07.マクガフィンは笑わない
エキシビジョンの内容に歓喜した民衆の声と来賓もが思わず拍手を贈る中、特別控室には第1予選の最後を飾る面々が集結していた。
最後を飾る――謂わば第1予選の集大成をと期待が集まる中、――いや、集まるはずだった中、皆の表情は暗い。
先に行われたエキシビジョンはあくまでも迎賓を目的としたショーであったのに対し、本来今日唯一舞台に上るはずだった彼女たちは、血で血を洗う殺戮を繰り広げるはずだった。
およそ半年続いた第1予選において、順当に勝ち抜く者、皆の予想を裏切る――『マキナの神』に愛された者、魔法少女としての素質がないにも関わらずそれを覆す者と様々いたが、一部を除いて予選の参加こそが死刑宣告と受け取っても差し支えない。
だが、魔法少女である『華』として最後の舞台を強要されていた者からすれば、急遽変更された今日の舞台のあり方そのものに不満が残る。
「――よう。いつになく仏頂面じゃあないか」
一人の令嬢に近付き、声をかける者がいた。
周囲の令嬢と比べて、明らかに体格が大きく、令嬢というには些か苦しいが、家柄は歴史の深いことには違いない、聖グレイトウェルシュ王国で王立聖家と対をなす大貴族、騎士教団2位のサラ=ブリリアント=クオラン。
日に焼けた褐色の肌、クセが強くうねる髪も赤く退色しており、周囲の令嬢がドレス姿に対して、甲冑姿を見るからに騎士という風貌を漂わせる。
そして、その前でソファーに座り、腕を足を組んで厳しい顔をしていたのは、王立聖家1位のナターシャ=マクガフィンであった。
深い藍色のドレスは、もはや真っ黒と思わせるほど。その中で、白い肌と白銀の髪が相関として浮き上がらせる。
薄い水色の入った丸レンズのメガネの奥に、光を感じないほどの暗い眼が睨みつけた。
「何か用かしら、レディ=クオラン。今の私は見てもわかるように、とても不愉快よ」
「ああ、知っている。女狐にああも見せ場を持っていかれては、王立聖家を束ねるマクガフィンとしては腹立たしいことだろう。実に同情するよ」
「なら私に構わないでもらえるかしら」
自ら口にするほど、あからさまに機嫌の悪いナターシャに対し、サラは堂々とした態度を崩さない。
「いいや、構うね。お互い今この場が最後かもしれないからな。通過者が2名ならまだしも、まさか最終ピリオドに関してそれはないだろう。この選別の儀が発足して以来、最終ピリオドにおいて勝ち抜け1名以外が出たことはない。それだけは確かだよ」
「私には、今更貴女と仲良しに興ずる道理はなくってよ。知っていて、この儀式において、著しく品格を落としているのは貴女方騎士教団だけ。1位も3位も、無様にピリオドを盛り下げたことを自覚してもらいたいわ」
「目立ちたがりのメーガスに対して、相変わらずマクガフィンは選民主義だな。まあいい。いつまでも魔女や賢者がでかい面をするのは騎士としてはつまらんからな、この後にそれを証明してやるよ」
「それはどうも。棒振りには、知策師の苦労はわからないでしょうね」
「『青』のロリババアの受け売りかい? そうやって杖振りだけの言葉を使うところが気に入らないね」
「それもどうも。舞台で見返したいのなら、そこで素振りでもしていればいいわ」
「相変わらずの減らず口だねぇ・・・・・・まあいいさ」
離れていくサラ=ブリリアント=クオランの後ろ姿にため息をこぼす。
最後を彩る場に立つのは、やはり全員が『華』として申し分ない実力者揃いである。どのピリオドに配属されていてもおかしくない。
その中で、騎士教団の名家が、それを歪にした。
本来、『魔法に関するスペシャリスト』を選出するための舞台であるのに、騎士に関する家柄がそれに紛れ込んでいる。
ナターシャ=マクガフィンの機嫌を悪くしているのは、マグライトに対してだけでなく、騎士教団そのものも大きく起因していた。
外の歓声が、最終ピリオドの始まりを示唆している。
王立聖家1位のナターシャの裡に、魔力の渦が蓄積していた。
――そして、最終ピリオドはいくつかの波乱と思惑を残した後に終結した。
アリーナに掲げられた数は――サラの目論見通りの『1』。
開始早々にして、やはりその舞台に残っていたのは、
王立聖家1位のナターシャ=マクガフィンと騎士教団2位のサラ=ブリリアント=クオランであった。




