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悪役令嬢が魔法少女?  作者: まきえ
悪役令嬢が魔法少女?今度はバトルアリーナでロワイアル?

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02.怒髪天を衝く


「この大馬鹿者共!!」


 聖都の中央に位置する宮殿に隣接された『王宮警峰軍(けいほうぐん)詰所(つめしょ)』にて、甲高い声が響き渡る。


「お前たちの喧嘩はもはや日常となり、それが民の娯楽になってるのは万歩譲って黙認するにしても、今日という日がわかっていての狼藉か!?」


 詰所の長官室にて、それぞれ椅子に座らされたマグライトとレベッカに、3段ほど高いところに設置されているテーブルの奥から叱責が飛ぶ。


 人の高さほどに積み上げられた書類の山で、姿こそ見えないが、イライラした声で延々と説教が続いた。


 肩を丸くして反省しているレベッカに対し、見えないからと壁のシミを探して退屈そうにしているマグライトの気配に気付いたのか、書類の山が崩れるほどの勢いでテーブルに昇る。


「おい、マグライト。あんまなめてるとまじぶっ飛ばすぞ」


 崩れた書類の山からわずかに顔だけ覗かせ、同じくわずかだけ見えた青いマントに魔力が宿る。


「怖いですわね、ちゃんと聞いていましてよ」

「説教されてるやつの態度か! 何のために折檻石に座らせてると思ってる!? お前たちのせいでこの国は大恥をかいたんだぞ!」


 魔力の流れを完全に抑制する特別性の『折檻石』に座らされて、なおかつ立てないように拘束されている両名だが、面前の人物の怒りが収まる様子はない。




 何を隠そう、その人物は『青』の位を継承した、王国を代表する大魔女の一角である。



「申し訳ございません、アビゲイル様。罰なら何なりと」

「罰云々の話ではない! 懲罰がほしいなら火炙りにでもしてやりたいくらいだ! マグライトが王立聖家で、お前が予選通過者であることを幸運に思え!」


 まったくも―だよ、まったくも―とぶつくさと付け加えながら、テーブルから降り、レベッカとマグライトの前まで移動する。


 アビゲイルと呼ばれた『青』の大魔女が2人の目の前まで来たが、そこに立っているのは大人用の青いマントを引きずった幼女であった。


「そんな見た目で物騒なことを言わないでくださる、アビー先生。全く、子供って残酷ですわね」

「お前、まじぶっ飛ばされたいのか。いつまで壁のシミを数えてやがる、ワシの部屋にシミなんて一つもないぞ」

「ホントですわね。おかげで退屈が2乗ですわ」

「わかった。丸焦げにしてやる」



「ちょ、長官! 国王がお呼びです!」


 長官室の扉を慌てて開けた執事の参入によって、瞬間的にマグライトの周囲に展開された魔法陣が光の粒子となって四散する。怒りの矛先を奪われた青マントの幼女が地団駄を踏み、足早に部屋を後にした。


「ふぅ。タイミングが良かったですわね」

「あ、あんた、アビゲイル様まじで焼こうとしてたわよ・・・・・・」

「あんなの序の口よ。むしろ、焼いてくれたほうが拘束が解けて、帰れると思ったのに」


 アビゲイルが遠のいたためか、2人を拘束していた術式が消え、マグライトが席を立ち、レベッカも後を追うようにして部屋を出た。


 王宮警峰軍詰所の長い廊下を歩きながら、王国の中枢機関である場所ながら、かっちりとした格好をした人たちが足早に仕事をしている様子を眺めていたレベッカであったが、その誰もがこちらに目線を向けたときに、眉間にシワが寄っていることに気付いた。


 その多くが、自分にではなく、隣で甘ったるい臭いを撒き散らしながらも堂々と歩いている令嬢に対してのもの。本人はそれに気付いているのか、それともあえて無視を決め込んでいるのかは、ピリついたこの場で問い詰めるほど、レベッカも愚かではない。


 息が詰まるほどの緊張感が漂う空間から、1秒でも早く退散したいという気持ちでいっぱいだったが、曲がり角に差し掛かったときに、それは息が止まるほどのものに昇華された。


 向こう側から歩いてくる存在に、マグライトも、その相手も、目線を合わせることなくすれ違い、遅れて歩いているレベッカにだけは、一瞬だけだが視線を合わせ、合図も会話もなく通り過ぎていった。


 鏡合わせのように、けれど若干の年齢差に気付くくらいの無表情の顔は、やはり2人が双子の姉妹であることを主張している。


「あなた、いつまで息を止めているの。いい加減力を抜きなさいな」

「・・・・・・ふぇ」


 マグライトの言葉と同時に、口から間抜けな音が漏れた。けれど、その言葉の後押しがなければ、あまりの緊張でレベッカは自ら窒息で倒れていただろう。


「そろそろ慣れなさい。あっちも、あなたと顔を合わすたびに気が滅入るってものよ。まあ、ワタクシはそれでもいいけれど」


 憎まれ口をしながらだが、いつも自身に満ち溢れている態度を崩さないマグライトでも、赤いマントを着た大魔女と対峙するときだけは、全身に魔力を施していた。一種の本能として、間合いが離れるまで、臨戦態勢を崩さないほどに。



「ここはいつも暑苦しいですわね。早く『寄宿城』に戻って紅茶でも飲みたいですわ。

 その前に、あなたのせいでバターミルクコーヒー臭いのだから、あなたがワタクシの背中を流しなさいよ」

「イヤよ。あんたと一緒の風呂だなんて、どさくさ紛れに全身(まさぐ)られたくないもの」

「なによ、減るものじゃあるまいし。良い身体の女として生まれたのだから、ご両親に感謝することね」

「人前でセクハラまがいなこというのをやめなさいよ!」


 後ろから刺される視線にヒヤヒヤしているレベッカの心配を他所に、気付けばいつも通りのマグライトへと戻っていた。




「やれやれ。こんな顔では、レベッカに嫌われてしまうな」


 マグライトとレベッカとすれ違った『赤』の大魔女が、ガラスに映った自身の表情の鋭さに肩をすくめる。


 『瞬獄』のホムラ。ホムライト=ドグライト=メーガスは、肩の力を抜くようにして、地下牢へと続く階段を降りていく。


 暗闇を充満するほどの瘴気に、抜いた力が刹那で戻ってきていた。




「――聞いたわよ。あなたたち、また街中でケンカして連行されたそうじゃない」


 バターミルクコーヒーで汚れた身体を風呂で洗い流し、不本意ではあるが自室を綺麗に片付けてくれたマリアーノとレントの手前、マグライトと円卓を囲んでいるレベッカのもとに、左眼に眼帯を装着した令嬢が訪問した。


 マグライトと同じ王立聖家で、序列5番目の家柄の大貴族であるセル=M=シシカーダが、お気に入りの紅茶葉を手土産にして、白昼堂々行われた2人の騒動を特等席で鑑賞する算段であった。


「立ち話もなんですから座りなさいな。なんなら上座でもよろしくてよ」

「私の部屋なのに、なんであんたが主面(あるじずら)なのよ・・・・・・」

「だってワタクシ、パトロンですもの」

「はいはい。お邪魔するわね、レベッカ。マリア、わたしの紅茶はこれでお願いね」

「かしこまりました、セル様」

「私の部屋なのに・・・・・・」


 家主を放置した、紅茶を囲んだいつもどおりのお茶会が開かれた。



「――それはアビー先生、激怒するわね。よりによって()()ですもの」




 セルが言う『今日』というのは、――国王が治めるこの『聖グレイトウェルシュ王国』の首都である聖都クーゲルスでは、周辺国の長が集結してのサミットが開催されていた。


 国際的に政治的・経済的な重要な会議をする場であり、なにか問題が起こっては、国王の顔に泥を塗る事になる。


 テロ行為などが発生していては、国の威厳に関わる。それがあったからこそ、王宮警峰軍は最大限の警戒態勢を取っており、その中で起きた2人の騒動を放置するわけにはいかなかった。




 レベッカがマグライトにバターミルクコーヒーをブッかけて一泡吹かせた後、馬車から降りて取っ組み合いのケンカになりかけたところで、『青』の大魔女であるアビゲイル=サマンサが即座に2人を拘束、連行したが、それを楽しみにしていた民衆の不満の声が思いの外大きく、国王の元まで声が届き、サミット中に一騒動あったということらしい。


 警備関係の最高責任者であるアビゲイルは、そのことで大量の処理を強いられることとなり、今現在休む暇もなくバタついている状態だ。


 当事者2人は、アビゲイルの苦労を知ることなく紅茶を啜っている。


「子供先生も大変ね。ワタクシ、出世してもああはなりたくないですわ」

「誰のせいでアビー先生が苦労していると思っているのよ。あと、その子供先生ってのやめたほうがいいわよ。ブチ切れるから」

「・・・・・・クセって怖いわね。前に一回、髪を焼かれましたわ」

「アビゲイル様、あんたのこと絶対嫌いよ」

「同感だわ。前に胃に穴が開きかけたって怒っていたわよ」

「執務ならまだしも、内臓のことはワタクシの管轄外ですわ。そこはお医者様に言いなさいな。マリア、もう一杯お願い」


 悪びれる様子もなく紅茶のおかわりを要求するマグライトに呆れるレベッカとセルであった。



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