6月8日 オリーブドラブ
6月8日
オリーブドラブ
Olive Drab
#665A1A
R:102 G:90 B:26
6月8日 オリーブドラブ
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「あれ、ヤッちん?」
祭日の午後、出かけた繁華街で、私は高校の美術教師を見かけた。
仮にも教師ということで、高校の校舎内で見かける時は、ワイシャツにネクタイという格好であり、授業中は汚れを防ぐためにかデニム地のエプロンをその上から着けている。
しかし、祭日のヤッちんは、オリーブドラブの薄いセーター、紺のありふれたジーンズというラフな格好だった。
幼稚園から大学まで揃った私立校で、しかしながら愛校心に溢れるOBが多額の寄付をしてくれているらしく、授業料は私立にしてはお得ということから、経済事情的にも普通のサラリーマン家庭の私のような生徒も少なくはない我が校においても、ヤッちんはその普通っぽさが際立っていた。
高校に上がる頃までには、それなりにお金の掛かった生地というものが、私たち庶民グループの着ている制服の布地とは違うことを理解できるようになっていた。同じデザインの制服を着ていても、やはり裕福な家の子の制服は仕立てが違うのだ。
そして教師たちも、やはり、着ているスーツは、それなりのものを選んでいるのだったが、ヤッちんのそれは、国道沿いの大型紳士服屋の3点いくらの既製服と明らかに分かるものだった。
ヤッちんは、非常勤という立場で、なおかつ、ちょっと微妙な雰囲気の漂う人物だった。
ヤッちんは、生徒に見つかったとも気付かない様子で、雑居ビルの階段を上へと昇っていった。
私は、見失わないように、急いで跡を付けた。
下の階から、雑居ビルの3階の店舗に入っていくのを確認し、なるべく音を立てないように注意しながら階段を昇った。
そこは、プラモデル屋だった。
明らかに場違いな客であろう私は、一瞬、躊躇したが、好奇心には勝てなかった。
店舗に入ると、そこには所狭しと箱が積み上がっていて、さらに壁際の棚には、まるで画材屋のように筆や塗料類が並んでいた。
物珍しさも手伝って、私は、ヤッちんを追ってきたのにも関わらず、カラフルなグラデーションのラベルに見入ってしまった。
「おい。」
油断していたところを後ろから声をかけられ、私は、叫び声を上げそうになった。
「田中じゃないか。何してるんだ? こんな所で。」
ヤッちんは、戦車の絵の描かれた箱を持って立っていた。
オリーブの実の色から派生した、一般に黒と黄の塗料を1対1で調合した、ダークオリーブブラウン、または灰色がかったオリーブ色。
OD色とも呼ばれ、各国の軍服、軍用車両、軍用機、重火器などに用いられている。
なんとなく、この色のことは、“カーキ色”と呼ぶのかと勘違いしていました。
カーキとは、ヒンディー語で土埃のことらしく、色としてはやや茶色がかった黄色だったのでした。
どちらにしても、ミリタリーな印象の色です。