18.NOBODYKNOWS
――黒いフードを被った男が、陽が届かない暗闇の中、わずかな光源となる小さなランタンを持って洞窟の奥へと進む。足元は登山にも通ずるほど悪く、それでも慣れた様子で歩みを進めた。
「――待たせた。我らで最後か?」
洞窟の奥に広がる、僅かな広場。巨大な地下空間に、いくつかのランタンの火が浮かぶ。
数にして――7つ。それぞれの灯りの元に、誰かが立っていた。
男も女も、齢の若いものも年老いたものも。さらには、――聖グレイトウェルシュ王国人ではない、異人も亜人もいる。その誰もが、憔悴し、生気のない眼をしているが、――その根底には、誰にも救えないほどの強い意志があった。
広がるように並んだ灯りは、さながら円卓のようである。
「――いや、私で最後だ」
その場にいた誰もが、聞き覚えのない声に反応する。
灯りの数は7つ。その下に立つのは7人。けれど、その声の主は、7人の中の誰でもなかった。
「誰!? 出てきなさい!」
1人の女が声を荒らげる。招きざる客の存在はようとして知れない。なら、彼らにとって、重大な障害になりえる可能性がある。
「私を見ていなかったのは貴様らの方だ。私は最初からここにいる」
7つの灯りの真ん中に、青い光が灯った。ゆっくりと広がっていく魔法陣。7人の目の前まで広がった魔法陣が、周囲をわずかに照らす。
「良くぞ集まってくれた、同志諸君。聖グレイトウェルシュ王国に対する敵対心こそ、同士の証。歓迎しよう」
青い魔法陣の中心に立っていたのは、――仮面を付けた、黒髪の背の高い女だった。聖グレイトウェルシュ王国では見ないような、立て襟の堅苦しいカーキ色の身なりは、――まるで異国の軍服のようである。
「主はどこの者だ。ここいらでは見ない素材だな」
1人の亜人が口を開く。顔立ちは人間のようではあるが、長い鉤爪と二重関節の長い腕、蹄のついた足を持つ、異形種。全身を体毛が覆い、1人だけ衣服を着ていない。
「私の出処などどうでもいい。私も、貴様らの出処など興味はない。必要なのは、同士と値する敵対心だけだ」
「身も明かせない輩を信用するほど、ワタシたちは馬鹿じゃない! なんならココで殺して裏にいるやつに送り返してやるぞ!」
「『革命民族機構』、東の少数民族の者だな。その気性の荒さは実にいいが、相手を見誤るな」
「なんで、ワタシの組織を・・・・・・」
『革命民族機構』――聖グレイトウェルシュ王国の東に位置する緩衝国と隣接する小国。緩衝国によって端に追いやられ、貧しい経済状況を強いられている中、その緩衝国を支援している聖グレイトウェルシュ王国を恨んでいる組織だった。
「貴様だけではない。ここにいる『ブラック・デイ』、『亜人解放戦線』、『神竜ノ民』、『アッディーラ・アグラ』、『反魔義勇軍』、『錦御霊』、全て私が選んだ、正当に聖グレイトウェルシュ王国に反旗を翻すに値する面々だ」
「ほう・・・・・・。なら、貴様が我々に個別に招集をかけたというわけか、小娘。なかなかやりよるわい」
長く、赤と青の長い髭を捻って結わえた――『錦御霊』の老人の言葉に、仮面の女が首を縦に振る。
『錦御霊』――聖グレイトウェルシュ王国のある大陸の西側にある諸島の一つ、他国からは国として認識されていない小国の異人。二色の髭こそが戦士としての証明となる、戦闘部族から組織された集団の1人であった。
「『錦御霊』に同感だな。まだその時ではないと踏んでいたが、『神竜ノ民』を探し当て、なおかつこの国までの手引を出来たのだから、相当な者だとは思っていた。ここにいる誰もが、そうだったはずだ」
『神竜ノ民』――最後に洞窟に到着した、黒いフードを被った男。その腰に携えられた両刃剣の柄頭に、片翼の黒竜の紋章が刻まれていた。
「敵対心などどうでもよい。我らの邪魔さえしなければ、誰だっていい。『アッディーラ』の導きこそ、この世界に光をくれる」
顔をレース状の白い生地で覆った小太りな女は、『アッディーラ・アグラ』――唯一神『アッディーラ』を信仰する少数宗教・アグラ教の中でも、導きこそが唯一の救いとして、武力・暴力も行う組織であり、過激派として近年周辺諸国で警戒されていた。良識ある教徒が多い中、一部の過激的行動において迫害を強いられているが、『アッディーラ・アグラ』にとってはそれすらも敵対するのに正当な理由があるとし、聖グレイトウェルシュ王国内における『拝炎教団』と『拝水教団』、その2つを容認している聖グレイトウェルシュ王国そのものを外敵として認識していた。
「信用、信頼、そんなもの、信じたからこそ我らは迫害された。唯一正統民族である我らが、聖グレイトウェルシュ王国に牙を剥くには十分すぎる。その国王と血族となる王立聖家なる愚族を殺さなければ、我ら『ブラック・デイ』に祝福は聖地などない」
全身を黒い布で多い、赤い色素で複雑な模様を施した黒い仮面を被った中性的な声――『ブラック・デイ』。聖グレイトウェルシュ王国の位置する大陸における先住民の末裔であり、その中でも民族浄化により虐殺された過去から、血に染まり酸化しして黒くなった白い布こそ過去の怨讐の約束として羽織っていた。赤い模様のある黒い仮面は混沌の秩序を現し、わずかに見える青白い肌すら虐げられた先祖の恨みとして表現していた。
「仮面の女、貴様自身が我ら『反魔義勇軍』にとって害ある存在だと知っていて、ここに立つのか。我らの誇りは、貴様こそ先に滅せよと告げているぞ」
ランタンの灯りのもとで、異様な存在を魅せる――『反魔義勇軍』。声や背丈から子供のようにも感じるが、全身を覆うローブでその姿は認識できず、フードの奥にわずかに見えるものも、魔獣の如き彫刻が施されたフルフェイスヘルメットのようであった。
「『魔を討つならば、魔を制せ』と、私の国では言われている。魔法も道具だ。それをただ排除したいというのは合理性に欠ける。魔法の構造も理解した上で排除方法を模索することを勧めるよ」
「貴様っ!! 我らを愚弄する気か!?」
「威圧的なら反魔は達成できるのならそうするがいい。方法を選択するのはそちらの権利だ。だが、敵を間違えないことだ。私が使える魔法はそう多くない。だが、聖グレイトウェルシュ王国は魔法大国。何よりも魔女や賢者が上だ。その毒を制することこそが、貴様ら反魔の最大の功績だろう」
「『反魔』の者よ、今はしばし待て。女、貴様、これだけの者を集めて演説するのはいいが、名は何という」
未だ怒りが収まらない様子の『反魔義勇軍』を『神竜ノ民』の男が抑える。名を問われた仮面の女は、――
「私の名は――ホーリーホック。ここにいる者と同様、聖グレイトウェルシュ王国に消えてもらいたい者だよ」




