恋しいベットから這い出す。


と。


「今日も遅刻だな」


つぶやくようにかけられた声で、あたしは新を見るとぎょっとした。


あ、新が…笑ってる!?


いや、笑ってるというより微笑んでるに近いのかな?


新の笑顔は幼馴染のあたしでも滅多にお目にかかれない。


珍しい光景に頬が緩む。


っていうより…あたしが新を好きになったキッカケでもあるこの笑顔を朝から見たせいもあるけど。


新の笑顔は悩殺ものだ。


普段の無愛想な姿からは思いも付かないくらいに綺麗に笑う。


でも、そう簡単に笑顔を作ることは無い。


実はそーいうところも少し…好きだったする。


でも、新は何で笑ったんだろ?


「お前さ…」


「な、なに?」


思わずろれつが回らない。


新の言葉に少しだけ期待してしまう。


「…今日の寝癖すげぇ」


…前言撤回。


期待する意味なし。


この後、あたしの寝癖のせいで新もろとも遅刻したのはいうまでもない。




―――――――――――――――――――――――――




「お前のせいだ」


「だからあやまってるでしょ!!」


今は昼休み。


あたしたち二人は遅刻したため職員室に呼び出されてたっぷり絞られた。


…全部、あたしのせいなんだけど。


すっかりやる気をなくした新の機嫌を伺いながら、あたしたちが廊下を歩いていると


一人の女の子が声をかけてきた。


…あたしの知らない子。


色々な中学から来ている我が高校はまだまだ知らない子がいっぱいいる。


…しかもメチャクチャ可愛い。


「新君ですか?」


「は?俺?」


どうやら新も知らない子らしい。


同学年の子じゃないのかな?


「あの…ちょっと、体育館に来てもらえますか?」


体育館…?


もしかして…新に告白っ!?


新…行くのかなぁ?


「…悪ぃ、さき行ってて」


…やっぱり行くんだ…。


「…分かった」


なんだか二人が一緒にいるのを見ていられなくて、


あたしは一人小走りに教室に戻った。




―――――――――――――――――――――――――



「どうしたのよ?


せっかくお説教が終わったっていうのに」


「だってぇ~…」


教室に戻ったあたしに声をかけてきたのは親友の美桜 柚奈。


中学校からの仲だ。


「新君が体育館に呼ばれたぁ!?」


「ゆ、柚奈!!声大きい…」


「大きくもなるわよ!!


なんでとめなかったのよ?


一緒にいたんでしょ?」


「だ、だってその子すごく可愛くて…」


さっきのことを話すとお説教のとき以上に怒られた。


姉御肌な柚奈はあたしの相談相手でもある。


「可愛さがなんだっていうのよ!


新君の彼女でしょ?


それに新君モテるんだから、気をつけないと!」


「え!?新ってモテるの!?」


「本当に疎いわねぇ~…。


上級生からも同級生からもモテモテなんだから!!


少しは自覚した?」


そんなにモテるんだぁ…。


「うん…した…。


あたしなんかが…新と付き合ってていいのかな…」


「いや、そうじゃなくて…」


「違うの?」


「…もういいわよ。


あ、ほら!!


新君帰ってきたわよ?」


柚奈が話の途中で教室の扉を指差す。


そこにいたのは新と…さっきの女の子だった。


なんだか仲良さげに話してる。


…新、普段はあんまり女子と話さないんだけどな…。


その子が教室を離れると、近くにいた男子が新を冷やかす。


「新!さっきの誰だよ?」


「何!?新しい彼女!?」


「てか、お前って遊沢と付き合ってなかったっけ?」


「嘘っ!?もう別れたわけ??」


他の男子がぐちゃぐちゃしゃべってて、新の声が聞こえない。


なんだか心なしが怒ってるような感じがする。


…何…じゃべってるんだろ?


もしかしてあの子と付き合うからあたしと別れる、とか?


自分で考えたことに自分ですごいショックを受けた。


だってよく考えてみると、あたしが新と付き合ってるってちゃんと言える自信が無い。


手だって繋がないし、カップルらしいことなんて一緒に登下校することくらい。


でも、幼馴染のあたし達にとってそれはずっと前から当たり前のこと。


今更それがカップルらしいこととは思えない。


新はクールだから話しかけるのもあたしからだし。


これは仕方ないけど告白だってあたしからだ。


新から直接好きだって言われたことなんて…ない。


…新は…あたしのこと、好きなんだろうか?


考えれば考えるほど泣きそうになる思考回路をとめて


もやもやとした気分のままあたしは午後の授業に出た。




―――――――――――――――――――――――――




何も考えないまま進んでいく午後の授業は思ったよりずっと短かった。


…あたし、ふられるのかな?


折角告白したのに…ダメになっちゃうのかな?


告白するときは幼馴染だから、すごい恥ずかしかったし


バカにされるんじゃないかなって心配になったけど。


新はあたしの想いをちゃんと聞いてくれた。


あたしはそう思ってる。


でも結局、新はあたしが幼馴染だから気遣ってくれたのかも知れない。


だったら…迷惑かけちゃダメだ。


せっかくあんなに可愛い子に告白されたのにあたしのせいで付き合えないなんて


新にふられるよりもずっと嫌だった。


そして、放課後。


あたしが帰り支度を終わらせた頃。


新はいつもあたしを迎えに来てくれる。


でも…甘えちゃダメだ。


あたしはいつもより早く支度を終わらせて教室を出た。


…まぁ、同じクラスなんだからバレバレなんだけどね。


スクールバックを片手に持ちながら全力で走った。


つもりだったんだけど。


後ろからかすかに新の声がする。


…いつもはあんなに大きな声、絶対に出さないくせに。


なんでこんな時だけ。


あたし、期待しちゃうんだよ?


ずっと…新のこと好きだったんだから。


気づくとあふれ出していた涙をぬぐって学校を出る。


いつもの帰り道。


ずっと、新と一緒に通ってた道。


これからは…あたし一人で通わなくちゃ行けないんだよね。


そう思うと一層寂しくなった。


でも、頼っちゃいけない。


甘えちゃいけない。


そうやって、自分の気持ち押し殺して決心したのに。


突然腕を強い力で握られた。


後ろを振り向くと、


「…なんで勝手に先帰ってんだよ」


息を切らした新がいた。


…普段は運動神経良いのにめんどくさがって遅刻しそうでもまともに走らないくせに。


部活のとき意外、汗なんかかかないくせに。


なんで、そんなに息きらすほど走ってんのよ…?


「だって…」


新の目が真剣すぎてまともに見れず視線をそらす。


「おい、目ぇそらすな」


普段とは違う地力強くてよく通る新の声。


圧力に押されて嫌でも顔をあげてしまう。


「なんで先帰った?」


「新に…迷惑かけちゃいけないと思って…」


「は?迷惑?」


「だって…迷惑でしょ?


あたしがいたら…告白されたって付き合えないし。


幼馴染だから気使わせちゃうし…」


あたしは今にもあふれ出しそうになる涙を必死でこらえながら話す。


新からの反応はない。


「だからっ…」


「…黙れ」


「は?」


「お前、もうしゃべんな」


「な、なんでよっ…」


「お前の言ってること、意味わかんねぇからだよ」


意味わかんない?


あたし、そんなに変なこと言ってたかな?


あっ…もしかして…もともと付き合ってるつもり無かった…とか?


「もしかしてもともとあたしと付き合ってるつもり……ひゃぁ!!」


質問をする途中で言葉がさえぎられた。


だって!!


「な、何してんのよ!!」


「…それ、俺に言わせんの?」


新に持ち上げられたあたしは見事なお姫様抱っこ状態。


いつも以上にムスッした表情で歩き出す。


「…ど、どこ行くの?」


あたしがためらいがちに聞くと、


「屋上」


屋上…あたしが新に告白した場所。


でもそれって、学校に戻るって事だよね?


「ちょ、ちょ、ちょっと待って!!


まさかこのまま行くわけじゃないよね??」


「何か不満でも?」


「不満だらけだよ!!


この状態じゃ絶対に勘違いされちゃうじゃん!!」


「させときゃいーじゃん。


別に誤解されても困らねぇし」


不満そうな顔をいっそう歪めて足を速める。


そしてあたしの抵抗も無なしく…。


「お前ら何やってんの…?」


クラスの男子に遭遇…。


部活中だからだいたいの生徒は外にいるけど全員とはいかず


暇つぶしに教室に残っている人もいる。


あたしもその一人だったわけだけど…。


「てか、お前やっぱり好きなんだなぁ」


「うるせぇ、早く帰れよ」


何かよく分からないことをつぶやいた男子をばっさりと切って再び歩き出す。


…何の話だったんだろう?


でもその答えも見つからないまま屋上へ付いた。


とりあえず奥に置いてあるベンチに座る。


でもあたしにはどうしようもない。


しばらくして新が沈黙を破った。


「さっきの話、なんなわけ?」


「何って…だって、あたし迷惑でしょ?」


「は?」


「だって…あんなに可愛い子、普通振らないでしょ?


付き合うんだったらあたし…邪魔になっちゃうし…。


迷惑だけはかけたくないもん…」


あたしがひとしきりしゃべると再び沈黙。


でも、突然


「はぁ~…、やっぱもうしゃべんなくていいわ」


「ふぇ?なんで…」


「お前、俺のこと全然分かってねぇ」


わかるわけないじゃん…。


ずっと一緒にいるけど、新たの好きなものとか嫌いなものとかは分かっても


新た自身の気持ちは全然ん分からない。


「…わかんないよ。


だって新、あたしに冷たいし。


あんまりしゃべってくれないし。


あたしを好きかだって…分かんないし」


「…言えるかよ、そんな簡単に」


新が一度言葉を切って息を全部吐き出すように深呼吸してまた口を開いた。


「…言える訳ねぇだろ。


何年好きだったと思ってんだよ」


「へ?」


「だいたいお前だって言ってねぇだろ。


俺のことどう思ってんのか」


「言って…なかったっけ?」


「…言ってねぇよ」


…確かに。


告白するときもパニックになり過ぎてほとんど勢いで


「あたしと付き合って!!」


っていっただけだし。


もしかして、あたしの思い全く新に伝わってなかったのかな?


「ごめんね…?」


「…別に」


「あたし、新が好きだよ。


新があたしのこと好きじゃなくても…。


あたしは…新が好き」


言い終わって息を吐く。


今更だけどどんどん恥ずかしくなってきた。


やばいっ、顔熱い~…。


でも、これであたしに心残りは無い。


「だから…って、えぇ?」


だから迷惑かけたくない、って。


そう言おうとしたあたしの言葉が出かけて止まった。


隣に座っていた新があたしの手を握った。


「もうしゃべるな」


そ、そりゃ手を繋ぐくらいカップルなら当たり前かもしれないけど


あたしたちからしたら結構異常なわけで…。


「迷惑じゃない」


「え?」


「迷惑でもなんでもないし、


むしろお前が俺以外を好きだったら困るんだけど」


「…な、なんで?」


「それ、言わせるわけ?」


だって…パニックになり過ぎて何を言われてるか分からなくなってきた。


「だから………


好きなんだよ、お前のこと」


「えっ………んっっ」


叫びそうになったあたしはまたも言葉を飲み込む。


てか…キスされてて声が出せない!!


やっと離れた唇で深呼吸しながら新を見る。


「あ…新?」


「嫌?」


「へ?」


「だから、俺のこと嫌い?


さっきみたいなことされて、嫌?」


「い…嫌じゃないです…」


は、恥ずい…////


真っ赤になったあたしを見て新が満足そうに微笑む。


その笑顔にまたもや胸キュン。


ど、どこまであたしを赤面させるつもりだぁぁぁああ!!


わずかな沈黙のあいだに火照った頬を冷ます。


なのに。


「俺、お前以外の奴を好きだったことねぇから」


…なんて。


いつもはクールなくせにキザな台詞吐きやがる…。


てか、もしかして今の新…メチャクチャあたしに優しい…?


いやいや…!!


彼女にだけ甘いなんてそんなおいしい設定、新にかぎってあるはずがっ…。


「…お前、男子と仲良過ぎんだよ。


おまけに鈍感だし。


そんなやつに簡単に告れるかよ」


な、なんかバカにされた気もするけど…。


今の新、メチャクチャ可愛い…!!


若干だけど顔赤いし…。


「新、顔赤いよ?」


「…るせぇ」




―――――――――――――――――――――――――




「えぇぇ!?


部活の新しいマネージャー!!?」


「それ以外にねぇだろ」


いやいや、ありますから!!


体育館言ったら告白でしょ!


新を呼び出したあの子のことを聞くと、


どうやら新しく入ることになったマネージャーらしい。


な、なんてベタなオチっ…。


「勘違いしてんじゃねぇよ、バーカ!!」


「な、なによ!!


人がこんなに心配して大変だった言うのに!!」


だいたいあれがなかったら別れようなんて思わなかったしっ…。


「俺は別によかったけど?」


「なんでよ?」


「へぇ…またそれを俺に聞くのか?」


き、聞いちゃいけないの?


何か切り返そうと思って言葉を捜してると、


新があたしの耳にそっと顔を寄せる。


「…お前の気持ち、聞けたから」



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