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誰でもいいので養育して欲しいが、貴様はちゃんと責任を取れ


とりあえず、拒絶されはしたものの、取り乱した憐れな女性による幼児殺害事件は回避できた私。


16歳で死ぬ呪いということは、16歳までは何が何でも死なないで安泰なんじゃなかろうかと慢心してはいけない。


前世の春野咲時代、児童養護施設から通っていることをからかってきたご学友と殴り合いの喧嘩をして刺殺事件にまで発展したのを覚えている。


「え、ちょ。侍女頭さん!?僕にこんなモノをどうしろというのです……!?」

「知りません。どうにかなさい」


さて現在。

ローザさん(仮)が「どこかへやって」と侍女頭に命じ、その侍女頭さんは「私は手があかないので」と厨房で芋の皮剥きをしていた青年に押し付けた。


調理見習いというその青年。

籠の中に入れられた私を嫌そうに眺める。


・・・・・・いや、ちょっと待ってほしい。

私は仮にもこの家の娘として迎え入れられたわけだ。

普通に考えれば、広くてあたたかな一室を私室として与えられて、子育て経験のある乳母とワンオペ防止のために多くの使用人が付けられるべきではないのか!?


「いや、どうにかって……」

「あなた、きょうだいが多いって言っていたでしょう。暫くお休みをあげるから実家で育てたら?」

「嫌ですよ!?うちは僕しか働けないんですから!!」


赤ん坊を押し付けられた上に収入も絶たれるとか、絶対嫌だろう。

青年は必死に頭を振って、ぐいっと私の籠を侍女頭に押し付ける。


子育てをするのだから給料はちゃんと出るかもしれない。

が、そこはコルキスの許可がなければわからないことだ。


この屋敷の組織形態がどうなっているのか私は知らないが、こういう時はきちんと上の人間が指示を出すべきだ。


(コルキスはそのあたり、無能ではないと思っていたが……やる気がないのか?)


戦場では兵士を人的資源、ただの数としながらも、その数がつまらないことで減らないように気を配っていた。


末端の人間がどう動けばいいかわからなくなっているのは上司の指示不足である。


(ふぅ、仕方ない。糞野郎だが、コルキスは私のかつての部下であるからな!ここは私がフォローしてやらねばならない)


言い争っている侍女頭と青年を気の毒に思った思いやりのある私は、すぅっと息を吸い込んだ。


「おぎゃあ、おぎゃあ、オギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


全力で泣く。

赤ん坊は泣くのが仕事で唯一の自己主張のための手段である。

これまで物わかりの良い赤ん坊である私は職務放棄していたけれど、ここにきて一生懸命泣いてみた。


「え?え?」

「ちょ、ちょっと、なんとかしなさいよ!」


狼狽える二人。


しかし何かできるわけではなく、私は泣き続ける。


「あ、あっ、もう!仕方ないな!!」


赤ん坊ってどれだけ泣き続けられるのか。体力の続く限り試すことになるのかと不安だった私を、ひょいっと、青年が私を抱き上げた。


「よーしよしよし、なんだ?腹が減ったのか?おしめは濡れてないもんなぁ……」


慣れた手つき。

きょうだいが多いと言っていたので、赤ん坊の世話をしたこともあるのかしれない。


「おぎゃぁ……」

「おっ、泣き止んだ。……僕らが、きみの事を邪魔だと思ってるって、怒ったのかな?」

「赤ん坊よ?そんなわけないじゃない」


私が泣き止むと、青年は微笑んだが、侍女頭の冷たい言葉に、むっとした様子を見せる。


「こどもだってちゃんとわかってるんですよ」

「そう。で?あなたが世話をするってことでいいのよね?私は執事長に報告してくるから」

「執事長さんに、ちゃんとこの子を育てるためのお金とか僕のお給料の話は確認してくださいよ」

「わかってるわよ。その子、一応『お嬢さま』なんですものね」


はぁ、と侍女頭は溜息をついた。


よし!計画通り……!


緊急事態になった時!その場の人は自分にある能力を無視できない!!


青年がわりと良い人だったが、ここで青年も名乗り出なかった場合、私の泣き喚く声を無視できなかった心優しい誰かが……こんな広い屋敷で使用人も多いので一人くらい現れるだろうという、なんと緻密な計画……!


無事に成功し、私はキャッキャと声を上げて喜んだ。


「あぁ、そっか。この子、僕らの『お嬢さま』になるんですよね。――はじめましてお嬢さま。僕はハンス。君を頑張って育てるから、大きくなったら僕に新しい家をくれたりしてもいいんだよ?」


冗談めかして言いながら、料理人見習いハンスは、お嬢さまお育て係となった。


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