4月4日 ディープオーキッドピンク
4月4日
ディープオーキッドピンク
Deep Orchid Pink
#E383A4
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4月4日 ディープオーキッドピンク
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蘭という花は、なんというか、俺にとっては気味の悪い存在であった。
母方の祖父がどういうわけか、この花に取り憑かれてしまっていて、温室まで作って育てていたので、幼い頃から見慣れてはいたのだが、他の、例えば蒲公英や朝顔、向日葵といった花が明るく健康的なイメージであるのに対し、不健康で暗い感じのする花だった。
あるいは、春になると一斉に咲き、そして散っていってしまう桜のような儚さ、可憐な様子も、蘭という花には感じることができなかった。
ひたすら不気味で、触ると毒なのではないかとすら感じさせる花だった。
それの正体が何であるのか?
俺は長いこと理解することができなかった。
蘭という植物は、菌類に依存して生きているらしい。
菌根を形成し、必要な有機物を菌類から得て生活し、ほとんど光合成を行わないものさえあるらしい。
つまりは広義の意味での寄生植物なのだ。
そして、その花は、異常なまでに妖艶である。
受粉をしてくれる虫を誘い込むために進化し続けた、なれの果てがあの花なのだ。
蘭の花がどうにも好きになれない理由が、おそらくは、早くに亡くなった母方の祖母にあることを、薄々は気付いていた。母は、祖母の話をほとんどしたことがなかった。良い思い出がなかったのだ。
そして祖母が亡くなってからも、その面影を蘭の花に見出し、他の全てのことから目を背けていた祖父。
父が事故で亡くなり、俺と母とが二人きりになった時にも、祖父は蘭の花の方が大事なようだった。
母は孤独だったのだ。
しかし、母は蘭の花を嫌ってはいなかった。
祖父が亡くなった後、温室に残された鉢を引き継いだのは、他ならぬ母だった。
母は、蘭の世話を楽しんでいるようだった。
紫を帯びた艶めかしいピンク色の花が開くと、うっとりとした顔で、それらを眺めていた。
俺は、複雑な思いで、それを見ていた。
別れた妻が、自由になりたかったと言い、そして出ていった時、本棚にオキーフの画集が数冊並べられていたことに、はじめて気が付いた。
オキーフの蘭の花の絵を見て、俺は眩暈を覚えたのだった。
きっと、ずっと、理解できていなかったのだろう。
そして今だって、俺は理解できないのだ。
写真は、蘭の花。
観賞用に栽培される蘭の花ような、紫色がかったピンク色。
オキーフの花の絵は、とても官能的なのですよね。
ちょっと、刺激が強い気もします。
でも、虫さんをお誘いしているわけなので……。結局、本質を描いた絵なのです。