05.THE CLOAK-MAN SHOW
『いいこと。ワタクシの魔法は、すべて先生にバレていますわ。もとより先生の技術が礎、そのどれもが先生にとっては旧世代の遺物でしかない』
前日のことを思い出す。マグライト自身が口にしていたように、先手は悉く対処され、ハンディキャップとしてマントの相手までさせられる。自身も戦闘に参加しながら、別の駒を操るなど、常軌を逸しているとしか思えないほどの手練。
軽快な踊りを続けているマントの存在に、レベッカの額に冷や汗が流れた。
実力あるものならば、詠唱を経ずともその魔法を発現が可能だが、アビゲイルの放つ『サンダーボルト』の詠唱は疎か、解号すら省略してあの威力、"色持ち"の実力は伊達ではない。
『先生のことだから、きっと勝利条件を出すはず。でなければ、このマッチはただの弱い者いじめの見せしめですわ。国王が催したのだからそれもありえそうですけど、タイミング的に国外の来賓も招致していたとしたら、落とし所がなければ成立しませんわ』
その読みは、恐ろしいほど的確であった。
国王のいる特別席の近くに、来賓席が並び、見慣れない顔が多い。亜人や多民族など、この国ではほとんど目にすることのない種族の面々であった。
なら、このエキシビジョンマッチは、彼らが鑑賞するためのもの。あくまで、これはショーとして体裁は保たなければならないはず。
その事実こそが、マグライトがアビゲイル=サマンサに付け入る唯一の活路であった。
「レベッカ、手筈通りに頼みますわね!」
そう言い残し、再びマグライトがアビゲイルへと駆ける。先程よりもさらに濃密に練り上げた魔力の鎧が蒸気を上げた。
「学を積めよ、マグライト。お前の魔法の全てを教授したワシに、脳筋では届かんぞ」
「やってみなければ、わかりませんわ!!」
「さて、私の相手はあなたなのね・・・・・・」
マグライトとアビゲイルが激しい衝突をしている傍ら、青いマントが相変わらず踊りながら、けれどゆっくりとレベッカの間合いに近寄っていた。
――わざわざマントに戦わせるってことは、やっぱり私に怪我をされると困るってことよね。
その思惑が意味するところは、レベッカが知るところではない。
「――『聖典潮流、聖青乱藍』――」
自身の肉体を覆う風属性の加護。実力が劣るのなら、機動力くらい上げなければ、――
「――『蝶舞鳥飛』――!」
詠唱と解号を持って、レベッカが前に出る。
手には先程展開した不可視の刃。瞬きの間に、青いマントに一太刀入れきれれば、勝負を決する事ができる。
――が、それでも相手は『青』の大魔女が操る存在。
「ぴゃんっ――!?」
乾いた音がアリーナに木霊した。その光景を見ていた観客から、わずかに笑い声が溢れる。
両者の間合いがゼロになった瞬間、刃の軌道をすり抜けたマントが、すれ違いざまにレベッカの臀部を力いっぱい引っ叩いた。
自ら駆けた速度に、尻を叩かれた衝撃も重なり顔から地面に突っ込む。
思いの外間抜けな姿となったレベッカに、緊張の糸がほぐれた観客から歓声が上がった。
その様子に、ご満悦という感情を表現するマント。レベッカの感情のボルテージが、一つ上がった瞬間だった。
「こンンンンンの腐れマント! あったまにきた! 八つ裂きにしてボロ雑巾にしてやろうかッ!!」
ひらひらと逃げ回るマントに対し、頭に血が昇ったレベッカが『断空のサソリ』を振り回しながら追いかける、なんとも幼稚な鬼ごっこが開催された。
「はははっ、なんとも間抜けな小娘がいたもんだ」
「まったくですな。だが、2人相手に余裕を崩さないとは、さすがは大魔女。感心致します」
貴賓席からにこやかな会話が零れる。これはこれで、レベッカの道化っぷりが外交の潤滑油になった様子に、国王はニンマリとしていた。




