12月1日 亜麻色
12月1日
亜麻色
あまいろ
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R:214 G:198 B:175
12月1日 亜麻色
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「すみません。包帯を買いに来たのですが。」
ドラッグストアのバイトを始めて、数週間が経った頃、その客から声をかけられた。
なんか、臭う。
俺は、その時、棚の整理をしていたのだが、客の方から漂ってくるなんとも言えないすえた臭いに、正直、振り返るのを躊躇した。
しかし、客は客だ。そして、さっさと目的の物を購入してもらって、店外へ出てもらった方がいい。
そう判断した俺は、マスクの鼻抑えの部分を隙間が無いように押さえなおしてから、振り返った。
こっちの表情は、マスクのお陰で分かりにくいはずだ。
実際、客の方も、特に気にしている様子も見せなかった。
と言うよりも、見えなかったのだ。
客の顔は、汚れた包帯でぐるぐる巻きだった。顔だけではない、おそらくコートの下は包帯で巻かれているのだろう。緩んで垂れ下がり、足元に引きずられた包帯の残骸らしきものが見える。
「こちらが包帯の棚です。」
俺は、余計なことは言うまいと、慌てて客を案内した。
こりゃ、消臭剤が要るな。幸いというか、店内には消臭剤は売るほどある。まあ、商品なんだが。
「これだけですか?」
客は、そう言った。
「はい、これで全部です。」
俺は、そう答えた。バックヤードには在庫があるはずだが、種類的には棚に並んでいるのが全商品だ。嘘は言っていない。
「どれもこれも薄くて、心許ないなあ。もう少し厚みがあって、なんだったらゴワっとしたような質感のものは無いですか?」
客の好みは変わっていた。そんな包帯、巻きにくくないか?
「すみませんが、そういった商品は扱っておりませんので。」
俺は、マニュアル通りの謝罪の言葉を口にした。
「やっぱり無いか。リンネルの包帯なんて今どき作られてないのかなあ。」
客は、そう言って、棚にあった包帯を全部買っていったのだった。
写真は、亜麻布。
亜麻の茎から採った繊維のような淡い褐色。
最初はドビュッシーでいこうと思ったのですが、さっぱり言葉が出てこず、ミイラ男になってしまいました(酷)。
エジプトのミイラに巻かれた布は、亜麻の繊維で織られたリンネルだったようです。
「亜麻色」と言えば髪、そしてドビュッシー。
『亜麻色の髪の乙女』は、ルコント・ド・リールという詩人の詩から取られた題。
ただ、色素の薄い金髪の色を亜麻にたとえたのは、チャールズ=ディケンズの方が先だったみたい。




