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悪役令嬢が魔法少女?  作者: まきえ
悪役令嬢が魔法少女?今度はバトルアリーナでロワイアル?

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16.絡繰人形は自我の夢を見るか


「――ベッキーちゃん! ワタクシの返事はオッケーですわよ!」

「私、まだ何も聞いてないけど」


 時間は前夜に戻り――『竜の夜』を終え、レントと共に『寄宿城』の自室に戻ってきたレベッカを迎えたマグライトとマリアーノだったが、マグライトは否応なしにレベッカからの何かに快諾した。


「第2予選の『小隊』システム、あと一人必要になるのでしょう。なら、それはワタクシ以外にありえませんわ! だって、この日のために足の治療をしていたようなものですもの!」

「あんた、最初から第2予選の内容も知っていたの?」

「・・・・・・知りませんわ。ええ、知りません。さっきのは冗談。ワタクシにはそれくらいの気概がある例えですわ」

「マグライト様、目が泳いでいらっしゃいます。もう少し堂々としたほうがレベッカ様も信じるかと」

「ねえ、レント。この国の王立聖家ってなんでいつも機密事項を知っているのかしらね。この国大丈夫かしら」

「はははは・・・・・・ノーコメントでお願いしますぅ」


「まあいいわ。どっちみちあなたにお願いしようと思っていたことだし。マグライト、改めて聞くわ。第2予選で私の『小隊』に参加して。勝ち残るために、そして、あなたの思惑のためにも」

「ええ。もちろんですわ。ワタクシもあなたが敗退されると困りますもの。そのために半年かけて鍛え上げたもの」


 レベッカが差し出した右手を、マグライトが力強く握る。二人の表情も力強く、契りを結んだ。


「時にベッキーちゃん、セルはどこ?」

「さあ。先に帰ったみたいよ。まあセルがいなかったから、初めにあなたに声をかけれたのもあったんだけどね」

「レベッカの浮気者! ワタクシとセル、どっちが目当てなの!?」

「不埒者扱いするな! 戦力になればどっちだっていいわよ! それに、足、大丈夫なんでしょうね」


 レベッカが『竜の夜』に参加している間にマグライトが足の治療を依頼した――『紫』のサマーライトが編成したサマープレシャス医師団は聖都だけでなく、王国中の上級医師が持ち回りで王宮医師会に在籍している。貴族のかかりつけや有事の際の衛生班としても動き、実績ある者しか選出されない特別職であった。



()()()()ですわ。解呪はほぼほぼ終わり、怪我自体は完治まで至らずとも、エウレカ爺様の装置で生身より頑丈ですわよ」

「なんか、機人(サイボーグ)みたいね、あんた」

「それを言うなら外格強化(パワード)ですわ。空論よりもよっぽど現実的な技術。あなたのお父様もその業界ではエウレカ爺様の次に凄腕でしてよ」


 レベッカの父――コクトー=クワッガ―=ボガードは辺境伯ではあるが、技工技術者としては最高峰であり、国王から『神の指』とすら称された男であった。レベッカに授けた右腕の特殊籠手はボガード家に伝わる家宝であり、コクトーにより完成した一品である。レベッカは近くにいすぎたがためにその事実に気付いていなかったが、彼の作品を欲しがる貴族は多い。


「お父様、謙虚な人だから全然そういう事言わないのよね」

「どこの技工士も自身の工房に籠もりたがりですわ。けれど、腕は確か。輝きは近ければ近いほど見えないものですわ」


 レベッカにとって、父コクトーの技術はいわば『当たり前』のものであり、特別ではなかった。自らの右腕にある特殊籠手も、ねだれば見せてもらえた。聖都までの道中で届けられる以前に見た時は、組み立てられる前でバラバラであったが、粉末金属を使った特殊シリンジ技術の基礎は、マグライトの左足の義足にも流用されている。



「エウレカ爺様から伝言。その籠手に不具合があれば父に代わってメンテナンスするそうですわ。コクトーから直接依頼を受けているそうよ」

「お父様が他人に技工を任せるなんて珍しい。エウレカ様ってやっぱりすごい人なの?」

「めちゃんこですわ。なんたってコクトーの先生ですもの。コクトー以上の技術者であることは確かですわ」

「ふーん。なら、予選の前に一度見てもらおうかしら」

「なら明日すぐに行きなさいな。第2予選の開始日は通知されていなかったと思うけど、風が()()()って教えてくれましたわ」

「・・・・・・相変わらず、ズルズルな機密ね」

「あ・く・ま・で・も、風の知らせ、ですわ♡ 今日はワタクシ達も帰ります。今夜はゆっくりして、朝一で動くといいわ」



 マリアーノとレントを連れて退室しようとするマグライトに、思い出したかのようにレベッカが口を開く。


「あ、一つ聞きたいんだけど。あんた、第1予選の時に何かあったの?」

「・・・・・・なぜ、それを聞くのですの」

「いや、私たちのピリオドの時、あんた包帯とか巻いてたじゃない。最初は何もなかったのに。今考えたら――」


「他愛もない話ですわ。ただの、姉妹喧嘩ですもの。立場もクソもない、オチのない話よ」


 冷たい表情をしたまま、詳細を語ること無くマグライトはレベッカの部屋を後にした。その最後の表情はどこか寂しげで、レベッカの心にわだかまりが刺さる。



 ――そして翌日。妙な眠気を残したまま起床したレベッカであった。


「・・・・・・なんて顔するのよ、バカライト」


 いつもと違う表情は、マグライトにとってなにを現していたのか。レベッカにそれを知るすべはないことは彼女自身が理解している。けれど、形はどうであれ、この聖都――第一級国家魔法少女を選出する儀式において、マグライトは間違いなくレベッカの命の恩人であった。その事が、よりレベッカの気持ちを揺さぶっている。


「悩んでも仕方ない。時間はないんだし、まずはエウレカ様のところに行かなくちゃ」


 身支度を整え、先日新調したピンクのローブを羽織る。要所要所に魔力伝達繊維が編み込まれており、わずかながらの魔力で防寒にも冷却も可能という快適を追求し、機能性に優れた最高級品であった。レベッカとしては機能面よりもただ単に軽いということが着眼点であるが、それは個々人の好みの差である。


「――誰かいませんか~?」


 王宮のある聖都の中心地より少し離れたところにある、『緑』の機械技師・エウレカ=ヘイマーディンガーの工房に到着したレベッカだが、当の本人は不在の様子だった。


 工房の入口付近には山のように積まれた廃材と、光源が埋め込まれモニュメントと化している銅像や甲冑、駆動しないように処置された元傀儡体が乱雑に配置され、見る人が見れば技工技術の個展のようにも見えなくもない。


「タイミング間違えたわね。お父様と一緒で、朝一から工房に籠もってるってつい思ってしまったのが失敗だったわ」


 レベッカの父コクトーの様子と重ねた為にアポイント無しでもいるだろうと高を括っていたが、他人の事情と都合良くあうわけがなく、無駄足だったかと踵を返そうとする。そこへ、――


「――イラシャイマセ、オキヤクサマ。ドウゾコチラエ」


 閉じられた工房の扉の奥より、何やら声が聞こえた。聞き慣れない独特の声――レベッカにはすぐに機械音声だと理解できたが、見えもしない相手を認識していることに驚いた。


 ゆっくりと開く扉から、台車に木製の人形が組み込まれた絡繰人形が出迎える。


 自走式の絡繰人形は、頭部と思わせる部分には緑色に輝く単眼式サーチセンサー、上腕部には扉の開け締めを可能とする簡略機動、胴部に小型の蓄音装置、そしてそれらを自動で識別し、状況を判断して登録されてる言語を発する人工知能が搭載されていた。


「すごい、こんな技工が作れるなんて・・・・・・」


「イラシャイマセ、オキヤクサマ。アルジ、ガイシュツチュウ。ナカデ、マチオ」


 絡繰人形の案内に従い、レベッカがエウレカの工房へと足を踏み入れる。久しく離れていた金属と油の臭いが鼻をくすぐり、懐かしさに口角が緩んだ。


 工房内には完成しているけど放置されている傀儡体が至るところにあり、コクトーとは違った趣向ではあるが、レベッカにはどれもこれもハイレベルのものとだとわかる。多関節の装置が多いように思えるが、強度面で問題があるようにも思えない出来栄えにただただ感銘していた。


「イラシャイマセ、オキヤクサマ。ドウゾ、コチラエ。スワテ、スワテ」

「ここに座ってればいいのね。ありがとう」


 蓄音された音声の不具合か、どこか片言のように聞こえるが、内容が認識できるのならば問題はない。娯楽場のように気持ちが高ぶるレベッカが、座るように案内されたソファーの上から辺りを見渡す。


 武装を収納する仕込み鎧。回転式の小型の短銃。多関節の内側に隠された波状刃(フランベルジュ)。布のように薄い刃を巻きつけた傀儡体(ドール)。魔石と思われる宝石をふんだんに埋め込んだ籠手。


 兵器化を目的としているのか、ただの作品なのかはレベッカには判断つかないが、一品限りのものであっても実用性があるように完成されているものばかりであった。


「これって――」


 そして、壁に飾られていた幾つかの設計図と思われるものに、レベッカにとって見覚えのあるものがあった。


「この籠手に似てる」


 設計図の内容的には左手用の絡繰籠手。特殊シリンジと、粉末金属を思わせる記号。三段式に拡張される遠隔装置(マニピュレーター)。ボガード家の特殊籠手が投擲時のエネルギー強化に特化した装置なのに対し、可動域(レンジ)範囲(リーチ)に特化しているようにも見えるそれは、材質や骨格などはレベッカのものと瓜二つであった。


 近くで見ようと席を立ち、自らの籠手と見比べながら設計図を見ていく。細かいところまで描写され、外格からは視認し得ない内部構造の緻密さが浮き彫りになった。




「――何じゃ客人かね。不在の時は案内しないよう設計したのにまた失敗じゃ」




 気付けば、工房の主と思われる男が立っていた。長く白い顎髭(あごひげ)を三編みにし、幾つかの道具を抱えている。


「おはようございます、エウレカ様。ゲーナインのコクトーの娘、レベッカでございます。本日はアポ無しで伺い、不在時なのに工房内に入ってしまい申し訳ございません。絡繰の不具合だったのですね」


 レベッカがエウレカ=ヘイマーディンガーに深く頭を下げる。初対面ではあるが、ひと目見ただけで、そのものが『緑』の位を持つにふさわしい人物だとわかっていた。


「おん? レベッカかえ? ならええ。急な仕事はあるが、コクトーの娘なら話は別じゃて。ほれ、こっちにこんか」


 絡繰の不具合とは言え、他人の工房へ無断で入ったとなれば、技工士ならば誰もが不快に感じる。それ故に怒られると覚悟したレベッカであったが、その様子もなく手招きした。


「座れ座れ。朝一の緊急会議でな、普段ならいつもここにいるのにタイミングの悪い娘じゃ。それで、要件は何じゃ? ()()()()のことか?」


 先程までレベッカが座っていたソファーの向かいにエウレカが腰を下ろす。レベッカも同じ様にソファーに座り、右手の装着した籠手を外してテーブルに置いた。


「はい。昨晩、メーガス家のマグライト嬢よりエウレカ様からの伝言を頂戴致しました。予選前に一度、父から頂いたこの籠手のメンテナンスをお願いしようかと思いまして訪問した次第です」

「ほうほう。()()()()()()()()()と聞いた時は驚いたわぃ。ワッチでも造れなかったものじゃからな、コクトーはやはり只者ではない。良き父をもったな、レベッカ」

「ありがたいお言葉、感謝します。父もエウレカ様に良い評価を頂いたことを喜ばしく思うはずです」

「ふむふむ。ワッチのマニピュレーター技術の流用ではあるが、よくまとめられておる。少し、・・・・・・ネジが硬いか。油も固まっているな。第1予選でもエキシビジョンでも思ったが、()()()()()()()()()()ように感じたのはこれのせいかの」

「? と言いますと?」


 エウレカの言葉をそのまま解釈するならば、籠手の駆動に不具合があったということになる。だが、レベッカには中央大通りでマグライトの馬車相手にリンゴを投げつける際に起動しており、不具合自体はなかったと思っていた。


「不具合じゃよ。レベッカや、半年以上油を差しておらんじゃろうて。このまま第2予選に出てれば、きっと肝心の時に起動せんかったぞ。おい、弐號(ニゴウ)。グリスをもってこーい」


「アイ、アルジ。イチゴウメタルグリス、オールシンセティックグリス、デスデス」


 先程レベッカを工房内に誘った絡繰人形が、二種類の技巧用油(テクニカルグリス)を持ってくる。


「こういう仕事は完璧なんだが、案内とかになると瑕疵(バグ)があるんじゃよな。まあそのおかげでこうしてコクトーの籠手を見ることができたんじゃが。お互い運が良かったの、レベッカ」


 エウレカは慣れた手付きで籠手内部に残った油を抜き、固化しつつある油も綺麗に排除して新品の油へと置換した。ものの数分の作業ではあるが、ネジ締めの調整も終え、レベッカのもとに籠手が戻された。


「油のせいで安全装置すら機能してなかったようじゃの。今なら魔力感知で解除できるはずじゃよ」


 右腕に籠手を付け直したレベッカが、試しに魔力を全身に流す。羽織っていたローブの魔力伝達繊維も反応して微光を放つ。魔力に反応した籠手が小さな音を出し、滑らかに起動準備を整えた。


「すごい、こんなに変わるなんて・・・・・・」


 魔力を断つと瞬間的に安全装置が起動し、起動準備を解除して休止状態へと移行する。エウレカにメンテナンスをさせるまで、起動準備状態のままで固定化されていた事になり、予期せぬタイミングで暴発していた可能性にレベッカの額に冷や汗が浮かんだ。


「ありがとうございます、エウレカ様。本当に助かりました」

「いつでも遊びに来てもらってええよ。だいたいここおるしな。ワッチは技工一筋じゃからもてなしも何もできんが、レベッカなら工房(ここ)は遊び場のようなものじゃろて」

「はい! 実は、ずっとウズウズしています。聖都に来て久しいので、すごく興味が――」


「アルジ、オキヤクサマ。オキヤクサマ。ゲンカンニ、オキヤクサマ」


 訪問者を知らせる弐號の音声が部屋の外から響く。駆動音を鳴らしながら近寄り、話の腰を折られたエウレカが頭をかいた。


「――お迎えに上がりました、レベッカ様。要件はお済みでしょうか」

「マリア、なんでわざわざ?」


 弐號の後を追って部屋に入ってきたのはマグライトのメイドであるマリアーノだった。


「そろそろメンテナンスが終わる頃かと思いましたので。レベッカ様の自室にてムラサキ様がお待ちです。ですので、お迎えに上がりました」

「げ。なんであの娘が私の部屋に・・・・・・」

「予選の準備もあるじゃろうて。『小隊』システムはチームワークが重要じゃて。歩み寄ることも大事じゃよ、レベッカ」

「うぅ。もう少しここにいたかったのに。・・・・・・わかりました、帰ります。エウレカ様、また後日伺いさせていただきます。今度はお礼も兼ねて」

「手土産はええぞ。また籠手を見せてくれ」

「心遣い感謝します。それでは、お邪魔しました」


 マリアーノに連れられて工房を後にするレベッカの後ろ姿を見送り、人気がなくなったことを確認したエウレカがソファーから立ち上がる。工房の奥に位置する作業場へと向かい、途中だった仕事に取り掛かる準備をした。


「さて。()()の完成が第2予選をどう動かすか。さすがにレベッカに中身を見られるのは公平じゃないわなぁ」


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