11.LETTER
「レベッカ、封書が届いてたわよ」
第1予選の閉幕式を終え、『寄宿城』の自室に戻ったレベッカだったが、部屋の主よりも主らしい態度で、当たり前の同居人の如くお茶会が始まっていた。
ティーカップを口につけ、好みの紅茶を堪能しているマグライトとセル、当たり前のように紅茶を追加するマリアーノ、半年ばかりで慣れてしまったが相変わらず申し訳無さそうな顔を浮かべるレント。
部屋中を満たす上質な紅茶のいい香りに一瞬油断仕掛けたが、ギリギリのところで自我を取り戻す。
「勝手に人の部屋でテーブル囲んでじゃないわよ」
「レベッカ様の分もご用意できています」
部屋の主だからどうぞ上座へと椅子を引くマリアーノだが、人の話は絶対に耳に入れないマグライトのメイド長を睨みつけるも、やはり華麗にスルーされてしまった。
「レ、レベッカ様、こちら、封書です」
申し訳無さそうな子猫のようなレントには弱いのか、レベッカの表情が崩れる。それを見たマグライトの口角が、レベッカに気付かれないようわずかに上がった。
「閉幕式で軽く説明があったと思うけど、『竜の夜』の招待状ですわ。端的に言えば、予選通過者への祝賀会ですわね」
「なんか、気が乗らないわね・・・・・・、ん? これは?」
封書の印璽を解き、中身を確認するレベッカだが、豪華な装飾がされている招待状とは別に、数枚のパピルス紙が混ざっていることに気付く。どうやら第2予選のルールが記されているようだった。
嫌な予感がする、とレベッカのセンサーが動いた。
「――やっぱり、第2予選の概要だわ」
同封されていたのは、第2予選のルールと地図らしきものだった。
「あら、これって『三ツ子島』ですわね。国王管轄の私有地ですわ」
「国王の避暑地って噂だけど、とてもじゃないけどくつろげない島よ。なんせ昔の戦争の激戦地で、すべてが破壊されつくされた『見捨てられた島』って話よ」
「そうなの? でも、それって変じゃない?」
初見の島の地図だが、レベッカには違和感しかなかった。それを、王立聖家である2人が気付いていないのかと、不安になる。
「だって、どこからも上陸できない島なんて、激戦地になるには不自然だわ」
「何を言っているのかしらこの娘は」
半ば呆れ顔のマグライトだが、レベッカの言葉は止まらない。
「だってそうでしょう。島の近くまで岩肌が隆起して、いくら川があってもこれじゃあ船もつけれない。全体がすり鉢状で壁のように反り立つ山に囲まれた土地なんて、攻めるも落とすも苦労は並じゃないわ。魔女や賢者主体ならまだしも、ここに籠城するほうも土地を育てるのも非現実的よ」
珍しく食い下がるレベッカに、マグライトとセルが口を噤む。
「初めて見るこの地図だけで、そこまで読み取るなんて中々ね。けど、歴史がそれを証明している。聖都の南に位置する『三ツ子島』が死んで200年は王家以外立入禁止の未踏の島であることに違いはないわ」
「歴史を疑うにしても、あなた自身が知らないことが多すぎですわよ。魔法の特訓の他にもお勉強が必要ですわね」
「あんた達、私のこと馬鹿にしてるわね。たしかに初めて見る島だけど、田舎育ちなら地図から土地の情報くらい読めるわよ」
「はいはい。それで、予選のルールの方はどうなってるのかしら?」
「やっぱり馬鹿にしてる・・・・・・。まあいいわ。えっと、ルールは――」
第1予選と違い、前もってルールを提示している第2予選は、そのルールをいかに理解し、利用できるかが勝利の鍵となる。
それは、昼前に『青』の大魔女であるアビゲイル=サマンサと戦ったレベッカには十分すぎるほどの経験があり、他の予選通過者に比べて実力が劣ることがわかりきっている以上、必須の事項であった。
----------------------------------------------------------------------
第2予選のルールを以下に示す。
第2予選はチームポイント制と個人ポイント制の両方で評価する。
【チームポイント】
第1予選通過者から設定された2人1組になり、そこから推薦で1名追加した3名1組の『小隊』を編成する。
『小隊』を4セットで1組の『中隊』とし、これが第2予選における1チームとなる。
編成された各中隊を3色(赤・青・黄)に振り分けたチーム戦を執り行うこととする。
『小隊』がそれぞれ1つの「小コア」を守護し、4つの「小コア」と『中隊』の核とも呼べる1つの「大コア」を守り切ることを目的とした戦闘を行う。
「小コア」を破壊された小隊は仲間の小隊へと合流が可能だが、数分の拘束術式を受ける。
「大コア」が破壊された時点でその『中隊』は敗北とし、残った2チームの勝利とする。
「大コア」が破壊された中隊以外にコア破壊によるポイントが振り分けられる。
「小コア」破壊で1ポイント、「大コア」破壊で3ポイントとなる。
「大コア」を失った中隊は第2予選敗退となるが、救済処置として後述する【個人ポイント】を有する『小隊』の予選通過の可否を審議するものとする。
【個人ポイント】
敗退した小隊に対する救済措置として、「小コア」を破壊できた小隊に対してポイントを付与し、戦闘終了後、全『小隊』に付与されたポイントのうち、平均値以上を獲得していた場合は復活組として予選通過とする。
-----------------------------------------------------------------------
「まさか、チーム戦とはね・・・・・・。ペアは、まだわかんないのか」
地図とルールの提示だけで、肝心の組み合わせは記されていなかった。
残りの23名のうち、誰かがレベッカの相方となる。けれど、誰が選ばれても、仲良くなれる気はしなかった。
「相手がどうであれ、あなたなら大丈夫そうだけどね。まあ、敵は少ないほうがいいわよ」
「ですわね。わからないことは後々わかるのだから、今悩むことではありませんわ。それより、『竜の夜』のことはよろしくって?」
「祝賀会だなんて、気がのらないわ・・・・・・」
なぜなら、社交界とは名ばかりで、後日殺し合いする者通しの顔合わせ会に他ならない。なら、レベッカからすれば針のむしろであり、マグライトとの関係により悪目立ちしている以上、できるだけ影に隠れたかった。
「堂々としていればいいわ。レベッカがいくら気をつけても、民衆からの期待はすでに高いのだし。それに、どうせ隠れても第2予選が始まってしまえば一切合切関係がないのだから」
レベッカの肩に軽く手を置くセルだが、それでも気分は乗らなかった。
「やれやれ、とんだ困ったちゃんですわね。セル、この娘のエスコートを頼めるかしら?」
「なんでそうなるのよ。わたし関係ないじゃない。パトロンなんだからあなたのメイドにさせなさいよ」
「マリアはこれからワタクシの検査に同行ですし、レントはベッキーちゃんと同じで経験不足。ほら、この中ではセルが適任ですわ。だって王立聖家ですし」
「尚更わたしがすることじゃないわね。他をあたりなさい」
「今回の『竜の夜』のホストはウィリアムよ」
「行くわ。嘘だったら殺すから。レベッカ、早く行くわよ」
「ちょ、いくらなんでも早すぎじゃあ――」
レベッカを蚊帳の外にした交渉の片がついたようだが、謎にやる気を出したセルに腕を引かれ、人さらいの如く自室を後にした。
「やれやれ。セルのファン心理は理解しかねますわね。マリア、ワタクシたちも検査に行きますわよ。サマープレシャス医師団が待っていますわ」




