第6話 協力者
第1部 過去への贖罪
調査を開始してから2日が経った。
あれから俺と蓮次とシエラの3人で第一体育館、第二体育館、食堂、美術室、自習室、生徒指導室、応接室、コンピュータ室を調査し、2日かけて見つけた魔術痕は食堂に1つだけだった。
俺たちは話が聞かれないように仙道隊長に許可を貰い、壱番隊隊舎の隊長室で話し合いをすることにした。
「全然見つからねー。この学校広すぎだろ」
「探す場所はまだまだありますからね」
「内密に調査って言っても許可を取らないと入れない場所や絶対に人目に付く場所もあるからそこはどうしようか」
「君たちお困りのようだね。そんな君たちに1つアドバイスをしてあげようじゃないか」
話を聞いていた仙道隊長が先輩らしいことをしようと得意げな顔をしている。
「何か方法があるんですか?」
「それはね、他人を巻き込んじゃえば良いんだよ」
「他人を巻き込む? でも口外禁止で内密に調査しないといけないんですよね?」
俺たちは仙道隊長の言葉に無理解を示していた。
「他人を巻き込むって言っても国際機関高等学校の生徒会をなんだけどね。
そもそも僕が生徒会に話を持ちかけたら『今の時期は人手不足で割ける人員がいません。これから人員のスカウトもしなければいけませんし、余裕が出来たら手伝います』と断られてしまったよ。
だから先に君たちに話を持ち掛けたってわけ」
「そうだったんですね。それで、今なら生徒会の人たちは協力してくれそうなんですか?」
「してくれると思うよ。最近新しく1年生が何人か入ったって聞いたし。
それに今ここで考えていても何も変わらないし、明日生徒会室に行こうか。僕も一緒について行くよ」
「そうですね。では明日の放課後に生徒会室に行きましょう」
俺たちはお互いの顔を見合わせて頷いた。
「じゃあ明日は放課後に生徒会室に集合ということで。僕の方から生徒会長には話を通しておくよ」
「分かりました。ありがとうございます」
今日の話し合いはこれで終わり、俺たちは壱番隊隊舎でご飯を食べて解散となった。
――――――――――――
翌日の昼休み、最近俺は重護と昼食を摂ることが多い。今日もまた誘われて屋上で弁当を広げて話しながら食べていた。
「瑛志、なんか最近変わったことないか?」
「どうしたの? 急に」
「いや、ここ暫く妙な気配を感じるんだ。なにか良くないものが動いている感じがしてな」
重護も感じ取っているものがあるということか。
「実は俺、生徒会長にスカウトされて生徒会に入ったんだ。
まだ雑務くらいしか仕事はしてないけどな」
「え、そうだったの?」
「あぁ、そこで今課題に挙がっていることの1つがこの学校に仕掛けられている魔術痕の調査なんだ。
それをエイミー隊長、瑛志、天宮、シエラが調査してくれていて、現時点で3つ見つけたんだろ?」
「えっ…?」
俺はきっと今驚いた顔をして重護の方を見ているんだろう。
なんでそこまで知っているんだ? 俺たちは誰にも口外していないはずだ。まさか見られていたのか?
「そんなに驚くのも無理はないか。口外禁止で内密に調査しているんだろ?」
「…いつから知ってたの?」
「そんなに警戒しないでくれ。瑛志たちが調査を始めたその日の放課後に生徒会長から聞いて知ってた」
内密なのに全然筒抜けじゃ、いつ敵に知られてもおかしくないじゃねぇか。
「別に瑛志たちの邪魔をしようとかじゃなくて、むしろ手助けをしたいんだ。
これは生徒会も内密に調査しなくてはいけないし、生徒会長の言葉を信じるなら、敵にはまだバレていないらしい」
「そうか。その言葉を信じるとしてもなんで生徒会長は俺たちが調査していることを知っているの?」
「それは、俺の口から言っていいのか分からないし、まだどうやっているのかも理解出来ていない。だから直接生徒会長に聞いてくれ」
「…分かった。そうするよ」
この話は短く終わり、それから重護は「それはそうと」と話題を変え、俺たちは何気ない話をしばらくした。
その数分後、屋上のドアが開き1人の少女が現れた。
「おぉ、陽奈じゃねぇか。どうしたんだ?」
「こんな所にいたのね! 『どうしたんだ?』じゃないわよ! 今日はお昼に話したいことがあるって言ってたじゃん!」
「え? それって今日だったっけか? すまんすまん。完全に忘れてた!」
「もう、しっかりしてよね!」
なんだ? 急に気まずいんだが?
俺は2人のやりとりを見ながら弁当を片付けているとその女の子が俺のことに気がついた。
「うわぁっ! びっくしたぁ〜! 君いたの?」
「おいおい、それは瑛志に失礼すぎないか?」
「っ! だって…じゅ…ごしか……なっ…たもん…」
「なんだって? なんて言ったんだ?」
急に恥ずかしくなったのか声が小さくなり、聞き取れなかった言葉を重護はその子に聞き直した。
「…っなんでもない!」
「そんなに怒るなよ。悪かったって。今度陽奈が食いたいって言ってたスイーツでも食いに行こうぜ!」
「それで許してあげる!」
なんか恋人同士みたいだな。仲直りできたみたいでなりよりだ。
「瑛志も悪いな。こんなところを見せちまって」
「いや、2人とも仲が良さそうでとても微笑ましいよ」
「私もお昼の邪魔してごめんなさい」
「俺の方こそ重護と予定あったの知らなくて。なんかごめんね」
重護が申し訳なさそうに俺の方へと向いた。
「瑛志はなんにも悪くないぜ。俺が忘れてたのが悪いんだしな」
「全くもってそうよ! 君も悪くないんだから謝らなくていいんだよ!」
「あはは…。ありがとう」
俺は頬を掻きながら苦笑いをした。
それから重護はその子と用事があるため、俺に一言お詫びを入れて今日の昼食は早めにお開きとなった。
――――――――――――
俺は重護との昼食を終えて教室に戻る途中、中庭を通りかかったついでに桜の樹の様子を見に行った。
「こんにちは瑛志くん。今日は天気が良いですね」
「シエラか。そうだね、良い天気だね」
シエラは俺の目線の先を見て言った。
「やっぱりあの桜の樹が気になりますか?」
「うん。この樹は学校の中心にあるから魔術痕がここに仕掛けられた理由が何かしらあるんじゃないかと思って」
「そうですねぇ、何か法則が分かればある程度予測はつくのですが」
「おいおいおい、こんな美女と誰が喋っているかと思えば鐡瑛志じゃねぇか」
俺たちが話している間に割って入ってきた人物がいた。
「お前みたいな雑魚が背伸びなんかすんなよ。惨めに見えるぜ」
俺に話しかけてきたのは辰巳剛毅とその取り巻き二人だった。
「……」
「何か言い返してみろよ。それとも図星だったから何も言い返せないのかよ。つくづく情けねえ。
そこの君もこんな奴に関わらない方がいいぜ。品位が落ちちまう。これは君のために言ってるんだ。
それにこんなに美人で可愛い子は俺の隣が1番相応しいぜ。そうだろ? お前ら」
「全くもってそうです!」
自意識過剰なのか自己肯定感が強いのかは分からないけど、取り巻き達にも同意を求めていた。
そしてその取り巻き達は辰巳剛毅のご機嫌とりをしているのか胡麻を擂っているだろうということは見てとれた。
「本当にダセェ奴だぜ。何とか言い返してみろよ!」
「お前には耳もなけりゃ口もねぇのか?」
取り巻き2人は俺のことを馬鹿にしながら得意げに笑っている。
「そういえば君、名前はなんて言うんだ?」
辰巳剛毅の視線は俺からシエラの方へと向いた。
「貴方には教えたくありません」
「そう言わずに教えてくれよ。な?」
「嫌です!」
俺はシエラの前に出て彼女に近づかせないように立ち塞がった。
「あ? てめぇ、なんの真似だ? 今はお前に用はねぇよ。雑魚は雑魚らしく隅っこにでも隠れてろ。
そもそも目障りなんだよ、俺の前から消えろ! それもとなにか? 言いたいことでもあるのかよ」
「シエラが嫌がってるから、その辺で勘弁してくれないかな?」
「雑魚が俺に生意気な口利いてんじゃねぇ!!」
頭に血が昇ったのか辰巳剛毅は俺の腹部と顔面に向かって重い一撃を叩き込んだ。
「うっ…!?」
「瑛志くん!!」
シエラは地面に倒れ込んだ俺へと駆け寄り辰巳剛毅を睨みつけた。
「貴方なんてことをするんですか!」
「雑魚のくせに粋がって俺の前に立つから悪いんだ。
この世は弱肉強食だ。強者が弱者を食い物にするのは自然の摂理なんだよ。俺はコイツよりも確実に強い」
「もしそうだったとしても何をしても良い訳じゃないでしょ!」
通りかかった生徒達が何事かと足を止め、人だかりが出来始めている。
それに気づいた取り巻き2人は少し焦っている様子だ。
「流石にちょっとやりすぎなんじゃ…」
「そ、そうですよ剛毅さん…。それに少し野次馬ができています。今はこのくらいにしておきましょう」
「あぁ? 何か文句でもあんのかよ。雑魚どもは俺に口答えする権利すらねぇんだよ。
コイツみたいに痛い目に遭いたくなかったら、大人しく俺の言うことだけを聞いてればいいんだよ!!」
「君たち、これは一体何事ですか?」
騒ぎを聞きつけた天野先生が中庭に現れて事態の把握をしようとしていた。
「何でもありませんよ。ただコイツらと一緒に遊んでただけです」
「貴方よくそんな嘘を平気でつきますね!」
「僕の目から見てもどうにも遊んでいたようには思えないのですが?」
周りにいる人だかりの中にも数人程度だが、辰巳剛毅が暴言や暴力を振るうところを見ている人もいたらしいが、顔を逸らして誰も声を上げようとしない。
「ここに集まっている人たちで誰も本当にこの事態を見ていた者はいないのですか?」
「……」
「フンっ。誰も見ていないようですね先生。俺が一緒に遊んでたって言ってんだからそうなんですよ。なぁ?」
「は、はい…、その通りです」
完全に辰巳剛毅にビビって誰も逆らおうとしない。このままじゃ埒があかないと思ったのか、天野先生の視線が俺の方へと向いた。
「鐡君、あなたはどうなんです?」
「俺は…、いえ、特には何もなかったです」
「瑛志くん…」
俺は今ここで面倒ごとを避けるには何もなかったと言うことしかできない。
「そうですか」
「ほら、コイツもこう言ってることですし、ただ一緒に遊んでただけなんですよ」
「被害者の本人もそう言うならそういうことにしておきましょう。
みなさんも、もうすぐ授業が始まります。教室へ戻って授業の準備をしてください」
天野先生の一言で周りにいた野次馬がそれぞれ教室へと戻っていった。
「チッ。つまらねぇ。おいお前ら、行くぞ」
「は、はい!」
辰巳剛毅たちがいなくなったのを確認してから天野先生は俺の方へ向いた。
「鐡君、あなたは本当にこれで良かったのですか?」
「やっぱり先生には分かってましたか」
「もちろんです。今この瞬間だけを凌いでも何の解決にはなりません。これから先もエスカレートする可能性だってあります」
「そうですよ、瑛志くん! 何で自分から折れる必要があったのですか!」
そんなの理由なんて決まってる。けど今はまだ本当の理由は言えない。
「本音を言えば物凄く悔しかったです。でもあの場で言い返せばもっとヒートアップしてたかもしれないと思うと…」
「もし、あの場でそんなことになっていたら僕がどうとでもしていました」
「でもそれじゃあ、本当はしなくてもいいことを先生にさせてしまうじゃないですか」
「そんな気を使う必要はありません。僕から見ればあなたはまだ子どもです。あなた方の問題を最終的に解決するのも大人の仕事です。
だから今は思う存分相手にぶつかればいいんです。納得のいかないこと、どうしても譲ってはいけない誇りを抑えてまで、自分を納得させる必要はありません。
前を向き、自分が正しいと思うことをしなさい。決して自分にだけは負けてはいけませんよ」
俺たちは先生から見ればまだまだ子どもなんだろう。
これから先、どんな苦難が待ち受けているのかは分からないけど、沢山の経験をして成長していけたらいいなとは思う。
「天野先生、ありがとうございます。俺はもっと強くなりたいです」
「はい、期待しています。そろそろ貴方たちも教室に戻りなさい。授業が始まりますよ」
優しい笑顔をしながらそう言ってこの場から立ち去って行った。
「ごめんね、シエラ。心配かけたね」
「私は大丈夫ですよ。瑛志くんの方こそ大丈夫でしたか?」
「うん、大丈夫。教室に戻ろっか」
「そうですね」
俺たちは教室へ戻りいつも通り授業を受けた。
――――――――――――
放課後になり、俺は生徒会室へ向かった。
廊下を歩いていると「瑛志!」と俺の名前を呼ぶ声がして後ろを振り向いた。
「重護か。今から生徒会?」
「おう、そうだ。瑛志は今から帰りか?」
「いや、今から生徒会室に行こうとしていたんだ」
「お、そうなのか。なら一緒に行こう」
俺たちは生徒会室まで歩いて向かう。
「やっぱりあの件か?」
「うん。魔術痕の調査を生徒会の人たちにも手伝ってもらいたくて」
「そういうことなら俺は手伝うぜ! それにどうせ駆り出されるだろうしな!」
「ありがとう。助かるよ」
俺は思い出したように「そういえば」と気になっていたことを切り出した。
「今日の昼休みに屋上に来たあの陽奈さん? っていう子は重護の恋人かなんかなの?」
「あぁいや、陽奈は俺の幼馴染なんだ。家が隣同士で小さい頃からよく一緒に遊んだもんだ。
幼稚園も小学校も中学校も高校までも一緒っていう切っても切れない縁だな」
「そういうのなんかいいね。俺は幼馴染とかいないからよく分からないけど、その縁は一生大切にしないとね!」
「今度瑛志にも改めて紹介するぜ。陽奈もきっと瑛志の良き理解者になると思うぜ」
そうこう話しているうちに生徒会室の前まで辿り着いた。
生徒会室の扉を開けると仙道隊長と蓮次とシエラがもう既に到着していてソファに座っていた。
他にも生徒会のメンバーらしき人たちが各々自分のデスクで仕事をしている姿が見えた。
「お、やっと来たね。待ってたよ瑛志君。
そちらの隣にいる君はもしかして生徒会のメンバーかな?」
「初めまして! 神威重護と申します! 貴方が壱番隊の仙道遼司隊長ですか?」
「そうだよ! よろしくね〜」
「よろしくお願いします!」
2人のやりとりを見ながら俺は生徒会室を見渡した。
この様子だとまだ生徒会長は来ていないみたいだな。
「生徒会長はまだ来ていないみたいだから座って待っててくれ」
「そうするよ」
仙道隊長との話を終えた重護に促され、俺は来客用のソファに座って待つことにした。
それから五分後に生徒会室の扉が開いた。
「遅くなってしまい申し訳ありません」
「そんなに待ってないから大丈夫だよ」
生徒会室に男女の2人組が入室してきた。男子生徒が前を歩き、少し後ろに女子生徒がいる。
その2人は俺たちの目の前のソファに座った。
「ようこそ生徒会室へお越しくださいました。
改めて自己紹介をすると、僕はこの生徒会の会長を務めている久遠託徒です。
君たちが天宮君、シエラさん、鐡君ですね」
「はい!」
蓮次が意外にも少し緊張している様子だ。
確かに、この目の前にいる生徒会長は只者ではない雰囲気が漂っているけど、物腰が柔らかい印象で全てを包み込んでくれるような包容力を感じる。
「そんなに緊張しなくてもいいですよ。お菓子でも食べますか?」
「い、いただきます!」
でも蓮次の緊張はしばらく解けそうにはないな。
「僕の隣にいるこの子は朝霧澪。副会長を務めてもらっています」
「よろしくお願いします」
品のある落ち着いた女性という印象だな。
「では早速ですが、本題に入らせていただきます。
魔術痕の件で人手が欲しいということでしたね。結論からいいますと、もちろんいいですよ」
「話が早くて助かるよ。ちなみにどの子を貸してくれるのかな?」
「今年入った新入生に勉強がてら手伝ってもらおうと思っています」
聞き耳を立てていた生徒会のメンバーがこちらの方を見ている。
「八神君、有栖川さん、神威君こちらに来てくれますか?」
名前を呼ばれた3人はこちらへ近付いて久遠生徒会長が話し始めるのを待っている。
「大体の話の内容は把握していますね?」
「はい」
「言われるまでもなく俺は手伝う気でいますよ!」
重護はそう言って1番やる気を出している。
「ありがとうございます、神威君。八神君と有栖川さんはどうですか?」
「俺もいいですよ」
「私もかまいません」
あっさり決まったな。生徒会長に言われると断れないものなんだろうか。
「では決まりですね。生徒会からはこの3人を派遣して魔術痕の調査を行います。それでいいですか?」
「うん。充分だよ。ありがとう」
「それはそうと鐡君、僕に何か聞きたいことでもあるんじゃないですか?」
なんで分かったんだ? そんなに顔にでも出ていたのか?
「そう不思議そうにしないでください。ただチラチラと僕の方を見ていたのに気づいただけです。
どうぞ遠慮なく聞いてください」
「分かりました。では遠慮なく。生徒会長はどうやって個人を特定できたんですか?」
「と言いますと?」
「俺たちはエイミー隊長の指揮の下、魔術痕を調査していました。口外はしていないし外部に漏れたとも考えにくいです。
だからどうやって俺と蓮次とシエラが魔術痕の調査をしていると突き止めることができたんですか?」
俺は久遠会長から目を一瞬たりとも離さず、話し始めるのを待った。
久遠会長は仙道隊長の方を目配せをしてから、なにかを感じ取ったのか「それは…」と口を開いた。
「僕の能力に関係するものです。今はこれ以上話すことはできません。
ですが、これだけは断言出来ます。敵にはまだバレていません。動くなら今がチャンスです」
「…分かりました。今はそれで充分です。
仙道隊長も久遠会長のことを信頼している様子ですし、この話はこれで終わりにしましょう」
「みんなも久遠くんの能力は気になるかもしれないけど、それはまたの機会ということで!
それじゃあ張り切って魔術痕を探そうじゃないか!」
「仙道隊長、張り切って探しちゃダメですよ」
シエラが冷静なツッコミを入れ、その場の空気が少し和らいだ。
――――――――――――
仙道隊長が会話を仕切って2人組を3グループに分けることを提案したが、当然の疑問が思い浮かび八神君がそれを質問した。
「6人いるならなんで1人ずつ手分けして探さないんですか? その方が効率が良いと思うんですけど」
「それはね、良く考えてみてほしいんだけど、真夜中の学校でそれも1人で調査をしている時にもしも敵が襲撃でもしてきたら君はどうする?」
「撃退します」
「それで本当に撃退することができるかい? この学校に気づかれずに魔術痕を植え付けることが出来た敵を本当に君1人で対処できるかい?」
八神君は一瞬の迷いもなくすぐに答えを出した。
「できます。俺は誰が相手だろうと対処できるように鍛え上げられていますから」
「そうか。そうだね。僕も君なら敵を退けるくらいはできると思う。
でもね、この中にそれをできる人は何人いるかな? それに敵は何人いるかも分からないし、どの程度の強さを持っているのかも分からない。
だから2人で対処出来るならリスクはなるべく減らすのが常識というものだよ。それで納得してもらえないかな?」
「分かりました。俺の考えが軽率でした。すみません」
「別に謝ることじゃないよ。効率を求めることはとても大切なことさ。でもね、不明瞭な部分の方が大きい場合はどうしても慎重にならざるを得ない。
もしも君たちに何かあったら僕が責任を感じてしまうし、それに何かあってからじゃ遅いからね。これはただの保身だよ」
八神君の考えも全員が理解はできているが、不測の事態というのは常に存在する。
計画は計画通りにいかないことの方が常だ。だからここは仙道隊長の指示に従うことが1番安全だという共通認識で全員が納得した。
そうして俺たちは2人組の3グループに分かれて調査をすることとなった。
調査の組み分けは有栖川さんと蓮次、重護とシエラ、八神君と俺の組み分けになった。
最初は八神君と蓮次、有栖川さんと俺の組み分けだったが、有栖川さんが俺とは組みたくないと言ったためだ。
その理由は想像に難くない。クラスでの俺の地位は底辺だから、万が一にも一緒にいられるところを誰かに見られたくないと言ったところだろう。
俺は自ら最もらしい理由を作り有栖川さんとの組み分けを八神くんと代えてもらった。
みんな言葉にはしなかったが“瑛志がそれでいいなら”という視線を感じた。
「組み分けも決まったことだし、あとは誰がどこを調べるかだね。悪いけど僕は単独行動をさせてもらうよ」
「仙道隊長はなにをするんですか?」
「蓮次君、それは大人のひ・み・つだよ」
「そうっすか」
蓮次の塩対応に「冷たいな!」なんて言っているが、本当になにをするつもりなんだろう。
でも仙道隊長のことだからきっとプラスになることをすると信じて俺たちは魔術痕を探しに行こう。
「あと調べてない場所はどれだけあるんだ?」
「えっと、全クラスの教室と図書室に魔術訓練場、トレーニングルーム、講堂、プール、テニスコート、柔道場、剣道場、弓道場、多目的室、職員室、校長室、音楽室、応接室、保健室、第一会議室、第二会議室、機械室と大体こんなくらいかな」
「めっちゃあるじゃん」
こんなに広い学校であと33箇所も魔術痕を探さないといけないのかとみんな呆然としている。
「でもここを全部探せばあと何箇所あるか分かるんだし頑張ろうよ! みんなには申し訳ないけど1グループ10箇所ずつ探してほしいかな。
僕は単独行動をさせてもらいながら残った3つを探すからさ」
「そうですね。では私と神威くんは1生生と2年生のクラスを調べることにしますね」
「私と天宮君は3年生のクラスと図書室、職員室、校長室、第一会議室、第二会議室にするわ」
「そうなると俺と鐡君は魔術訓練場、トレーニングルーム、講堂、プール、テニスコート、柔道場、剣道場、弓道場、多目的室、音楽室にするか」
「それで大丈夫。仙道隊長は残った応接室、保健室、機械室でもいいですか?」
仙道隊長はニッコリしながら「僕もそれで大丈夫だよ」と答えてくれたので組み分けと調査箇所が決まり、今日の午前0時に生徒会室に集合となった。
最新話を更新するのは4ヶ月以上ぶりです!
特にサボっていたわけじゃないですよ?
さて、物語は徐々に進んでいきます! 楽しんでいただけたらとても嬉しいです!