12月25日 茄子紺
12月25日
茄子紺
なすこん
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12月25日 茄子紺
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「あれ、茄子、食べられるようになったんだ。」
唐突に、そう言われて、多恵の手は止まった。そこにいたのは、高校時代にクラスメートだった小林。なぜ、こんな場所にいるのだろう?
「久しぶり。今度、こっちで働くことになったんだ。知ってる顔がいて、助かった。」
多恵は知らなかったが、小林は、地元の方で現地採用されていたらしい。これまでは、中部地区担当の営業職だったが、1週間ほど前に、本社への転勤が決まったという。実際に出社するのは来月からではあるのだが、手続き等の関係で挨拶に行ったら、親睦会への参加が決まってしまった、と。
「松浦さん? あの人ちょっと強引で、びっくりだよ。いきなり、この後の親睦会に出席しろって言い出してさ。」
小林は、松浦副部長の方をチラ見しつつ、声を潜めて言った。
「つまり、来月から営業3課に?」
「そういうこと。一つよろしくお願いします。本社の先輩。」
小林は、高校時代から、調子のよいところがあった。人当たりが良く、男女問わず友人も多かったはずだ。多恵とは正反対のタイプである。多恵の方は、教室の隅でひっそりと過ごして、授業が終われば、とっとと帰宅していた。別にいじめの対象になっていたわけでもないが、特に仲の良い友人もいなかった。
ちなみに、多恵が本社に採用になったのは、コネである。幼い頃からかわいがってくれていた大叔母が、役員を務めていたのだ。
「それ、旨い?」
小林は、多恵の食べていた茄子田楽を指差した。
「まあ、普通の茄子田楽ね。とびっきりというわけでもなく、普通の。」
多恵は、他に言いようがなかったため、そう答えた。
小林は、「ん、じゃ、いっこ貰う。」と言って、ひょいと皿の上から味噌の乗った茄子を箸でさらって自分の取り皿に着地させた。器用に箸で、小さく割くと、そのまま一片を口にする。
「ああ、本当に普通だな。普通の茄子田楽だね、これ。」
そう言いつつ、続けざまに小片を口に運んでいった。
「茄子が苦手だったなんて、何で知ってるの?」
多恵は、ふと気になって訊ねる。
「何だ、覚えてないのか? はあ、そんなもんか。」
小林は、溜息をついた。そこから話は繋がらなかった。多恵は、思い返してみても、なぜ小林がそのことを知っていたのか、まったく分からず、そして、小林が種明かしをしてはくれなかったため、もやもやとした感じだけが残ることになった。
「確かに苦手だったのよね。ふにゃっとした食感も、この紫色自体も嫌っていうか……。」
いつ頃から平気になったのだっけ? 多恵は考えてみても、明確な答えは出てきそうになかった。
写真は、長茄子。
ナスの実の色のような暗い紫色。
紺というより、紫色なのですね。
茄子は、油と相性がいいですから、炒め物とかもいいですよね。
あのふにゃっとした食感が苦手な人はいるようです。実は、猫も、子どもの頃は苦手でした。




