暗夜の再会
「……なぜそなたは、いつも死んでしまうのか」
枕元に誰かが立ってる気がした。聞いた覚えのない声がする。
(誰だ……?)
うっすら目を開けようとするが、瞼が重い。
確か、カルロスとかいう生意気な王子に床に落とされて、大泣きした。そこまでは覚えている。それからどうなったのか。鼻血を出して息が苦しかったが、今は大丈夫だ。
「どうも、何度繰り返しても上手く行かぬ。一体どうしたものか」
何やらお悩みでいらっしゃるご様子の、知らん人。ぼそぼそと喋っている低い声は独り言なのだろう。私はなんだかとても疲れていた。体も重いし、とても眠い。このまま寝てしまった方が楽なのだが、枕元の知らん人が、思いつめているようなので放っておくのも中々薄情だろう。
「ぁうー、あ(自分でやって上手くいかぬことは、他の者の手を借りた方がよいぞ)」
私が話しかけたので、声の主は少し驚いたようだった。息を飲む音が聞こえ、私の額が撫でられる。大きな手だ。とても冷たい。
「ぁうー(それか、潔く諦めるのも一つである。別のことに挑戦すればいい)」
「それができぬゆえ、何度も繰り返している。いっそ、連れ去ってしまおうかと思うが、地上を想って泣き続ける姿は見たくない」
「(よくわからないが、大変だな)」
適当に相槌を打ち、私は声の主を励ます。低く、笑い声がした。
「(笑えているのなら、大丈夫だろう。悩んで苦しんで思いつめてどうしようもなくとも、笑えていれば結構なんとかなるものだ)」
何を悩んでいるのか知らないが、こんなに一生懸命やっているのだから必ず報われるさ。私は励まし、声の主の姿を見ようと目をあけた。
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「お嬢さま……っ!!公爵様!お嬢さまが……イザベル様が、目を覚まされました!」
「あぅ?(あれ?)」
気が付くと、目の前に泣きはらした顏のルシアがいた。
子供部屋。私のベッドだ。傍らにはソニアが、涙で顔をぐちゃぐちゃにしてベッドに縋りついている。
「……イザベル」
状況がわからず目を丸くしている私を、コルキスが呼ぶ。こちらは顔色が悪く、眉間に深い皺が刻まれていた。なんだかよくわからないが、各方面にご心配をおかけしたご様子である。
「あぅーあ?」
「……苦しくはないか。どこか痛みのあるところはないか。私がわかるか」
「ちーぅえ」
「そうだ。お前の父だ」
一体どうしたことか。状況を説明して欲しいが、アーサーが見当たらない。私のきょとん、としている顏に気付いたルシアが、赤ん坊ながら私に説明すべきだと気付いてくれた。
「イザベル様は高い所から落ちてしまい、額を強くうったのですよ。骨も折れてしまって……お顔も……あぁ……っ……」
うっ、とルシアが堪えきれず泣き出した。
「……酷すぎます……お嬢さまのお顔に……こんな……」
え、何?どうした?顏がどうした?まさかぐちゃぐちゃになって潰れたとか?
自分の顏に触れてみるが、鼻とか皮膚とか、口の位置とかそう変わっていないと思う。
しかし、左目やおでこの付近に触れると痛い。うーん……なるほど、これは……痣になったな?あとが残るタイプなのかもしれない。骨折したというが、体はちゃんと動く。この辺はアーサーや腕の治療魔法を使う医者が治してくれたのだろう。
顏に痣……まぁ、鏡がないのでどんな感じかわからないが、ルシアがここまで泣き崩れるので、きっと中々むごいのかもしれない。
となると、王族との婚約うんぬんは白紙かな?
それとも責任を取って娶られるのだろうか。その場合、私を落としたカルロスの嫁になってしまうのか……いや、そういえば、意識を失う前に、カルロスがダイソン少年に罪を擦り付けようとしていた気がする。
「ちーぅえ」
カルロスはメイドたちに無礼を働いたし、その辺の報告を受けているだろうコルキスがカルロスの言い分をそのまま信じるはずがない。きっと今頃悪事がバレてお仕置きをされているに違いないカルロスがちょと心配になる。
「娘よ。何も心配することはない。お前の顏に傷をつけた愚か者はこの父が二度とお前の目に触れぬ場所に送ってやる」
殺す気かな??相手は王子だぞ。いやいや、さすがにコルキスも王子に手出しはしないだろう。ここで王室と喧嘩してしまうと、折角の親アグドニグル計画が台無しになってしまう。ここはちょっとお尻を引っぱたくくらいの折檻で勘弁してあげてほしい。
「ルシア、ソニア、引き続き娘を頼むぞ」
「かしこまりました」
「はいっ、こうしゃくさま!」
私が意識を取り戻したので、コルキスはどこかへ行くようだ。立ち上がり、退室するその背中を見送り、私は眠気が襲ってきたので再び目を閉じた。




