EX.深淵より深く
「――どうやら、最終ピリオドも終わったようだな」
暗く、空気も淀んだ空間で、ポツリと言葉を漏らす。
コロシアムから離れた場所にあり、かつ窓もない部屋でそれを知覚することはおおよそ不可能だろう。
ネズミ一匹すら通さないように設計され、石壁からは外の温度とは程遠いほど冷たい。
「そう睨むな。約束通り、明日までのサミットが滞り無く終われば、きちんと解放してやる」
鋭い殺気を込めた視線に肩をすくめたのは、――聖グレイトウェルシュ王国の中でも武力のビッグスリーと評される、赤色のマントを羽織った女性だった。
『瞬獄』のホムラ――ホムライト=ドグライト=メーガスが腕を組み、面前の少女を見下していた。
「・・・・・・」
言葉を発さない。ただ、不満そうにホムライトを睨みつける。それが、彼女に残された唯一の意思表現だった。
「猿轡も苦しいだろうが、外すことは許さんよ。油断した外の兵が餌にされてはかなわん。怒りなら、解放の時に受けてやる。我慢することだ」
見れば、少女の口には布が噛まされており、本人の意に反し涎が垂れ、両手も拘束衣によって自由を奪われていた。
「貴様がこの国に来た経緯はもう聞かん。予選に残っているのなら、貴様の権利は十全に保証しよう。それがこの国の司法だ。反故にすることは国王ですら許されないことだ。だから安心していい。『魂喰い』だろうと、貴様の身柄は、ワタシたちが護る」
明確に提示された言葉に、少女の表情が変わる。
国を代表するほどの人物が紡ぐ言葉は、もはや国王のものと捉えることができ、自身が選んだ道に狂いはなかった。
「第1予選の閉幕もあることだし、ワタシはコロシアムに戻るが、大人しくしてくれよ。荒事になれば、この話はなしだ」
もらいたかった言葉を得た以上、波風を立てる理由がなくなる。力強くうなずく姿に、ホムライトも確信を得た。
「賢い子だ。では、また来るよ」




