9月10日 鉄紺
9月10日
鉄紺
てつこん
#17184B
R:23 G:24 B:75
9月10日 鉄紺
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からからから、ばたん。
引き戸を開けると、軽い音がした。
そして、深い濃い紺色に染め上げられた暖簾を軽く持ち上げて店内へと入る。
「いらっしゃい!」
カウンターの向こうから、大将の声がかかる。
今日は、なんだか機嫌が良さそうだ。
私のお腹もすっかり空いてしまっていた。
中の虫が元気よく鳴いた。
素早く、カウンター席に腰かけると、女将さんが、おしぼりを手渡してくれた。
受け取って、手を拭きながら、今日は何をいただこうか、考えを巡らす。
「今日のお勧めは何ですか?」
大将に訊くと、今日仕入れてきたのだろう魚の名前を挙げてくれたが、正直、まったく聞いたことのない名前だ。
まぁ、ここならハズレは無いはずだ。
「お任せでいいですか? 焼き魚が食べたいんですが、いけますかね?」
すると大将は、満足そうな顔をして言った。
「あたりめぇだ。こいつは美味いよ。少し待ちな!」
私は、失敗しなかったようだ。ちょっとだけ、ホッとした。
写真は、居酒屋のメニューが書かれた紺の暖簾。
わずかに緑を帯びた暗い青色。
藍染は染めるほど紫色を帯びることがあり、それを「茄子紺」または「紫紺」と呼びましたが、紫の少ない藍を、特に区別して、「鉄紺」と読んだようです。
暖簾。
平安時代末期には既に存在していたと考えられているようです。
暖簾の色使いに関して、昔はある程度業種によって約束事があったそうです。
手堅さを重んじるような商家は紺色や藍色、また、藍の香りによる虫除け効果で、酒造業や呉服商も多くが藍色を使用したそうです。
菓子屋や薬屋は白色。
昔は砂糖は高級品だったため、その砂糖をイメージさせる白が使われたそうです。
また、薬としても砂糖は使われていたため、薬屋も白だったようです。
柿色とは、「かちん染め」と呼ばれる技術から生まれる赤茶色。
遊女の最高位の太夫がいる店や太夫を招くことのできる揚屋(高級料亭)だけに許された色だったそうです。
江戸時代、茶色の暖簾は煙草屋に掛けられていました。
また、紫色の暖簾というものもあったとか。
これ、「金融機関から借金してます」の意味。江戸時代には、完済するまで、紫色の暖簾を架けておく暗黙の決まりがあったそうです。