24.這い寄る混沌
「――時間だ」
暗闇の中で、誰かが告げた。その声を聞いて、何人かが動き出す。
その声を聞いたのは誰か。
その声が響いたのはどこか。
けれども、目標は決まっている。
けれども、進撃するものは決まっている。
ならば、為すことを為す。
それが、彼らに課された命運であり、行為であり、――聖戦であろうか。
――聖グレイトウェルシュ王国・聖都クーゲルスより南に位置する領土内某所。
第2予選会場である『三ツ子島』が見える海岸線にて、火急の事態に備えて待機していた、『赤』のマントを羽織る女の周囲を、見覚えのない集団が取り囲む。
「・・・・・・何だ。ワタシは任務中だ。煩わせるな。テロならば後にしろ」
海の向こう側にある『三ツ子島』を見ているホムライトは視線を外さない。けれど、彼女の後ろにいる集団の誰かの敵意だけは肌で感じていた。
それが、テロ行為を企てていることは、見なくてもわかると。隠そうともしない敵意――殺意に、ホムライトがため息をこぼした。
「して、どこの者だ。大層な人数だな。・・・・・・13人。テロならば、声明があるだろう。目的があるだろう」
「さすがだ、大淫婦の魔女よ。さすがはこの国が誇る『虹の防人』の一人。竜殺しの魔女よ、我らの目的は――貴様のような『竜殺し』を処刑することだ」
竜殺し。『竜災』――災害の一つとも言える竜の存在を討ち取ったものに与えられる称号。竜によりもたらされるあらゆる災いを未然に防いだ、偉業を成し遂げた奇跡。
ホムライト=ドグライト=メーガスは齢12にして、幼竜とはいえ野良で発生した邪竜ファブニールを単騎で討伐した過去を持つ。たとえ幼竜でも、騎士の上位者でしか勝てないほど、その驚異は爵位級の魔物以上であり、彼女は討伐の際に返り血による恩恵により強制的に20代前半の姿となった。
今のこの姿こそが、彼女の全盛期であり、ファブニールによる呪いである。
「斬首だ。竜殺しは斬首だ。貴様も、『黒』の騎士も、国王も、斬首こそがふさわしい。竜の尊厳を知り、血を流せ。首を落とせ。そして、本来の竜の息吹を、我らの聖域を取り戻す。それこそが、我ら『神竜ノ民』の声」
「・・・・・・なるほど。貴様らがそうか。その剣に施されたシンボルは、貴様らだったか」
振り返ったホムライトがあたりを見渡す。周りに立つ13人の持つ剣の柄頭に刻まれているもの。ホムライトの目に映る、片翼の黒竜の印。『黒』の騎士・エイブラハム=ヴァン=ペンドラゴンに預けた物に同等のものがあった。
長い間姿を見せなかった、謎の組織。その集団こそが、ホムライトの前に立つ。
「ワタシは忙しい。任務中だ。貴様らの聖域は、ワタシが踏ませない。これより先に進むのなら、ワタシが許さない」
肩に掛けた身の丈ほどの重量ある大剣を軽々と構える。13人も剣を抜くと、一斉に襲いかかった。
――同時刻。聖都クーゲルス西部の郊外にて。前線より幾分か離れた駐屯地区。
「まさか、この地点で――」
一人の騎士が言葉をこぼす。侵入者が悠々と歩ける場所ではない。前線を越えて来たとは考えにくい。ならば、武装化した亜人の集団に取り囲まれる事自体、本来ありえない。
「『緑』のエウレカ=ヘイマーディンガー! ここにいることはわかっている! 我ら『亜人解放戦線』の願いのために、貴様の首を貰い受ける!」
「なんじゃなんじゃ騒がしい。ワッチは整備で忙しいというのに。おん? 亜人が何のようじゃ。ワッチの知る亜人は礼儀を知っておるぞ?」
作業用のテントからエウレカが姿を表し、リーダーと思わしき亜人が前に出る。人間のような顔立ちだが、全身を体毛で覆われ、その上から急所を守るようなガードが当てられていた。二重関節と長い鉤爪、蹄のついた足と見るからに異形種ではあるが、彼らなりの文明があることは確かだった。
「『虹の防人』の一人、エウレカ=ヘイマーディンガーだな。我らの悲願のため、その首を頂く。邪魔立てするのなら、ここにいる者もすべて殺す。ここは非戦闘員も多いだろう。答えは選ばせてやる」
人間よりも倍ほどの大きさの亜人――聖グレイトウェルシュ王国のある大陸では珍しい、北方型の猿獣種。
本来気温の低い地帯で繁栄した亜人種であるが、ここ十数年の国際情勢により、聖グレイトウェルシュ王国の同盟国に領土を征服され、難民として世界中に散っている。
聖グレイトウェルシュ王国としては、同盟国の侵攻には加担していない。それは技術的にも政治的にも。ただ、加担はしていなくとも、制止もしなかった。
国境を接する国ならば、幾分かの配慮はした。だが、その同盟国は、敵対国の領土・領海を押し返すために協力関係になった小国でしかない。聖グレイトウェルシュ王国としてのメリットはそれくらいしかなく、資源や技術的革新に有益な国ではなかった。
だからこそ、介入しなかった。その火種が、今この場に立つ亜人たちの行動となっている。
「ふむふむ。だが、ワッチの首に何の価値がある。それ一つで、そちらの要望が叶うのかえ? その悲願を冥土の土産に貰ってもよいか?」
「我らの悲願は『領土の奪還と亜人地区の制定、一定階級の承認』だ。貴様らは我らの国の被害を見て見ぬ振りをした。貴様らほどの国ならば、停めれた問題だ。貴様らの存在が、奴らの後ろ盾となった。我らは、ただ平和に生きていただけなのに。だからこそ、貴様らには大国としての責任がある。そのためにも、誠意を示せ」
「『誠意』とな。便利な言葉じゃのう。そちらの『誠意』の大きさなど、ワッチたちが計り知れるものではないだろうに。納得のいく答えなど、いくら積もうがたどり着くのか。積んだものは瓦解するのが道理じゃて。進んだ時間は戻らないじゃろう。矛先を間違えると、さらに凹むぞい」
「その言葉が答えならば、我らの選ぶ先は一つだ。覚悟してもらうぞ」
構えられる、剣や槍。人間よりも身体が大きい分、亜人たちがもつ武器も大きい。一人の人間の老人を殺すためには、あまりにも過剰な武力。それでも、彼らは止まらない。
駐屯地にいる全ての人を殺すために、『緑』の技工士・エウレカ=ヘイマーディンガーの首を取るために、亜人たちが雪崩込んだ。
――時を同じく、聖都クーゲルス大城壁外周北部。
『白』の騎士・ウィリアム=ブラックスミスは城壁の影に寝っ転がり、口笛を吹いて惚けている。
「涼しいねぇ。天気もいいし、今日も酒が旨くて何よりだ」
傍らにおいていた酒瓶を直接口に運んでグビグビと喉を潤す。水のように飲んでいるが、度数は消して低くなく、コップ二杯でも飲めば普通の人なら酔いに気付くほど。それでも、彼にとっては水とほとんど変わらない。
――その彼がいる城壁の内側で、綿密に練られた作戦を遂行する集団がいた。
昼前の静けさは、壁を破壊するほどの爆発により終わりを告げる。城壁の内側からの衝撃は、ウィリアムごと吹き飛ばすほどの威力となって土煙を上げた。
「・・・・・・うまくいったか?」
爆音が静まった頃、城壁を爆発させた男たちが集まりだした。数にして6人。その後ろに、彼らを束ねる女性が立っていた。
「『白』の騎士の死体を確認しろ。瓦礫の下だろうが、ここの連中に回収されるより前に運び出せ」
強固な城壁に穴を開けるほどの爆発は、例えここが普段人が寄り付かない場所でも気付く。その音は離れた場所まで響き、直に近衛兵たちが状況を確認しに集まるだろう。
それまでのわずかな時間だが、ウィリアム=ブラックスミスの死体を回収するまでが、彼らの目的だった。
「――あ~あ。いい酒だったのに、もったいねぇ」
「!?」
男たちを束ねていた女の後ろに、埃にまみれ、割れた酒瓶を持った影があった。他ならぬ、『白』の騎士・ウィリアム=ブラックスミスが、無傷で立っている。
「・・・・・・なぜ、って顔してるな。そりゃあ、オレがオレだからさ」
「っ――!」
女の懐から抜かれた剣が、鋭い剣戟となってウィリアムを襲う。武装も礼装も構えていないウィリアムの肉体を斬ろうとした白刃は、――
「――この腕を落とすには、そんな小枝じゃ役不足だぜ」
文字通り、腕一本で受け止めた。
皮膚に傷一つ付けず、血の一滴も出さず、研ぎ澄まされた斬撃は、硬い金属に打ち付けたかのように静止している。
「ば、バカな・・・・・・」
離れている男たちがあまりの出来事に固唾を呑む。ウィリアムが任務をサボる際によくいる場所を調べ上げ、殺害するのに必要であろう火力よりも3倍強くし、それでも無傷で立つ男。
「貴様ら! ここでウィリアム=ブラックスミスを殺せ! 術式を展開しろ! 『革命民族機構』の礎となれ!!」
女の怒号が響く。この際、近衛兵が集まるまでの時間なんて関係がない。顔も割れた以上、ここでウィリアム=ブラックスミスを殺害することこそが、『革命民族機構』がすべき全てなのだから。
「本気見せろよ。じゃないと、オレの酒が許さねぇぜ」
――聖徒クーゲルス東部。拝炎教団と拝水教団のそれぞれの教会が建つ聖教地区。その中心にある双塔広場にて。
「爆発? 遠いケドでかいネ」
「北の城壁あたりでしょうか・・・・・・。医務3班は緊急医療隊として現場へ急行してください」
「司祭。拝炎からも何人かダスね」
フローレンス=ケラーがサマープレシャス医師団を中心に編成されている医務隊に的確に指示を出す。傍らに立つ『黃』の伝道師・リリン=シゥイイェンも、近くにいた拝炎教団の司祭に指示を出した。
異なる神を崇める拝炎教団と拝水教団であるが、それらを束ねているのが同じ人間であるという歪でも、この双塔広場の中では争うことはない。互いの経典に記されている通り、いかなる宗教であろうと、例外を除いて争うことは『神罰』の対象となる。
指示通りに部下を動かし、状況を確認しようとしたリリンとフローレンスの前に、大量の食材が積まれた荷台が運ばれてきた。黒いベールを羽織った、褐色肌のふくよかな女性。ガラガラと荷台を揺らし、二人の前に立ち止まった。
「何ネ。ここに仕出しの依頼はナイよ」
「これはこれはリリン様。いえいえ、これは依頼通りの品でございます」
「お呼びでないよ。アチキを騙せるとおもたカ? 顔も知らないやつにアキナイないヨ」
「あらあら、残念ですわ。ですが、こちらとしてもこのまま帰るわけには行きません。どうでしょう・・・・・・」
「しつこい。ケツ蹴られないとワカランなら――」
「――一発、吹っ飛んでみては」
荷台の食材が崩れ落ち、その中に潜伏していた男たちが一斉に何かを投げた。
フローレンスはそれを一瞬で理解した。戦場では当たり前の武装の一つ。衝撃を受けると内部の雷管が叩かれ炸裂する小型爆弾が地面に当たった。
リリンとフローレンスの足元で炸裂した爆弾により、地面を吹き飛ばす。爆弾の炸裂による破片、爆炎、そして地面が吹き飛んだことによる石が人の身に襲いかかる。近距離ならば、一発で数人に致命傷を負わせるだろう。
それが、二人の殺害のために、十発使用された。人体ならば塵なるほどの過剰な爆撃に、辺り一面が黒煙に包まれる。
「ギャハハハハハハハハ! たわいない! 大したことなかったな! これがこの国の最高戦力『虹の防人』か! 所詮は異端の偽物! アッディーラの息吹は、我らの勝利にこそある!!」
褐色肌の女性――西方で広まったアグラ教の過激派『アッディーラ・アグラ』の指導者であり、彼女らから見た異端とは、聖グレイトウェルシュ王国の2大宗教である拝炎・拝水教団のことである。アグラ教のためならば、経典に記されている未作為な殺生の禁忌も異端相手には無効であり、より唯一神アッディーラの偉業を知らしめるためには率先して行うべきと曲解していた。
「我ら『アッディーラ・アグラ』の仕事は終わったよ。後の仕事は『ブラック・デイ』に任せた」
『アッディーラ・アグラ』の後方から、黒い仮面と外套で全身を隠した数十人の集団――『ブラック・デイ』が現れた。
双塔広場での爆発音を耳にした拝炎・拝水両教団の関係者が集まっている。黒煙の中にいるテロリストには気付かず、徐々に数を増やしていた。『ブラック・デイ』の面々の手には、鋭く研がれた白刃がある。
「混沌だ。今よりここは混沌の鍋底になる。これが、この国の歴史となり、我らの悲願の一条となるだろう。ゆくぞ、同士よ。戦友よ。汚れた王国に、この地唯一なる民の怒りを思い知らせるぞ」
「――あいやガチャガチャ煩いネ。神の惰眠を起こすヤボは良くないヨ」
黒煙は、――炎によって塗りつぶされる。巨大な炎の壁により生じる気流によって、辺りを覆っていた黒煙が空へと消え、その中で、炎の壁の先に、――無傷のリリィとフローレンスが立っていた。
「バカな・・・・・・。城壁すら吹き飛ばす火力だぞ・・・・・・」
「ふん。当てが外れたな、『アッディーラ・アグラ』よ。だが、さすがは『虹の防人』というわけか」
「そんな外交のためのダサイ二つ名でアチキたち呼ぶのはよくないネ。ここは経典にもある非戦闘域。積極的争いよくないヨ。神はカンダイね、ここで帰るなら『神罰』ならないヨ」
フローレンスがリリンから離れ、双塔広場に単騎で立つリリンだが、威風堂々としている。
「専守防衛の原則ネ。けど、お前たちすでに臨界ヨ。この意味わかりますか?」
「何を迷う。貴様一人で先の後が取れるとでも。そう考えているのなら甚だしい。異端の神々よ、この地の神は"竜"のみだ。早急に退場するといい」
『ブラック・デイ』の先頭に立つ男が手を挙げると、後ろに立っていた同胞がリリンへと襲いかかる。振りかざした剣が、一人の女性をただ蹂躙するために。そして、この王国を混乱の渦に陥れようとしていた。
「――お前たち、お終いネ」
リリンのその言葉の後に続いたのは――
耳をふさぎたくなるような銃声。襲いかかった軍勢の絶叫と血潮。そして、『アッディーラ・アグラ』を率いた女以外の死体の山だけが残された。
「なん、なんて残酷・・・・・・神の座の前で、こんなに死体を築くなんて・・・・・・」
「何言ってるネ。先に仕掛けたのお前たちヨ。ココは『専守領域』、攻め込んだのなら、討たれるのは道理ネ。卑しく肥えれば、神は加護なんて出さなヨ」
「私はふくよかなだけよ! それに、ふくよかは富の象徴なのよ!!」
「仮にも神に使えてるならデブは罪ネ。その富を皆に分け与えることが奉仕の根幹」
リリィの周囲に浮かぶ、無数の鳥銃。瞬きの間に出現し、一斉に火を吹いた。その結果、数十人いたテロリストは一人を残し制圧され、残り一人の女にも、数丁の銃口が狙っている。
「懺悔するなら今ネ。アチキの神は気が短い」
全ての撃鉄が起きる。明確な死のビジョンが、褐色肌の女に映し出された。
「じ、地獄に落ちろ! 売女ど――」
女の叫び声が終わる前に、かき消すような銃声が響き渡った。
「――さて、貴公はどこの者だ。そこの連中とは別と見える」
――聖都クーゲルス城壁外周南部。壁の内側から爆発の衝撃がわずかに届いた頃。
『黒』の騎士・エイブラハム=ヴァン=ペンドラゴンの足元には、数十人の亡骸が転がっていた。その中心に、黒い外套を羽織り、返り血一つ付けていない最強の騎士が凛として立っている。
その視線の先に、黒いフードを被った男が立っていた。
「『黒』の騎士、エイブラハム=ヴァン=ペンドラゴンとお見受けする」
「いかにも。それを言う貴公は何者だ。三度はないぞ」
「我らに個人としての名などない。だが、記憶に刻むのなら――『神竜ノ民』と答えよう」
男がフードを取り、――傷だらけの顔に目元に半円の入れ墨、古びれた鎧と、抜き出した両刃剣の柄頭に、エイブラハムがつい先日目にした紋様が見えた。
片翼の黒竜を模したエンブレム。それこそが『神竜ノ民』を示す唯一の形。
「個人的な恨みはないが、訳あってその命を頂戴する。竜国神話などと現を吐かす以上、我らが刃を向けるに正当な理由がある」
数刻前に、『赤』の魔導騎士・ホムライトを襲撃した一団『神竜ノ民』。そのうちの一人だけが、エイブラハムの元に来ていた。
本来の計画では、周囲に横たわる亡骸たち――『錦御霊』がエイブラハム襲撃を担当していた。
目的は、"正しい歴史の請求と『三ツ子島』の解放"。『錦御霊』が信仰する『三ツ子島』における正統な歴史の開示と島の解放を掲げていた。それを遂げるために、力を示さなければならない。そのために、彼らは聖グレイトウェルシュ王国の最強格の一人であるエイブラハムの首を狙った。
結果として、『錦御霊』は彼に傷一つつけることが出来ずにその生命を散らした。無残にも、答え一つ手に入れることできずに彼らの聖戦は幕を下ろした。
それを、手を貸すこと無く見届け、見捨て、見殺しにした男が、最強格の剣士に対して剣を抜く。
「なるほど。貴公が頭だな。その風貌にして、剣に纏う闘気は本物のそれだ。先程のやつらとは幾分にも違うな。して、『神竜ノ民』よ。名もなき男よ。なぜ剣を抜く。なぜ立ちふさがる。なぜ、――なぜ今なのだ」
男の眉間が動く。なぜ今なのか。その言葉に反応したことをエイブラハムは見逃さない。
「貴公らの歴史は深い。この国の武勲も醜態も知っているはず。それほどの歴史の中で、貴公らが表に出た事実がない。答えは簡単だ。機を待っていった。長く、終わりがないかも知れない時間の中で、熟すのを待っていた。それが、今日を選んだのはなぜだ」
「なぜそれを貴様が気にする、エイブラハム。我らの存在にも気づかなかった貴様が」
「恥ずかしながら、先日ホムライトに一人が討たれるまでは、貴公らの潜伏は完璧だった。だからこそ、この襲撃に貴公がいることこそ、何か答えが得られたということだろう」
「あれは宣戦布告だ。そのためにも、今日しかない。すべてが揃っているの中、これを逃せば、いつ機会に恵まれるか知れたものではない。まずは竜が産んだ国に、乙女100人の生贄などと虚構の言い伝えの呪縛を解く。神話の意味をはき違え、それを政治として代行するなど、人の性ではない」
「・・・・・・それを知って、裁くと?」
「これは始まりに過ぎない。だが、ここを越えなければ、我ら『神竜ノ民』の悲願はない」
「よかろう。ならば、この剣で答えよう。我が名はエイブラハム。『黒』を授かりし、貴公の侵攻を止める者。竜の加護の元、逆賊の刃は斬り伏せるまで」
名もなき男へ、『黒』の騎士の剣が向けられる。
それを、受け止める男。剣戟の衝撃が、二人の周囲に風を巻き起こした。




