15.集いし七色の特記戦力
――王宮での『竜の夜』から一夜明け、『王宮警峰軍詰所』の会議室には重々しい空気が流れていた。
大きな円卓の周囲には八つの椅子が並び、そのうち六つにはそこに座るべき面々が鎮座している。
「ウィリアムはまだか。大事な会議だというのにどこをほっつき歩いている」
腕を組み、険しい表情を浮かべているのは――騎士教団1位の家長である『黒』の騎士・エイブラハム=ヴァン=ペンドラゴン。単騎による竜殺しを四度達成し、歴代最高討伐数を誇る実力者であり、『白』の騎士・ウィリアム=ブラックスミスと肩を並べる騎士の最高峰である。
「どうせ酒の飲みすぎじゃろう。ほっとけほっとけ。あいつならその場でどうにかするじゃろうて」
そう言ったのは、――『緑』の機械技師・エウレカ=ヘイマーディンガー。長く白い顎髭を三編みにした男性で、国内有数の傀儡体技師であり、レベッカの父であるコクトーの師であった。
「エウレカの言うとおりだ、エイブ。どうせ面倒事からは逃げるし、ここにいるメンツだけで十分だよ。王にはワシから伝えておこう」
空席に挟まれる位置に座り、円卓に顎だけおいている『青』の大魔女アビゲイルは、やる気のない様子で、昨日まで続いた聖都全体の警備の任を終え、疲れ切っていた。
「疲れてるならそこで寝ていろネ。アチキたちだけで十分ヨ。拝炎も拝水はいつも忙しイ。会議早く終わるヨイカ」
片言で悪態をつく、――修道服姿の女性、『黃』の伝道師・リリン=シゥイイェン。聖都における二大宗教である拝炎教団と拝水教団の両方を取り仕切る立場にあり、会議の場にありながらせわしなく資料を読み漁っていた。
「内職しているなら貴様も帰ったらどうだ。そもそも我々にはチームワークなんてものはない。来たるべき問題があれば、各々でどうにかしたらいい。それができない者たちではないだろう」
腕と足を組み、エイブラハムに負けないほど不機嫌な表情を浮かべている『赤』の魔女・ホムライト=ドグライト=メーガス。円卓に座る中で一番の年少者であるが堂々としている。
「うるさいネ、ホムラ。年上は敬うのが礼儀ヨ。もいちど子供からやり直すヨロシか」
「噛み付くな。それこそ時間の無駄だ。予選中は聖都全域で警備が手薄になるのは例年通り、テロはどこかで起きてもおかしくない」
「ホムライトの言う通り。ワシら警峰軍の持ち場は提示したとおりだが、主に民の守護だ。当日は三ツ子島への転送が済み次第、ワシは軍に戻る。他の箇所は手筈どおり頼むぞ」
「アイアイ。アビさんの話わかりまス。両教のシリ拭き任せるネ」
「騎士たちは国境の近くに点在させている。緩衝国もあるが、侵入があればすぐに動けるようにしている。竜の出現情報も今の所出ていない」
「他国の侵入よりも竜のほうが厄介じゃからのう。なんせ竜相手に騎士以外戦力にならんじゃろうて。そこに戦力が割かれれば国境沿いが不安じゃてな」
「各所に医師団の派遣は手配済みです。ですが、主医の数が足りない。緊急用の救急輸送部隊の編成を考慮していただきたいのが現状です」
『紫』の位の席に座っているのは、――唯一その色のマントを羽織っていない、白衣姿の男だった。サマープレシャス医師団第2位のフローレンス=ケラーが、本来その席に座る者の代理として座っていた。
「サマーライトはまだ戻らないのか、フローレンス」
「はい、エイブラハム様。医師長の不在はいつものことですが、有事になれば確実に人手不足です。主戦力に負傷者が出た場合、前線復帰率は少なくとも18ポイントは下がる目算です」
「18は結構な痛手じゃな。輸送部隊の回転にはワッチの『傀儡体』を使うとええ。人手よりは速いじゃろうて」
「サマーライトに代わって感謝します、エウレカ様」
「いつまでイない人材期待してるネ。アチキまだサマーライトの顔知らないヨ」
「あの女一人で百人力だからな、冗談抜きで。そりゃ戦力として期待したいもんだ。リリンも、教団のケツ持ちだけが仕事ではないぞ。ワシの所とエイブの所に人員を出せよ」
「アイアイ。予選に派遣されるのは三人ネ。出ないやつの半分ダスよ」
「上々だな。その他ハプニングには柔軟にこなせよ。バックアップはできるところから移行。エイブは局所、ウィルは遊撃にするといい」
「ああ。むしろ、ウィリアムはそれがしたいだけの男だ。それ以外の期待はしていない」
「ホムライトは問題がなければ予定通り三ツ子島にて警護、有事に合わせてウィルのカバーだ」
「了解した」
「もうイイか? 何にせよ、何も起きないよう神様にお願いシトクね。アチキはこれで帰るヨ」
「せっかちだな、リリンは・・・・・・。まあいいさ、祈りも教団の大事な仕事だしな。ワシも今日は帰るぞ、後始末が山積みだ」
早足で会議室を後にしたリリンと、新調した青いマントに包まれて浮遊しながらアビゲイルが出ていった。
「ワッチも帰るかの。急な仕事で忙しいしの」
「エウレカ様、忙しいのはわかりますが、定期検診の方も忘れずに」
「思い出させるでないわい」
「二度目の延期はありませんよ。何なら直々に工房へ行きます」
「ワッチの工房に医者はいらんて。予選が終われば行くわい」
頑固な患者と献身的な医師のような会話をしながらエウレカとフローレンスも会議室を後にし、残されたエイブラハムとホムライトが互いに視線を交わす。
「状況はどうだ、ホムラ」
「ああ。聞き耳はいないよ。安心していい」
周囲に注意を払い、盗聴しようとしてるものがいないことを二人が確信した。
「第1予選中に阻止したテロは12。いつもに比べて多くないか、ホムラよ」
「12ではない。報告していない分も含めれば17だ」
「なぜ報告していない」
「取るに足らないものだからさ。誰かに唆された浮浪者だよ。4つはな」
「なら、残り1つは」
「それが問題だ。これを見ろ」
ホムライトが懐から取り出し、エイブラハムの目の前に投げた小物――竜の牙で造られた刃の欠けた短刀であったが、柄の部分に刻まれた紋章が目に留まる。
「何だコレは」
「知らない。だから兄にだけ聞いている。この竜の紋章はなんだと思う」
片翼の黒い竜を象徴としたエンブレムが、異様な存在感を魅せている。古くからあるような使い古されたものではあるが、ホムライト自身これが何を示すものかの知見がない。
「ワタシとしたことが、こいつが何かを口にする前に仕留めてしまった。おかげで出処がつかめていない。けれど、こいつらが今回のテロの中で一番異質だ。そして、兄のほうがこういうのに詳しいだろう」
「残念だが、私もこれは初見だ。けど、たしかにこれは異質だ。表に出ていなかっただけで、こいつらには歴史がある」
長い間使い込まれた短刀の柄には、多くの手垢が残されていた。それも、一人だけでなく、何人もの人により蓄積されたもの。そして、刻まれた紋章も、その時の長さからすり減っていた。
「これを会議に出せば、最悪予選は中止だ。それでは、国王は守れても国は護れない。制約を反故にすれば、この国は滅ぶ。だからこそ、国と国王のためにも、我々だけで事態を治めないといけない。そういうことだな、ホムライト」
「兄は話が早くて助かる。先生もエウレカも、リリンもああ見えて心配性だ。騒がれればすべてが面倒くさい。それは兄に預ける。道具にしてくれ」
ホムライトが席を立ち、踵を返す。竜の紋章が刻まれた短刀の柄を懐に収めたエイブラハムも同様に席を立った。
竜の紋章については大事にしないよう、秘密裏に動くことになる。これが第2予選の弊害にならないことを願い、エイブラハムは調査を開始した。




