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悪役令嬢が魔法少女?  作者: まきえ
悪役令嬢が魔法少女?今度はバトルアリーナでロワイアル?

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24/70

01.限界突破☆逃走中


 ――第1予選第5ピリオドを終え、およそ半年の時間が過ぎたある日。




「っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっもうムリ!」


 『寄宿城』の自室にて、一人の少女が憤慨した。


 泥だらけで、ボロボロのマントを投げ捨て、ベッドの下に収納していたカバンを引っ張り出し、空っぽの中身を詰めていく。


 レベッカ=クワッガー=エーデルフェルト=ボガード。聖都における『第一級国家魔法少女選別の儀』において、第一の予選を突破した少女であり、鬼のような悪女の策略にハマった悲しき元・悪役令嬢その人である。


 生家のあるゲーナインまで徒歩で戻ろうものなら数ヶ月かかるかもしれないが、日々聖都クーゲルスでの地獄の苦痛に比べれば大したことはない、と割り切るほどの謎の覚悟を決めていた。





「あっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっんのタヌキ娘!」


 レベッカが『寄宿城』から抜け出した数十分後、もぬけの殻となったレベッカの自室で罵声を吐く女性がいた。


「マグライト様、レベッカ様が置き手紙をしているようです」


 倒れたサイドテーブルの天板に直接彫り込まれた文字を眺めて、冷静な声で諭したのは、王立聖家2位のマグライト=ドグライト=メーガスの筆頭メイドであるマリアーノ=ラ=ピュセルだった。


「はわわわわわ。お部屋がメチャクチャ!? どうしよう。レベッカ様どこにいったの!?」


 その傍らで明らかにテンパっているのは、先日マグライトから(人さらい並に)直々にメイドに任命されたレント=ソイズ。レベッカの部屋の荒れ具合に目を回していた。





「レント、この部屋綺麗にしてて。マリア、すぐに馬の用意をしなさい」


「は、はいぃいいい」

「マグライト様、置き手紙は読まなくてもよろしいのですか?」


「必要ないわ。わざわざご丁寧に方言文字で書くなんて、時間稼ぎもいいところ。それに、こんなときに書く言葉だなんて『探さないでください』か『(くに)に帰らせてもらいます』と相場が決まっていましてよ!」


 レベッカの思惑も空振りに、マグライトの予想通りにゲーナインの方言文字を使ったメッセージにはこう書かれていた。




『探さないでください。あとクタバレマグライト』




 王立聖家2位の推理力もまずまずといったところである。




 聖都を脱するためにどうするか、大城門も近くで思案していたレベッカが一時の休息をとっていた。


「レベッカ様、うちのサンドイッチはどうだい? たまにはフランクな物も恋しいだろう」


「やあやあレベッカ様、あんたのおかげでうちは大儲けだよ。次の予選も期待しているよ」


「おやレベッカ様、今日は珍しくお一人なのですね。どうです、うちのパプで一杯」


 聖都の中央大通りを歩くだけで、多くの住人に声をかけられる。数ヶ月前、マグライトとの大立ち回りから始まり、大番狂わせの予選突破と、今となっては聖都においてレベッカのことを知らぬものはいないほどの有名人になっていた。


 地方出身の貴族令嬢は、一般市民のアイドル的な立ち位置となり、悪役令嬢として故郷で過ごしていたレベッカも、今ではすっかり丸くなっていた。



「そうね。最後の晩餐じゃないけど、バターミルクコーヒーでもいただこうかしら」

「最後の?」

「なんでも無いわ、こっちのことよ。それよりも、バターミルクコーヒーを頂戴な」


 行きつけのパブへと足を向ける。店内は昼過ぎだというのに若い女性でごった返しの賑わいを見せていた。


 高カロリーかつ満腹中枢を長時間ハックする夢のエネルギー飲料が最近ドハマリしてるレベッカに、注文してすぐに特大グラスに注がれたバターミルクコーヒーが出される。


「さ、流石に多すぎ・・・・・・」

「大きさはサービスでございます。残されるのなら、ボトルに詰めますので大丈夫ですよ。レベッカ様がご贔屓にしてくれるおかげで、うちのパブはすっかりカフェになりましたので」



 辺りを見渡せば、聖都の若い女性たちがグラスに入ったバターミルクコーヒーを愛飲し、話に花を咲かせていた。


 本来、位の高い令嬢が寄り付かないような店ではあったが、この店内だけは爵位持ちも一般市民も皆肩を並べてグラスを並べている。


「まあ、繁盛しているのなら良いことね。早速で悪いけど、半分はボトルに移してもらえるかしら」

「かしこまりました、少々お待ちを」


 オーナーの女性に一旦グラスを返し、外の様子を眺める。未だ、喧騒は聴こえて来ない。どうやら時間稼ぎはうまくいったのだろうと安堵した。




 ――のは、一時の気休めに過ぎなかった。





「レベッカ様、ボトルの用意ができましたよ」

「ありが――」




「レベッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッカァアアアアアアッ!」





 中央大通りの先から、ありえない声量とともに、騒がしい馬の足音が鳴り響く。


 慌てて外を見れば、『寄宿城』の方向から大きな土煙をあげ、異様な影が浮かび上がった。


「ゲ、動くのが早すぎる。ごめん、ボトルだけ貰うわ。代金はメーガスにツケてて」


 たっぷりとバターミルクコーヒーが注がれたボトルを手に外に出る。


 土煙の影が、次第に実像へと変貌していた。



「し、信じらんない。あいつ、ホントに貴族なの!?」


 レベッカが驚愕するのも無理はない。


 チャリオット用の巨大な馬を4頭も使って有蓋馬車を引かせ、その屋根に仁王立ちで君臨し、中央大通りを爆走する姿。


 向かい風に金色の長い髪とドレスの裾を靡かせ、腕を組み、彫刻のように胸を張っている。


「見つけましてよ!!」


 行き過ぎてでも、まったくの恥を見せないその姿は、もはや一種の曲芸であり、その高い視点を活かし、遠く離れたレベッカの姿を視認していた。


「こンの恩知らずのタヌキ娘、ごめんなさいと言うまで許しませんわっ!」


「子供扱いするんじゃないわよっ!」


 急いでカバンを持ち上げ、全速力で駆ける。


 けれど、人の足では、どうあがいても馬の脚力には敵わない。騒動を聞きつけた群衆は誰もがそう思っていた。




「――『聖典潮流(せいてんちょうりゅう)聖青乱藍(せいせいらんらん)』――」



 レベッカの足元に空気の明らかな異変が起こる。


 ブーツの周囲を覆う空気の渦が、彼女の身体を軽くした。


「――『蝶舞鳥飛(ちょうぶちょうび)』――!」


 レベッカが人間離れした跳躍で、野次馬の頭上を軽々と飛び越え、風属性の加護が、マグライトとの距離をわずかに離す。


 魔法少女としての素質を、あの凄惨な予選で開花させたレベッカが、覚えたての魔法の一つとして、自身の肉体を風に舞う蝶のようにして、超速で飛び立つ鳥のように躍動した。





「逃がしませんわッ!」


 それを感じ取ったマグライトが、人目をはばからずに、――眩い光に包まれたかと思うと、魔法少女としてドレスアップを完了させた。


 全身にフィットし、ボディラインを露わにしたレザースーツ調の礼装が革独特の質感を光に写し、太陽の光を反射させた鉄靴が馬車の天井で力を込める。風になびいていた金髪の縦ロールを頭の上で結わえたことで、馬の尻尾のように激しく揺れていた。




「――『逆式(ぎゃくしき)逆縛(ぎゃくばく)逆襲者(リベンジャー)怨讐(おんしゅう)(かぜ)(さか)()きパテマよ(そら)()ちよ』――」




「はっ!? バカなの!? 街中でなにやってんのよ!」


 レベッカに緊張が走る。そして、周囲にもたらされるであろうとばっちりの被害を想像し、荷物も放り投げて踵を返し、速度はそのままにマグライトへと突進する。



 ――その時、遠目ながらもマグライトの表情をみたレベッカは、自らの判断を誤ったと後悔した。




「――かかりましたわね、このお人好しちゃん!」




「ちっ――!」


 意地の悪いマグライトの笑みが、こちらの行動を読んだものと把握してからは、もうどう行動しても後手に回る。彼女の施した詠唱が、自らを誘い出すためのフェイクであり、近付いたことで、マグライトへのマナの流動がなく、ドレスアップまでしたわりに、そもそも魔法を使う気がなかった。


 すでに起こった失策を嘆き、それでもマグライトへ一泡吹かそうと、懐に手を伸ばす。


 その行動を見たマグライトから、余裕を孕んでいた笑みが消えた。





「――(やいば)()てろ、」


 


 新調していたドレスとマントだが、背に腹は代えられない。一発ギャフンと言わせないと、レベッカ自身の気が晴れない。


 馬の足は減速する兆しはない。レベッカがあと一歩踏み出せば、両者の移動速度から確実に衝突する。マグライトの方もそれを感じ取り、一瞬遅れたが臨戦態勢を取り、全身を駆ける魔力が熱を帯びた。




 そして、そのわずか一秒後。




 マグライトの頭上に、スモーキーながら炒ったナッツのような複雑な香りを甘ったるくもエネルギッシュなシナモン色した雨が降り出した。


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