2月14日 海松色
2月14日
海松色
みるいろ
#726D40
R:114 G:109 B:64
2月14日 海松色
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海の中にも松が生える。
浅瀬の岩や小石の上に育つのだ。
手触りはぐにゃんとスポンジみたい。
うどんくらいの太さの枝が、末広がりに伸びて、まるで松の木のような形をしている。
古くから親しまれた海藻で、海松紋と呼ばれる意匠もある。
平安時代には貴族の衣装にも使われていた。
熊本県天草で採れる天草陶石を使用した高浜焼という磁器があるが、江戸時代中期頃に作られたものに、海松紋を描いたものが見つかっている。
写真は、海松。
そして、海松のイラストも。
黒色がかった黄緑色。
宮内庁雅楽部に所属する楽人の衣装は普通この海松色の直垂なのだそうです。
探したのですが、やっぱりフリー素材ではちょうどの写真が見つかりませんでした。残念。
◇◇◇
私は場の雰囲気に呑まれ、すっかり緊張してしまった。
話は2週間ほど前に遡るのだが、夕方5時となり、帰り支度をしにロッカー室へ向かう廊下で、あの道庭さんから呼びとめられたのだ。
「あの、2週間後の金曜日なんだけど、夕方から予定空いてない?」
突然のことに、どぎまぎしながらも、道庭さんから声をかけていただけるなんて、こんなラッキーなことはない。
私はすぐに、手帳を取り出した。
「大丈夫です。まったく、何にも無いです。空っぽです。」
すると道庭さんは、にっこりと微笑み(キャー♪)、言ったのだった。
「観月祭のチケットを頂いたのだけど、一緒に行ってくれる人が見つからなくて困ってたんだ。助けると思って一緒に行ってくれないかなぁ? 今度、美味しいケーキを奢るから。頼むよ。」
!
ラッキー過ぎる!
「是非! 美味しいケーキですね! 奢っていただきます!」
「いや、そっち? そうじゃなくて、観月祭の方をお願いしてるんだけど。」
「もちろんです。ところで、観月祭って何ですか?」
そう、私は、恥ずかしいことに、観月祭が何なのか分からなかったのだ。
そして、ここに至るわけである。
一応、道庭さんから簡単な説明は、してもらってはいたのだが、なんだか上品そうなおば様・おじ様方が大勢、高そうな和服などをお召しになって集まっておられるのだ。
私だって、今日は、そこそこの服を選んできたつもりではあったけれど、これでは、完全に場違いではないだろうか?
隣の道庭さんは、スーツ姿で、会社にいる時と変わりはないのだが、私だけ、なんだか浮いている気がしてならない。
「緊張してる? 大丈夫だから。」
道庭さんが察してくれたのか、声をかけてくれた。
私たちは、石畳の上に並べられた椅子に並んで座った。
観客席のすぐ隣には、立派な屋根のある木造の東屋があって、雅楽の楽器とその演奏者たちがずらっと並んで座っていた。平安時代みたいな衣装を着ている。
私が、雅楽の人達の方をちらちらと見ていると、道庭さんがちょんちょんとつついてきた。
「雅楽、興味あるの?」
「えっと、あまり間近で見たことがなかったので、平安時代みたいだなぁって……。」
恥ずかしい限りだ。
やがて、日も落ちて辺りはすっかり暗くなり、東屋などの建物の灯りのみとなった。
さっきまでざわざわとしていた会場全体がしん、と静かになったと思ったら、雅楽の演奏が始まった。
それは、不思議な響きだった。
後書き内の写真は、観月会の会場。