EX.追憶の彼方に
――場面は遡り、第2予選終了から数日後のある日。
王宮警峰軍詰所の地下牢区画にて、2人の女性が肩を並べ、横たわる少女を観察していた。
「今回の侵略、どう思う」
口を開いたのは、『赤』のマントを羽織った女――ホムライト=ドグライト=メーガスだった。
第2予選における騒動で、竜の魔女が空間固定の束縛術式を使用したムラサキ=ブシキ――『魂喰い』の少女は、あの日から意識を失い、こうして外部からの影響を受けない地下牢空間にて魔法陣の真ん中に寝かせられている。
ハチロクと呼ばれた少女は、一体何者か。彼女は未だ、自らの正体を誰にも明かしていない。
「どうもこうも、私に聞くことではないわ。それは国を担うあなたたちの管轄でしょう」
ホムライトの隣に立っていたのは、薄い青色のサングラスをかけた、銀髪の令嬢――王立聖家1位のナターシャ=マクガフィン。
王国を代表する2つの名家が肩を並べることはおおよそ見たものがいなかった。
王位継承権を持つ両家だが、マクガフィン家とメーガス家は歴代関係が悪く、過去に数度、家柄をかけた血みどろの権力争いを行っている。その結果が今日の両家に繋がっていた。
「相変わらず、建設的な会話すらできんな」
「そういう間柄でしょ。今更よ。問題は、――レディ=ブシキ。『魂喰い』の処遇よ」
ホーリーホックによる襲撃。空間固定束縛術式を受け、竜の魔女が姿を消失させたことで術式が崩壊したが、何らかの呪いを受けたのだろう、あの日以来彼女の意識は回復の兆しを見せない。
「ハチロク。あの魔女はそう呼んでいた。それに、こいつ自身も面識がある様子だった。第1予選後の『竜の夜』まではマクガフィン家の庇護にあっただろう。なにか手がかりになることはないか」
「なにも。この娘は口が硬いわ。何かを隠していることは気付いていたけど、それが漏れるような仕草は微塵も見せない」
「ふむ。・・・・・・この国に来た目的は何だ。お前は、何から逃げている」
目を瞑り動かない少女に向けた言葉。それに対する回答は得られないと知っていながら。
「こいつの身柄はマクガフィン家に戻そう。上手に使えよ」
「言われなくても。でもいいのかしら。あなた、メーガスの銘は惜しくないの?」
「別に。ワタシにはメーガスの歴史も成果も疎ましい。保守とは名ばかりの腰抜け共だ。深い傷を与えるのは、内より外のほうが決定的だよ」
「御婆様は出来た人よ。双子の妹が間引きにあわなかったのも、あの方の采配でしょう」
「・・・・・・ああ。感謝はしている。だが、床に伏した以上、彼女の影響力は直に廃れるだろう」
メーガス家当主である大魔女ウィッカ=メーガスの存在が、ホムライトを今の地位へと押し上げている。それが崩れれば、おそらく内輪もめが起こるだろう。それを見越し、ジョーカーをマクガフィン家に移行しようとしている。
「マグライトに黙ってこの娘を横流しにする形にはなるけど、移行が成立したら後戻りはできないわ。その覚悟はあるのかしら」
「ああ。覚悟なら――ファブニールの血を浴びたときに出来ている」
「そ。マクガフィンとしては、叛徒が内にいるのは願ったり叶ったり。あなたの反逆に付き合いましょう、『瞬獄』のホムラ。裏切りの炎は静かで、それでいて派手な方が映えるものね」




