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4月4日 ディープオーキッドピンク

4月4日

ディープオーキッドピンク

Deep Orchid Pink

#E383A4


R:227 G:131 B:164

4月4日 ディープオーキッドピンク

*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*


蘭という花は、なんというか、俺にとっては気味の悪い存在であった。

母方の祖父がどういうわけか、この花に取り憑かれてしまっていて、温室まで作って育てていたので、幼い頃から見慣れてはいたのだが、他の、例えば蒲公英や朝顔、向日葵といった花が明るく健康的なイメージであるのに対し、不健康で暗い感じのする花だった。

あるいは、春になると一斉に咲き、そして散っていってしまう桜のような儚さ、可憐な様子も、蘭という花には感じることができなかった。

ひたすら不気味で、触ると毒なのではないかとすら感じさせる花だった。


それの正体が何であるのか?

俺は長いこと理解することができなかった。


蘭という植物は、菌類に依存して生きているらしい。

菌根を形成し、必要な有機物を菌類から得て生活し、ほとんど光合成を行わないものさえあるらしい。

つまりは広義の意味での寄生植物なのだ。


そして、その花は、異常なまでに妖艶である。

受粉をしてくれる虫を誘い込むために進化し続けた、なれの果てがあの花なのだ。


蘭の花がどうにも好きになれない理由が、おそらくは、早くに亡くなった母方の祖母にあることを、薄々は気付いていた。母は、祖母の話をほとんどしたことがなかった。良い思い出がなかったのだ。

そして祖母が亡くなってからも、その面影を蘭の花に見出し、他の全てのことから目を背けていた祖父。

父が事故で亡くなり、俺と母とが二人きりになった時にも、祖父は蘭の花の方が大事なようだった。

母は孤独だったのだ。


しかし、母は蘭の花を嫌ってはいなかった。

祖父が亡くなった後、温室に残された鉢を引き継いだのは、他ならぬ母だった。

母は、蘭の世話を楽しんでいるようだった。

紫を帯びた艶めかしいピンク色の花が開くと、うっとりとした顔で、それらを眺めていた。


俺は、複雑な思いで、それを見ていた。


別れた妻が、自由になりたかったと言い、そして出ていった時、本棚にオキーフの画集が数冊並べられていたことに、はじめて気が付いた。

オキーフの蘭の花の絵を見て、俺は眩暈を覚えたのだった。


きっと、ずっと、理解できていなかったのだろう。

そして今だって、俺は理解できないのだ。

挿絵(By みてみん)

写真は、蘭の花。


観賞用に栽培される蘭の花ような、紫色がかったピンク色。


オキーフの花の絵は、とても官能的なのですよね。

ちょっと、刺激が強い気もします。

でも、虫さんをお誘いしているわけなので……。結局、本質を描いた絵なのです。

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