5月1日 ターコイズ
5月1日
ターコイズ
Turquoise
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5月1日 ターコイズ
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今回の旅の最後の目的地は、あまり知られていない、と言うよりも観光地ではなかった。
そのため、宿泊先も普通の駅前のビジネスホテル。簡単なルームサービスはあるようだったが、割高でありながら食欲をそそられるようなものではなかったので、諦めて外に出た。
駅前の商店街だったらしき場所は、すっかり寂れた様子で、何軒もシャッターが閉まっていた。
あまり期待できそうもないと早々に理解した俺は、どこかにコンビニがないか探しながらシャッター通りを歩いた。
すると、一軒の小料理屋が開いているのが目に入った。地元の人向けなのだろうが、それ以上進んでも仕方なさそうだったので、引き戸を開けて中へ入ることに決めた。
「いらっしゃい。」
店の奥から人の声がして、中年の女が出てきた。そして、好きな席に座れと言い、盆に茶を載せて運んできた。
「メニューはこれ。お勧めは日替わり定食ね。」
そう女は言った。まるで日替わり以外は頼むな、と言われたような気がして、少しムッとしたが、何を頼んでも味に期待はできないだろうと勝手に想像し、結局、日替わり定食を頼んだ。
待っている間、鞄の中から取り出した手紙を読むことにした。
旅に出る日、郵便受けに入っていた封筒をそのまま持って出たのだが、差出人の名前を見て、何となくすぐには読まずに鞄の中に突っ込んだままにしていたものだ。それは、別れた妻からのものだった。
手紙には、礼が書かれてあった。
なぜ、今更こんな手紙をよこしたのか、意図は読めない。
「別れてくれて、ありがとう。」
自由になりたかった、と妻は言っていたっけ。
そして、封筒の中から、小さな青い石が出てきた。トルコ石だった。
旅のお守りだというその石は、12月生まれの妻の誕生石でもあった。
お互い、憎み合って別れたわけではなかった。なぜ、こんなことになってしまったのかも、実はよく分からない。ただ、もう一緒に旅行に出かけることはないのだ。
テーブルに運ばれてきた日替わり定食は、思いのほか量も豊富で、焼き魚が絶品だった。
味噌汁は具がたくさんで、味加減も好み。飯も美味い。
旅のお守りは、その効力を発揮してくれたようだ。
俺は、小さなトルコ石を失くさないように、慌てて、財布のファスナー付きの小ポケットの方に入れなおした。
写真はトルコ石。
青色から緑色の色を持つ不透明な鉱物で、その色。
トルコでトルコ石が産出されたわけではなく、トルコを経由してヨーロッパへと広まったというのが名前の由来らしい。
旅する石、である。