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2月12日 カーミン

2月12日

カーミン

Carmine

#D5345E


R:213 G:52 B:94

2月12日 カーミン

*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*


ここは、官庁街から一本通りを隔てた区域。

意外に人通りが少ないように見えるのは、ここが特殊な力によって、特定の者にしか侵入できない障壁を備えているからなのである。

その特定の者の1人であるカーミン。彼女は、一軒の喫茶店を構えていた。

その喫茶店は、実は譲られたものである。実際、カーミンが生まれるよりずっと前からそこに建っていた。


カーミンに喫茶店を譲ったのは、幕末のころのどさくさに紛れて渡航し、そのまま居ついてしまった人狼だった。長くその喫茶店でマスターとして、来店するあやかしたちに極上の紅茶、伝説のロイヤルミルクティーを提供し続けてきたのだったが、故国に残してきた家族からの催促に遂に折れ、帰国することになった。

それが、半年前のことである。

人狼は、喫茶店を畳むつもりでいた。

店には一方ならぬ思い入れがあった。

あの物資がほとんどなくなり、空襲であちこちが焼け野原となってしまった時代にさえ、極秘のルートを駆使して、わざわざ一杯のロイヤルミルクティーのみを求めて来店した客に、最上級の笑顔と共に変わらぬ味を提供したりもしたのだ。


しかし、店に思い入れがあったのは、店主であった人狼の方ばかりではなかった。

客として通った者たち側にも思い入れがあったのだ。

どうにか、店を残して欲しい。そういう要望が日に日に集まり、遂に、人狼とも親しくしていた吸血鬼一族の少女カーミンに白羽の矢が立った。

カーミンは、それから人狼が故国である英国に戻る日まで一日も休むことなく通い続け、ロイヤルミルクティーの淹れ方から、長年提供し続けられた手作りケーキの作り方、食器の手入れに、店に飾られる花、仕入れについてなどなど、喫茶店経営に必要なノウハウを学んだのだった。


最後の日、人狼は、カーミンに真新しいエプロンを数枚贈った。

カーミンは、今、それを身に付けて、店に立っているのだ。

カーミンの得意は、手作りケーキだった。

長年提供されてきたケーキはドライフルーツたっぷりのパウンドケーキと、紅茶のシフォンケーキの2種だったが、カーミンは人狼の許可を得て、真っ赤なフランボワーズケーキと、これまた真っ赤なイチゴのケーキを追加した。

赤い色が好きなのである。

挿絵(By みてみん)

写真は、イチゴ。


わずかに紫がかった赤色。

カーマイン、カーミンレッド、カーミンロートとも表記する。

コチニール(カルミン酸)色素を不溶化(レーキ化)させた顔料の色。

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― 新着の感想 ―
[一言]  酢酸カーミン溶液と言う染料がありまして、私は理系のためカーミンと言えばそれでした。  読んで自分の世界が広がったように感じています、私の世界観を広げてくれる作品をありがとうございます。
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