第4話 壱番隊式歓迎会?
第1部 過去への贖罪
俺と蓮次は壱番隊隊舎に着くと、入り口で「漆」と背中に書かれた羽織を着ている女性が立っているのに気づいた。
どうやら誰かと話しをしているらしい。
誰と話しているかを見ると壱番隊の仙道隊長とだった。なにやら少し深刻そうな顔をしている。
俺と蓮次が見ているのに気づき、手を挙げて「お疲れ様ー!」と言ってきた。
隣にいた女性がこちらをじっと見ている。
「お疲れ様で――」
「そうだ君たち! ちょっと頼まれごとをしてくれないかな?」
仙道隊長は俺たちの肩を掴み笑顔で圧力をかけてくる。
断れる雰囲気でもないため、2人揃って「はい…」と答えるしかなかった。
「ありがとう! あ、忘れてたけど僕の隣にいるこの綺麗な人は漆番隊隊長のエイミー・ターナーだ。内容は彼女に聞いてくれ」
「べ、別に私は綺麗じゃないわよ! それに自分の仕事を放棄しないでちょうだい!」
照れてる。可愛いな。俺から見てもこの人は綺麗だと思う。
「だって僕は他にもたくさん仕事があるからね。別に僕じゃなくたって大丈夫だよ!」
「そういうことを言ってるんじゃないわ! 昨日入ったばかりの新入隊員にこの件を任せるのはどうなのかという話をしてるのよ!」
き…気まずい。なんでケンカしてるんだこの人たち…。早く終わらないかなぁ…。
気まずさで目をそらし固まっていると、「でも、この子たちは今日学校に仕掛けられていた魔術に気づいたらしいよ」とその一言で、エイミー隊長は驚いた顔をした後に考え込んだ。
「なるほど…。分かったわ。貴方たちが少し周りよりも優秀だということね」
「今回の新入隊員は今までとは一味違うからね」
「そうね。そうなのかもしれないわ。この子たちを紹介してくれてありがとう」
エイミー隊長は最後に俺たちの方を向いて「では明日――」と何か言いかけたところに蓮次が「あの、一つ質問いいですか?」と割って入った。
「なにかしら?」
「なんで俺たちが学校に仕掛けられていた魔術に気づいたと知ってるんですか? 俺たちの周りには学生しかいなかったはずですが」
「それは簡単なことだよ。だって僕は2人のことを“ずっと”見ていたからね」
急に謎の寒気が身体中を襲った。気のせいかもしれないが、頭痛と吐き気と立ちくらみがしたような気がした。
俺と蓮次は仙道隊長から1歩後退りをし、警戒をした。
「冗談はそのくらいにしてあげなさい。
貴方たち、大丈夫よ。彼は冗談を言っているだけだから」
「ごめんごめん。冗談はこのくらいにするよ」
仙道隊長は少しからかい過ぎたと反省をしてエイミー隊長に代わって説明をし始めた。
「明日、漆番隊と合同で人知れず原因を解明してほしい。誰がなんの目的で、どんなことをしようとしているか。
対象は学校中の全員なのか、それとも特定の誰かを狙ったものなのかを出来るだけ多く解明してきてほしい。
本当は僕も行きたいところだけど、人知れず行動しないといけないから、どうしても学校に通っている生徒に頼らなくちゃいけない。
でも無茶だと判断したなら調査は辞めてもらって構わない。まずは自分の安全を第一に考えて行動すること、いいね?」
俺たちは静かに頷き、それを確認したエイミー隊長は次に話しを始めた。
「なら私の隊からは貴方たちと同期の新入隊員を1名派遣させることにするわ。その子も魔術の違和感に気づいているから。
もう1度言うけれど、これは人知れず調べること。学校と生徒や職員の安全が懸かっているから、そのつもりで。
私の方からその子に話を通しておくわね」
プレッシャーのかけ方の規模が絶対に新人に任せてはいけない規模なんですが。
「では明日の朝7時に学校の生徒指導室まで来てもらえるかしら?」
「分かりました」
なんで場所のチョイスが生徒指導室なんだ? もっと他にもいい所がありそうなんですけど。
「エイミー隊長も同行するんですか?」
「ええ、そのつもりよ。何か不満があるのかしら? 瑛志くん」
隊長格は目立つから俺たちに任せたんじゃないのか? 思い切って聞いてみるか。
「いえ、隊長格の人が来てくれるなら安心できますけど、目立つんじゃないですか?」
「私は明日3年生のクラスで授業があるのよ。それに誰かが指揮をとらないといけないからね」
そうだよな。初めての任務だから誰かがまとめてくれないと収拾がつかないかもしれない。ありがたい話だ。
「ではみんな明日はよろしくね! 僕は他にもやらなきゃいけないことが山積みだから頼んだよ!
良い報告を期待しているよ!」
「全く貴方って人は。忙しいのは貴方だけじゃないのよ」
エイミー隊長は呆れたようなため息をして「私もそろそろ戻るわ。漆番隊も歓迎会があるし」と言い残して去っていった。
「じゃあ僕たちも中に入ろうか。もうすでに君たち以外の新入隊員は到着しているからね」
「はい!」
俺たちは声をそろえて返事をし、隊舎の中に入った。
「あっ! やっと来た! おそーい! もう時間は過ぎてるよ!」
「ごめんごめん! 僕が2人と話してて遅れたんだ。
この通りだ! 2人を許してやってくれ!」
「それは当り前じゃん! でも隊長は許さないよ」
奏音さんはむくれ顔でそう言った。どうやら結構楽しみにしていたみたいだ。
隊長は「ごめんごめん」と手を合わせて頭を下げている。
「じゃあ、みんなそろったことだし始めましょう! グラスを持って――」
「あ、すいません、副隊長はたった今トイレに行ったのでいません」
「もう! お兄ちゃんったら! なんでこのタイミングでトイレに行っちゃうのよー!」
そうこう言っているうちに副隊長がトイレから戻ってきた。全員が静まり返って副隊長の方を見ている。
なぜ全員が自分の方を見ているのかが分からず「どうかしたのか?」なんて言っている。
「はぁ、まぁいいわ」
副隊長はどういうことなのか理解できずに首を傾げている。
「じゃぁみんな! 気を取り直して! 新入隊員の入隊を祝してかんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
俺は近くにいた先輩たちとグラスを合わせ、ジュースを飲んだ。
「ねぇ君、名前なんて言うの?」
「鐡瑛志と言います。よろしくお願いします!」
「君が鐡瑛志くんか〜! 話は聞いてるよ〜!」
ん? 何の話を聞いたんだ?
「鐡くん、魔力が無いんだってね〜!」
またその話か。でも俺はどんなに馬鹿にされても傷つかない自信がある。
「おい! アミ! もう酔っ払ってんのか?! その話は辞めろ!
鐡、こんな酔っ払いの言っていることは気にしなくていいからな?」
みんな優しい。まぁ、もう言われ慣れてることだったから気にはしてなかったけど、ありがとうございます!
「俺は佐原道玄だ。よろしくな!」
「よろしくお願いします!」
「それはそうと鐡、奏音ちゃんのことどう思う?」
佐原先輩はいきなり俺の首に腕を回してきて自分の声が周りの声で霞むくらいの声音で聞いてきた。
「どうってどういうことですか?」
「バッカ! それはアレだろ!」
アレって言われても分からない。
「奏音ちゃんって誰にでも優しくて、周りにいつも笑顔を振りまいていて、胸もそこそこあって、それに何より絶世の超絶美少女だろ?
そんな子を世の中の男たちが放っておくわけがない。だろ?」
「確かに……そうかもしれないですね!」
「お、分かるか? なら今から俺が奏音がちゃんの魅力を存分に教えてやるぜ!」
それは遠慮していただきたい。話が長くなりそうだから。
佐原先輩が奏音さんのことを饒舌に語っていると、ちょうどここのテーブルに奏音さんがやってきた。
「なんの話をしてるの?」
「おぉ、奏音ちゃん! たった今鐡に奏音ちゃんの魅力を語っていたところさ!」
「そんなの恥ずかしいから語らなくていいよ〜! それよりももっと違うお話をしよ?」
先輩たちは奏音さんと喋れて嬉しさのあまりか可愛さのあまりか、もしくは両方なのか、どちらにしろ悶絶している。
そこまで好きなのか? どうやら俺はお邪魔かもしれない。どこか違う所に移動しようかな。
「あ、待って瑛志くん。私は瑛志くんとお喋りしに来たんだよ!」
「え〜! 俺たちとお喋りしに来たんじゃないのぉー」
「もちろん、瑛志くんを入れた先輩たちとお喋りしに来たんだよ! でも今日は瑛志くんが主役なんだから、いなくなっちゃいつもと変わらないじゃない!
だから瑛志くん、みんなでお喋りしよ?」
なるほど、あざといまではいかないが、ちょうど良くめちゃくちゃ可愛い笑顔をこちらに向けてくる。
こんな顔で頼み事をされたら、断る男はいないんじゃないかと思うくらい可愛い。先輩たちが奏音さんを好きになる気持ちがすごく伝わってきた。
「わ、分かりました」
俺は席を離れようと立ち上がっていたが、そのまま元の席に座った。
座ったが、笑顔が眩しくて奏音さんの顔がまともに見れない。
こ、これがハニートラップというやつか!
「ねぇ、瑛志くん」
「はい!」
名前を呼ばれて何を言われるかと期待して待った。
「瑛志くんって、食べ物だったら何が好きなの?」
「……ん? あ、はい??」
期待し過ぎたのか、少し身構え過ぎたのか、全然他愛もない質問をされた。
思わず反応が遅れてしまった。
「あ、えっと…肉が好きです。でも味音痴なんで、安い肉でも高い肉でも美味いしか言わないですね」
何言ってんだ俺は。こんな有益でもなんでもない情報を言って誰が得をするんだよ。
「瑛志くんはお肉が好きっと」
「何してるんですか?」
「ん? メモを取ってるんだよ。その人を知るにはまず好きな食べ物からってね!」
何の根拠も無い自論を展開してきた。この人はきっと陽キャという分類に入るんだろうな。
その後も好きなスポーツ、趣味、音楽、国など、他愛もない質問のやり取りをして、時間が過ぎていった。
しばらくして、仙道隊長が立ち上がり、マイクを持って前の方に出てきた。
「はいみんな! 食べながらでいいから僕の話を聞いて!
親睦が深まった人と、そうじゃない人がいると思うので、これから新入隊員には簡単に自己紹介をしてもらおうと思います!」
先輩たちは「待ってました!」と言葉が飛び交いみんなが楽しみにしていた様子だ。
「では、名前、誕生日、趣味、それと一言抱負や目標を言ってもらおうかな!
その後に、先輩たちからの質問タイムに入ろうと思います!」
新入隊員たちは誰が最初に選ばれるかと思って緊張している。
先輩たちはお酒も入ってテンションが高い。
例え今自己紹介をしても覚えている人はどれだけいるのだろうか。
そう考えたらなんだか緊張がほぐれてきた。こういう時は早く終わらせた方がいいな。よし、先に手を挙げよう。
「はい! 俺からします!」
手を挙げようとした瞬間、他の同期に先に手を挙げられた。
「お、君は本多くんだったね。じゃあ君からお願いしようかな!」
本多はマイクスタンドが置かれた所へ行き、自己紹介を始めた。
「本多哲也と言います! 誕生日は五月十六日です。趣味は本を読むことです!」
本多は1度俺の方を見た後、言葉を続けた。
「俺はまだまだ未熟者です。でも誰よりも強くなります! そのための努力は惜しみません! 誰でも守れるような立派な人間になります!
これからお世話になりますが、よろしくお願いします!」
「では、自己紹介が終わったところで先輩方! 何か質問はありますか?」
先輩たちはぞろぞろと手を挙げ始めた。
「はい、じゃあカイト!」
「本多君はどんな能力を持ってるの? どんな魔術を使えるの?」
「やっぱ、最初はこの質問じゃないとな!」
なるほど、先輩たちが楽しみにしていたのは、どんな魔術を使えるかを知りたかったからか。
確かに、誰がどんな能力を持っているか興味あるかも。
「俺は、水属性の魔術を使えます。どの程度かと言うなら、基礎中級までです」
「ほう、大体分かった。ありがとう」
カイトさんは、興味を無くしたのかこれ以上は何も聞かなくなった。
「他に質問ある人?」
違う質問をする為に先輩たちが手を挙げる。
「はい、では天ちゃんどうぞ!」
「えーっと、本はどんな本を読むんですか?」
「ミステリー小説やファンタジー小説なんかも読みます。でも最近は主に魔術書を読んでいます」
その後も質問が続き、俺は何故か手を挙げなかった。多分面倒になった。新入隊員の4人目の自己紹介が終わると次は「じゃあ、蓮次くんお願いします!」と蓮次が指名された。
「天宮蓮次です。誕生日は7月2日です。趣味はカフェ巡りをすることです。
オススメのカフェをたくさん知ってますので、興味がある方はぜひ聞きにきてください。よろしくお願いします!」
カフェ巡りをするのが趣味なのか。本当に高校生になったばかりか? 大人すぎないお洒落すぎない?
「それでは質問タイムに入りまーす! はい、ヤマトくん!」
「天宮くんの能力はなんですか?」
「炎魔術を少しだけ使えます。一応基礎は全て修了しています」
蓮次が基礎を修了していることを聞いた先輩たちは驚いているみたいだ。
高校生になったばかりの子どもで、すでに基礎を終えている人は日本では2割もいないと聞く。
でも、先輩たちは蓮次なら“当たり前か”という空気に変わっている。
なんでそんな空気になっているかという疑問はすぐに晴れることになった。
「でも副隊長と良い勝負をしたって聞きましたよ。
炎魔術の基礎を修了しているだけでは、とても副隊長と良い勝負は出来ないと思いますけど…?
僕だって本気を出した副隊長には手も足も出ません」
「誰も本気を出したなんて言ってないぞ。俺が本気を出していたら勝負は一瞬で終わっていた。
だとしても本気を出していないあの状態の俺にあそこまでのダメージを負わせたその実力、さすがは天宮家次期当主だ」
俺は蓮次と副隊長の戦いは見れてはいないけど、かなりの轟音が鳴り響いていたから結構激しい戦いだったんじゃないかと思う。
副隊長にあそこまで言わせた蓮次の実力は本物だということか。
「でもなんでそこまでの実力を持ってる相手に本気を出さなかったんですか?」
「それは俺が本気を出す前に天宮を倒せたからだ。倒せたというか、勝手に倒れた」
「あー、なるほど? 理解しました。つまりは天宮くんが魔力を使い果たし、力尽きたと言うことですね?」
副隊長は目を閉じて反応を示さない。それを見た蓮次が「その通りです」と代わりに答えた。
先輩たちが各々蓮次のことを話して盛り上がっている。
ある先輩は「今年は今までにないほど期待できる新人が入って安心したぜ!」と言い合ったり、「蓮次くんって結構イケメンだよね? 彼女いたりするのかな?」など、今が自己紹介の質問タイムであるということを忘れている様子だ。
「あ、あの〜、他に質問はありますか〜?」
仙道隊長は、か細い声で存在を忘れさられていることに困っている。
おまけに蓮次もどうしたらいいのか分からず困り笑顔で立っている。
「これ以上質問が無いようだったらこれで終わりますね?」
こうして蓮次の自己紹介が終わった。
いよいよ次は俺の番だな。蓮次でめちゃくちゃ盛り上がっていたから次は嫌すぎるけど、最後になったからには仕方ないと腹を括るしかないか。
ん? 隊長は何をあんなに一気飲みしてるんだ? まぁ、いいか。
「はいみなさん! ちゅーもーく! 盛り上がることは大いに結構! だけど、最後にまだ一人! 新入隊員は残ってるよ! では自己紹介のトリを務めてもらうのは、この男! 鐡瑛志くんです! よろしくお願いしまーす!」
なんだこのテンションは!? 最悪だ!! 一気飲みしてたのは酒だったのか! めっちゃ酔っ払ってんじゃん! みんなに無視され続けたからやけ酒でもしたのか!?
さっきまで仙道隊長が飲んでいた酒の缶の方を見るとアルコール度数はたったの3%だった。しかも空いた缶は1缶だけ。
めっちゃ酒弱かったのかよ! 3%であそこまでのテンションになるのか! なんで誰も止めなかったんだ!
「瑛志くーん! どうかしたのかーい?」
「瑛志くん、隊長のあのテンションは1回忘れて普通に自己紹介すれば大丈夫だよ!
酔っ払いが多いから、みんな聞いてても明日には忘れてるよ! だから頑張って!」
奏音さんのその言葉で、俺は覚悟を決めて立ち上がり、マイクスタンドまで歩いて行く。
でもやっぱり距離が近づくにつれ、足取りが重くなっていく。
「え、えーっと、く、鐡瑛志です…」
頭が真っ白になって何を喋らなきゃいけないのか一瞬で分からなくなった。
緊張していたからではなく、今目の前に広がっている光景に驚きを隠せないからだ。
その理由は、俺が出てきてから自己紹介を始めた瞬間に一気に沈黙へと変わったからだ。
みんな俺の方を見ている。見ているというよりかは睨みつけているようにも見える。
どういうことだ? さっきまであんなに騒がしかった空気が一瞬にして静まり返るなんて。
なんでこんなところで警帝十守隊最強の部隊の威厳を見せつけられなくちゃいけないんだ?
と、とにかく、次は誕生日…だったよな?
「誕生日は正確な日付は分かりませんが、4月7日だと聞きました。趣味は、散歩と料理です。
えーっと、なんで俺が壱番隊に配属されたのかは分かりませんが、精一杯みなさんの足を引っ張らないように頑張りますので、どうかよろしくお願いします!」
あれ? 反応がないな。どうしたらいいんだろう?
「い、以上です」
仙道隊長はふと我に返って、慌てて司会を進行した。何事か分からないけど酔いは覚めている様子だ。
「さ、さあ質問がある人は手を挙げてね…」
「はい…」
「そ、それじゃあ奏音ちゃんどうぞ」
意外にも手を挙げたのは奏音さんだった。
なんだか少し怯えてるようにも見えるけど、どうしたんだ…?
「瑛志くん、君は…いったい“何者”なの…?」
ん? どういうことだ? 奏音さんは一体何を言っているんだ? 何者? 訳が分からない。
俺は俺だ。本当にどうしたというんだ?
周りを見渡してみると、みんながみんな警戒をして俺のことを睨みつけている。
ある者は武器を構え、ある者は魔術を使う構えをしている。
これはもう自己紹介どころじゃない。質問は尋問へと変わっていることを自覚した。
どうするべきだ? 分からないことをどうやって答えればいい? 俺自身無害なのをどうやって伝えればいい?
「瑛志くん、答えて!」
「し、質問の意味が…分かりません…。“何者”ってどういう意味ですか? 俺は…ただの俺です。
それ以外なにを示せって言うんですか。分かりませんよ。
みんながなんでそこまで俺のことを警戒しているのか、突然のことでなにがなんだか分かりませんよ…」
「分からないことねぇだろ!!」
怒鳴ってきたのはさっきまで一緒の席で喋っていた佐原先輩だった。
「俺たちはお前から死を覚悟するくらいの恐怖の殺気を感じたんだ! ここにいる全員がだ!!
なんの理由があって、どうして殺気なんか放ってきやがった! その説明をしろ!」
殺気だって? そんなものは1ミリたりとも放った覚えがない。それをどうやって説明すればいい?
今この場にいる全員が自分の信じたいものだけを信じるだろう。説明をしたところで俺の言っていることを信じてもらえるだろうか。
俺はなぜか分からないが蓮次の方を見た。友達だからか、助けを求めてかは分からないが蓮次の方を見た。
そこに映った蓮次は警戒こそしているが、みんなの様に武器や魔術を構えた様子はなく、ただただ座っている。
俺が見ていることに気づいたのか、蓮次は立ち上がり何か事情を理解したのか、覚悟を決めたのか俺の方へと近づいてきた。
「なんとか言ったらどうなんだ! 鐡!」
「先輩! 多分…大丈夫だと思います!」
蓮次は佐原先輩に言葉を返した。
俺と知り合って間もない蓮次の言葉はあまり信用に値しないだろうに、俺を安全だと訴え続けている。
「おい天宮、なんでそこまでして大丈夫だと言える。その根拠を示してくれよ」
「根拠を示すことは…出来ません。ただ、俺には分かるんです。
瑛志には生まれつきの潜在能力が存在するってことを。その力の使い方を知らないだけなのかもしれません。
それこそ自覚をしていないだけだと思います!」
「かもしれません? だと思います? そんな言葉で納得できる訳ねぇだろ! こんな得体の知れないやつをこの隊に置いておけるか!」
蓮次の言葉虚しく、信じてもらえなかった。
みんなが不安になっている。無意識で誰かに危害を加える前に俺がこの隊を出て行くしかないよな…。
「みんな、ちょっと落ち着いてほしい。瑛志くんはそんな危険な存在じゃないよ」
ここで声を上げたのは、仙道隊長だった。
「確かに、瑛志くんから殺気は放たれたけど、それほど危険なものじゃない。
実はみんなには言ってなかったけど、神城局長からお達しがあった。知っているのは如月副隊長と僕だけだ。
これは機密事項だったから今まで黙っていたけど、今は緊急事態だと判断した。だからみんなには正直に話そう」
俺に関しての秘密事項ってなんだ? 神城局長は俺のことをどこまで知っているんだ? 俺が知らないことまで知っているのか?
「神城局長からは、『鐡瑛志という男は、自分のことを何も知らない。自分の出自も家系も能力も運命までも何も知らない男だ。
だが、危険は無い。全く無いというわけじゃないが大丈夫だ。この俺が言うんだ、間違いない。
ただ、鐡瑛志にはあらゆる可能性が秘められている。これから次第では強くも弱くもなり、善にも悪にも染まる。
だからお前に鐡瑛志を任せたい。あいつが正しい道に進めるようにお前の隊で導いてやってくれ。頼んだぞ』と言われたよ。
詳細までは聞かされなかったけど、この言葉は確かに局長の言葉だ」
「神城局長が本当にそう言ったんだな?」
佐原先輩は最後に確認するように聞いた。その問に仙道隊長は力強く「うん」と答えた。
「だったら俺たちは神城局長の言葉とこの隊を信じるしかねぇよな!」
神城局長の言葉で壱番隊には活気が戻った。さっきまでの重苦しい空気が嘘みたいに晴れた。
ここまで隊員から信頼されている神城局長は何者なんだ?
「悪かったな! 鐡! 酷いことばかり言ってよ!」
「私もごめんね! 瑛志くん!」
みんなが畳み掛けて謝ってくる。
「い、いえ。俺の方こそすみません。警戒して当然ですよ。人は自分の理解できないものは怖く思う生き物なんですから」
正直、神城局長の言葉には疑問が引っかかりまくっているけど、今はそれどころじゃない。
俺はみんなの謝罪を受け入れて、俺もみんなに謝罪をした。無意識とはいえ、殺気を放って危険視させてしまったのだから。
「それでは質問タイムの続きを…といきたいところだけど、もうこんな時間だから今日はお開きにするよ。
質問はたくさんあるだろうけど、それは個人的に聞いてね!」
「えーー! もう終わりー?」
みんな歓迎会が終わることを残念がっている。
俺もまだ全然先輩たちと全然話せてないや。でもこれからたくさん話す機会があるだろうから、それまで楽しみは取っておこう。
「君たち、ただ飲みたいだけでしょ! 明日も仕事があるんだから今日はそのくらいにしておきなさい!」
「はーい。でも隊長も本当はまだ飲みたいんでしょ?」
「…本音を言えばね。でも僕はお酒弱いからそんなには飲めないよ」
隊長たちは、もう少し飲み会を続けるみたいだ。
俺たち新入隊員は帰る頃合いを見計らって、先輩たちに挨拶をして隊舎を後にした。
それぞれ家に帰り、俺は寝る準備をした。
それにしても、先輩たちの神城局長からの言葉を聞いた後のあの変わりよう…。少し奇妙に感じたのは気のせいか?
それほど神城局長には信頼をおいているのかもしれない。今は考えても分からないな。今度先輩たちに聞いてみるか。
明日は朝早いしもう寝ることにしよう。なんだか今日はとても疲れたな。
明日からの調査で厄介なことが起こらなければいいな。
明日への不安と今日あったことを思い出しながら眠りについた。
みなさん!
少し遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます!
目標だった二週間は過ぎてしまっていました。すみません。
思ったより長くなってしまいました!
それでも楽しんで頂けるような内容にはなっているんじゃないかなと思います。
さて、最近はスパイダーマン:ノー・ウェイ・ホームが公開して、まだ観に行けていませんのでずっとうずうずしっぱなしです!早く観にいきたいです!
今月はPokémon LEGENDS アルセウスが発売するとのことでとても楽しみです!発売日にプレイ出来たらいいなぁ。
次回の更新のことなんですけど、仕事でどうしても勉強をしなければいけないことがありまして、更新頻度が今よりもガクッと落ちてしまいそうです。
読んでくださっている皆様には大変お待たせしてしまうかも知れませんが、楽しみに待って頂けますようお願い申し上げます!